第33話 探偵小説を探偵しましたのぢゃ!【17】

文字数 1,235文字

【17】

 そんでは、前回の続きでございますぞい。

 第三に、NHKドラマ版では、真犯人と動機が新解釈となった点ぢゃが、儂しゃ、この新解釈にはちと賛同できませんでしたのう。

 この事件は、主犯Aと、従犯B&Cによる共同犯行なんですがな、主犯Aが犯した最初の殺人を密かに目撃してしまったBとCが、主犯Aの犯行の隠蔽工作を行うのですわい。

 主犯Aと従犯Bは親族なのですがな、隠蔽工作を行なった際に、従犯Cが「今後は俺の言う通りにしろ。言う通りにしないと、Aの犯行をバラすぞ」とBを恐喝するんですな。

 それとは知らず主犯Aは、連続殺人を犯していくのですが、従犯Bはその都度、Aをかばうために隠蔽工作を行い、事件が複雑化するのですわい。
 一方の従犯Cは、その背後で犬神家の乗っ取りを画策していくのぢゃが、最後には主犯Aに殺される、ってのが、原作。

 で、NHKドラマ版の新解釈は、主犯Aに連続殺人をするように密かに仕向けたのは、従犯Bであり、善意の第三者的な存在であった従犯Cは、Bに利用されただけで、最後はAに殺される、って事になっておるのぢゃ。

 で、この新解釈を成立させるために、NHKドラマ版では、従犯Cのキャラクターを、原作の「悪意の恐喝者」から、「善意の第三者的な存在」に変更しておる訳ですぢゃ。
 しかしですな、儂しゃ、「原作の設定を変更しての新解釈は反則ぢゃろ」と思う訳ぢゃ。

 原作の設定を変更せずに、その設定のままで、更に考えられる新解釈を見出すなら拍手ものぢゃがな、原作の設定を変更していいなら、なんでもありになっちまうからのう。

 推理小説つーのは、プロットと登場人物の設定が肝なんぢゃから、そこは原作に手を付けてはならんと、儂しゃ思いますのぢゃ。

 で、その新解釈のシーンを最後に入れるために、本編の進行が早くなりすぎて、例の湖面から脚がニョキ!のシーンもサラッと通りすぎちゃう感じなんですわい。
 物語のそれぞれの見せ場や名シーンが弱くなってる感じがしましたのぢゃ。

 あと、最後にひとつ。
 真犯人を含む関係者一同の前で、トリックの種明かしと真犯人を解き明かしていく金田一耕助なんですがな、今回のドラマでは、種明かししていく金田一の表情と口調が、なんだか得意気なように感じられましたのぢゃ。
 
 この『犬神家の一族』の金田一耕助は、依頼を受けて現場にいながら、4連続殺人をまったく防げなかったと云う、自責の念と、連続殺人が起きてしまった悲劇の家族に対する憐れみの感情を抱いておる訳ですが、吉岡金田一には、その鬱屈した感情の表現があまり感じられなんだ。

 その場面での石坂金田一の演技は出色の出来でしたし、そのシーンがあってこその、ラストシーンの救いが生きていたのぢゃが、今回のNHKドラマ版のラストシーンの新解釈では、最後の最後まで救いがないまま終わるので、新しいと言えば新しいぢゃろうが、カタルシスを感じられんのは、儂としては消化不良の感じでスッキリとしませんでしたのぢゃ。
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