第28話 探偵小説を探偵しましたのぢゃ!【12】

文字数 1,173文字

【12】

 前回は、改造社から昭和3年に刊行されましたる『世界大衆文学全集』の中に、『ポー傑作集・江戸川乱歩名義訳』なる書籍があるそうな、と書いたところで終わりましたのぢゃがな、当時は、当然ながら『名義訳』では無く、『江戸川乱歩訳』のクレジットで出版されたはず、と考えて調べてみましたのぢゃ。

 するとやはり、当時は全集の第30巻が、『ポー・ホフマン集 江戸川乱歩訳』とクレジットされておりましてな、堂々と江戸川乱歩訳と表記されておりながら、実際は代役の無名作家が翻訳しておったそうなんですな。
(ちなみに、ホフマンはドイツの怪奇幻想作家)

 全集の売れ行きを良くする為には、訳者が無名の作家や翻訳家であるよりも、有名作家が翻訳したと謳う方が効果的であったが為に、有名作家了承のもと作家名義訳の書籍がバンバン出版されたそうですわい。

 ここで話は本題に戻る訳ですがの、これらの事実から、江戸川乱歩は英文は読めなかったのでは、と推測される訳ですわい。
 当時、『江戸川乱歩訳』とクレジットされた数々の書籍の、只の一冊も本人が翻訳してないそうですからの、こりゃ、やはり乱歩氏は英文は読めなかったと考えて差し支えなさそうでありますな。

 では、クリスティーが1923年(大正12年)にイギリスの週刊新聞に連載していた、『マースドン荘の悲劇』のトリックを参考にして、2年後の1925年(大正14年)に発表した『心理試験』にパクる事は出来たのか?つー疑問の答えとしては、当時まだ翻訳されていなかったクリスティーの作品を乱歩は読んでいなかった、と考えるのが順当のようですな。

 しかし、やっぱり「あの乱歩が、クリスティーの作品をパクっていた!」と云う方が、話としては面白いので、その可能性を探るために、いろいろとググッて調べてみましたがの、やはり手がかりはございませんでしたわい。

 何を調べたかと申しますとな、「本邦に於ける、アガサ・クリスティ作品の初出はいつなのか?」つー事なんてすがの、これはどう調べてみても、ネット情報からは見つけられませんでしたわい。

 ちなみに、昭和3年刊行の『世界大衆文学全集』の第21巻は、『シャーロック・ホームズ』の題名で、有名な短編9作品が収められておりましたがの、その中の『深紅の絲』と云う作品は、後年『緋色の研究』の題名で有名ですがな、この作品の本国での発表が1887年ですからの、40年も経ってから、本邦に於きまして全集に収められた訳ですな。

 まあ、当時は今と違って情報の伝達が格段に遅かったでしょうからのう、この位のタイムラグは普通だったのでしょうなあ。

 しかし、それにしても、本邦に於ける、アガサ・クリスティー作品の初出はいつなのかが、とても気になって気になって、夜も眠れず昼寝しておる儂ですのぢゃ。
 ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み