小萩のかんざし いとま申して3 北村薫
文字数 1,596文字
作家・北村薫が、父の死後に遺されていた膨大な日記を考証、再生。ミステリ作家・本の達人としての腕を存分に振るいつつ、無名の一青年の目を通した昭和初期の歴史的シーンを繊細に愛情深く甦らせた三部作の完結編。
ドイツではヒトラー内閣が成立し、三月には東北三陸地方に大津波が押し寄せた昭和8年、父は慶応義塾大学を卒業するが、不景気の波が押し寄せる時代に就職口はない。文春の試験にも不合格し(池島信平が合格)、大学院に進むものの家の経済は苦しく、定期を買う金もない。崇拝する折口信夫から満足な評価を得る事もできず、国文学への情熱も断ち切るしかないのかと懊悩しながら東京、横浜をさまよう父の姿が哀切をもって描き出される。一方、文学史上の有名人物と折口信夫が敵対し、罵倒批判された数々の事件の真相に迫る著者の筆はスリリングかつ感動的。時代の背景と状況を踏まえ、文献、日記、関係者の随筆に散見される該当箇所を読み解きつき合わせることで、折口信夫の底知れぬ大きさと怖さ、師弟関係に潜む感情、国文学に生涯をかける人々の熱情と嫉妬があぶりだされる。横山重、佐々木信綱、池田弥三郎、祖父、父、学友たち-ー
あの時代を歩んだ有名・無名の人々の姿を捉える、感動の昭和史。
(文藝春秋BOOKSより)
作者の都合か、出版社の都合か。手元に置いておきたい、置いておくべきと勧めたい一冊だから、是非にも電子書籍での出版を検討してほしい。
紙書籍は絶版のリスクにさらされやすいし、文藝春秋には是非にも電子での配信、ならびにPODでの紙媒体提供の検討をお願いしたい。
それくらい折口信夫が偉大であったということでもあるんだけど。
折口信夫も横山重もその他登場する人物の全部をひっくるめて、まあ驚くほど丁寧に、そして多面的に分析してある。知識や気付き、この3部作を通じて読者が得るものはとても多いのだけど、ぼくとしてはこれ、「北村薫を好きになる本」という気がした。
出さない理由は最初からわかっていたよ。わかっていたからこそ北村薫の凄さが文面から浸み出ていたよね。
最後に言い訳をして名前を出したけど、言い訳をせずとも読者には伝わっていた。ちゃんと、わかってた。
そして、ようやく第1部の謎の女性の正体もわかったね。
また、本棚を眺めてピンときた一冊を取り出すことになる。何を読む、とは決めない。ぼくは活字になっていれば道路標識でも嬉しいタイプの人間だからね。
その時、その瞬間、その場でぼくの心をとらえた一冊が、次に読むものになる。