第29話 探偵小説を探偵しましたのぢゃ!【13】

文字数 1,057文字

【13】

 さて、さて、この探偵帳で長らく取り上げております、『マースドン荘の悲劇』でございますがの、今回は、そのテレビドラマ版『マースドン荘の惨劇』を取り上げますぞな。

 まず、この物語の原題はですな、
“The Tragedy at Marsdon Manor”
 となっておりましてな、Tragedyは、“悲劇”の他に“惨劇”と云う意味もあるようなので、テレビドラマ版の題名も、あながち大袈裟ではないのですな。

 しかしですな、小説の方はですな、日本語で16,000文字程度、400字原稿用紙で40枚程の小品でしてな、事件は連続殺人でもないし、トリックも単純だし、とても惨劇とは言い難い内容なんですな。

 ではなぜ、テレビドラマ版が、“惨劇”と大袈裟な訳題を付けておるかと云うとですな、ドラマの内容が、“惨劇”と謳うに相応しい、大幅な内容改変を行っておるからなんですわい。
 端的に言いますとな、ドラマ版の方はですな、舞台とトリック以外は好き勝手に作り変えておりますのぢゃよ。

 まず、ポワロの登場の仕方からして違いますのぢゃ。
 原作では、
『マースドン荘の主人の不審死に対して、保険金殺人を疑う保険会社からの依頼を受けたポワロが、調査の為に相棒ヘイスティングスを伴って現地に向う』
 なのに対して、ドラマ版では、
『ある地方の宿屋の主人が書いた探偵小説を送りつけられたポワロが、事件依頼だと勘違いしてしまい、ヘイスティングスを伴って、急遽マースドン荘に程近い宿屋に出かけて行く』
 と云う、全く原作とは関連のない幕開けとなっておるんですわい。

 ドラマ版では、宿屋の主人の三文小説の与太話に、「すぐにでもロンドンに帰る!」と腹を立てるポワロぢゃったが、帰りの列車は翌日まで無く、ポワロは仕方なくその宿屋に宿泊する事になるのぢゃよ。

 で、その日の午後は仕方なくその村を見物する事にしたのぢゃが、二人は偶然見つけた、蝋人形館を見物する事に。
 その蝋人形館で、自分の蝋人形を見つけて気を良くしたポワロは、ヘイスティングスに教えようとするのぢゃが、もう閉館だと追い出されてしまう、と云う無駄な小芝居が挿入されておるのぢゃよ。

 無論これ、宿屋の主人の件も、蝋人形の館の件も、原作には全く無い、ドラマ版のオリジナル改変ストーリーなんですわい。
 で、ドラマ版はそれ以降も、改変ストーリーをこれでもかと云う程に展開していくのぢゃがな、儂しゃ、そのドラマ版改変ストーリーを観ながら、「あれ? もしかして、これって?」とふと思った事があったのですわい。
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