猫弁と指輪物語  大山淳子

文字数 1,881文字

10万部突破の猫弁シリーズ、第二弾のドラマ化に続き、第三弾も刊行。天才弁護士・百瀬のもとに持ち込まれた依頼は「密室猫妊娠事件」。鍵のかかった部屋で室内飼いの猫が妊娠した理由を探る百瀬に、盟友のまこと動物病院を訴えるという電話がかかってきた。アルビノのビルマニシキヘビを、まことが無断で転売したという。しかし百瀬は、翌日に婚約者の亜子にエンゲージシューズをプレゼントするための秋田旅行を控えていて……。


(「講談社BOOK倶楽部」より)

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000187972

確かにこの作家の書き癖に慣れてしまうと、あとはもうただただ、楽しい。
猫弁の賢く間抜けなところ、もう、しょうがないなあ・・・という気持ちになるよね。
新幹線のシーンはすっごく笑った。亜子さん、あまりに可哀想。
あの仕打ちはリアルじゃ大も大の大喧嘩になるんだけど、そこがそうはならずにうまい具合に丸く収まってしまうのがこの作品の“らしさ”なんだろうな。
でも、新幹線のあれは、リアルあるあるな気もしちゃう。
そうだね。「良いことを、したつもりでも逆効果」ってのは、ぼくも経験があるよ。
どっちの? した方? された方?
まあ、どっちもだね。……された方のほうが、多い気もするけど。
ふうん。
あまり……古傷を……抉るなよ。もうとっくにふさがってるんだから。
まあいいや。中身に入ろうか。
タイトルに『指輪物語』と付くように、ついに猫弁が亜子さんにエンゲージリング、ならざるエンゲージシューズをプレゼントする。
メインの事件は密室猫妊娠事件。
これは、正直わかりやすかったよね。そもそもの猫が違うって。
本物を拾ったのがトラック運転手で、まことさんの病院にやってきた、ってこともすぐわかったね。
ただ、そこで感動の母子の対面にまで至る、のが意外なところだった。
にしても、この小説って世界が狭い。

ん?

だって、話がまさかの野呂さんの指輪にまで繋がるんだもん。
この小説はね、小劇場で上演された粒よりの役者たち(数名)による濃密なお芝居、って感じがするんだよね。
? どういうこと?
大掛かりな舞台装置がないから背景は黒一色で、登場する役者たちがスポットライトの場所を変えながら小さな舞台を大きく使いこんでてね、それでいて誰もが主役級の役者たちが一切の無駄遣いをせずに最後まで演じ切るコンパクトさ。
うーん、ピンとくるような、こないような。
限られた役者、限られた空間を余すところなく使った結果、思いもかけない点と点が思いもかけない場所で繋がっている、と、言ったらいい?
………?
女優の指輪が野呂さん以外の男性からもらったものであってもいいわけだけど、そうすると、それだけのために役者を一人増やすことになるんだよ。この作品、そういう無駄はしていないってこと。
なるほど、存在する人間を使い回して間に合わせる、と。
いや、その言い方すると語弊がありすぎるけど(笑) 前に読んだシリーズもね、「偶然にしては出来すぎている」リレーションがやっぱりあったんだよ。でもそういうのって、お芝居の世界では案外ふつうのことだったりもするもので、その意味でそこが芝居の特異点だし、この小説が「ザ・フィクション」感を強く醸す理由でもある。
そういえば、前も「創作者の手によってそれぞれに特徴を割り当てられ役割が決められている。そういった調和がこの世界にはある。」って、圭さん言ってたね。
平たく言ってしまえば、お芝居っぽいんだ、この小説。箱の中で調和して完結してる。
ふむふむ。
だから、「偶然にしても出来すぎだい!」は、この小説では言ってはいけないんだね。
なるほどね。
と、そんなこんなでだいぶ話がふっとんだが、指輪ね、指輪。ぼくは正直、亜子さんそこまで泣くか? と驚きつつ、七重さんにはグッジョブと言ってあげたい気分。
婚約期間中に一度も指輪をはめなかった圭さんみたいな変わり者はそうそういないってことなんだよ。
だって、指輪なんて、邪魔じゃないか。可動域に違和感出るし、家事をするのにも邪魔だし。外出時だって、付けたまま手を洗うと隙間が汚い感じがするし、かといって外して洗えば失くしそうだし。
だから、そういう思考回路な人って圭さんくらいなんだって。
納得いかん!
いやいや、そういう問題じゃないでしょうが。

じゃあなんだ、灰猫、バジリオは君に指輪をくれたのか?

……くれなかった。
おねだりしたらよかったじゃないか。
いや、どうせくれるんだったら指輪より煮干しの方がぼく的には……って! 何を言わせるの!
ははははは!
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