第39話 『グレースの履歴』を探偵しましたのぢゃ!【6】

文字数 1,117文字

【6】

 しかしなんですな、この『グレースの履歴』と云う作品は、徹頭徹尾、男の願望が詰め込まれた物語のように儂には思えますのう。

 ①旧車マニアなら泣いて喜ぶ名車「S800」が全編に渡って登場
 ②「急死した妻が残した、カーナビの謎の履歴」と云うミステリー要素
 ③オープンカーを駆っての気ままな男の一人旅
 ④主人公が所有する「S800」が、かつてモナコ公妃グレース・ケリーの愛車であったと云うサプライズ蘊蓄
 ⑤妻には深く愛され、一人旅の途上で出会った美女には好意を寄せられ、旅の最後に出会った元カノは復縁をほのめかし、とモテモテの主人公

 男なら、人生で一度はこんな旅をしてこんな時間を過ごしてみたい、と思えるロード・ムービーでございますのぢゃ。
 しかし、背景や小道具の妙だけで終わってしまいますと、現代の婦女子の皆様の共感は得られん訳でしてな、この作品には深~いメイン・ストーリが描かれておる訳でございますのぢゃ。

 少年時代から孤独な人生を歩んできた主人公と、その主人公を深く愛し、主人公が心の奥底に抱える孤独を理解する妻の存在。
 夫の孤独を理解するゆえに、自分が不治の病にかかっている事を隠す妻。
 夫のためにどうしても子供を生みたい妻は、不妊治療と難病治療の二択を迫られ、不妊を治療を優先した結果、妻の病状は悪化する。
 妻は自分が先に病死することも考えて、夫が一人きりなったときのため、生前に自分がやれることはやっておこうと、ひそかに愛車グレースで夫にゆかりのある日本各地を巡る。
 はたして妻は、夫を残して先立つのだが、それは病死ではなくて旅先のフランスでの交通事故死だった。

 と云うような、なかなか深いメイン・ストーリー・なのぢゃがな、妻がフランスで事故死し、主人公が現地で妻の遺体と面会するシーンは、物語の冒頭とラストの二回出てくるのぢゃがな、その第8回の『永遠の孤独』と云う最終回が、主人公にも妻にも、そしてドラマをご覧の皆の衆にも、涙々の号泣物語となっておるのぢゃよ。ふむ。

 このドラマは、『グレース』と云う小説が原作となっておるのですがな、原作小説の出版社が文芸社と云う自費出版の有名どころでしてな、その後『グレースの履歴』に改題されて、河出書房から出版されておりましてな、そんな経緯から察するにですな、この作品、最初は自費出版で出版され、その後見出されてメジャー出版され、ついにはNHKドラマにまでなったのではないかと、儂探偵は睨んでおりますのぢゃ。

 このサイトに投稿なされております皆の衆の方々、皆の衆の作品も、いつか誰かに見い出されメジャーになることがあるかもしれませんからのう、お互いにがんばって投稿いたしましょうぞな。
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