猫弁と指輪物語 大山淳子
文字数 1,881文字
10万部突破の猫弁シリーズ、第二弾のドラマ化に続き、第三弾も刊行。天才弁護士・百瀬のもとに持ち込まれた依頼は「密室猫妊娠事件」。鍵のかかった部屋で室内飼いの猫が妊娠した理由を探る百瀬に、盟友のまこと動物病院を訴えるという電話がかかってきた。アルビノのビルマニシキヘビを、まことが無断で転売したという。しかし百瀬は、翌日に婚約者の亜子にエンゲージシューズをプレゼントするための秋田旅行を控えていて……。
(「講談社BOOK倶楽部」より)
猫弁の賢く間抜けなところ、もう、しょうがないなあ・・・という気持ちになるよね。
あの仕打ちはリアルじゃ大も大の大喧嘩になるんだけど、そこがそうはならずにうまい具合に丸く収まってしまうのがこの作品の“らしさ”なんだろうな。
そうだね。「良いことを、したつもりでも逆効果」ってのは、ぼくも経験があるよ。
まあ、どっちもだね。……された方のほうが、多い気もするけど。
あまり……古傷を……抉るなよ。もうとっくにふさがってるんだから。
タイトルに『指輪物語』と付くように、ついに猫弁が亜子さんにエンゲージリング、ならざるエンゲージシューズをプレゼントする。
これは、正直わかりやすかったよね。そもそもの猫が違うって。
ただ、そこで感動の母子の対面にまで至る、のが意外なところだった。
ん?
この小説はね、小劇場で上演された粒よりの役者たち(数名)による濃密なお芝居、って感じがするんだよね。
大掛かりな舞台装置がないから背景は黒一色で、登場する役者たちがスポットライトの場所を変えながら小さな舞台を大きく使いこんでてね、それでいて誰もが主役級の役者たちが一切の無駄遣いをせずに最後まで演じ切るコンパクトさ。
限られた役者、限られた空間を余すところなく使った結果、思いもかけない点と点が思いもかけない場所で繋がっている、と、言ったらいい?
女優の指輪が野呂さん以外の男性からもらったものであってもいいわけだけど、そうすると、それだけのために役者を一人増やすことになるんだよ。この作品、そういう無駄はしていないってこと。
いや、その言い方すると語弊がありすぎるけど(笑) 前に読んだシリーズもね、「偶然にしては出来すぎている」リレーションがやっぱりあったんだよ。でもそういうのって、お芝居の世界では案外ふつうのことだったりもするもので、その意味でそこが芝居の特異点だし、この小説が「ザ・フィクション」感を強く醸す理由でもある。
平たく言ってしまえば、お芝居っぽいんだ、この小説。箱の中で調和して完結してる。
だから、「偶然にしても出来すぎだい!」は、この小説では言ってはいけないんだね。
と、そんなこんなでだいぶ話がふっとんだが、指輪ね、指輪。ぼくは正直、亜子さんそこまで泣くか? と驚きつつ、七重さんにはグッジョブと言ってあげたい気分。
だって、指輪なんて、邪魔じゃないか。可動域に違和感出るし、家事をするのにも邪魔だし。外出時だって、付けたまま手を洗うと隙間が汚い感じがするし、かといって外して洗えば失くしそうだし。
納得いかん!
じゃあなんだ、灰猫、バジリオは君に指輪をくれたのか?
おねだりしたらよかったじゃないか。
ははははは!