第73話 怪しい動き
文字数 1,933文字
【天十郎は】
「しかし、放置はできません。吉岡から夏梅の再婚歴を聞かれて、質問された俺が答えなくてはいけないのに、蒲がノーコメントを貫いているので、かえって憶測を呼んでしまっている。対応方法を考えないといけないと思っています。このままでは、あまりにも展開が怪しくなる」
「そうだな。蒲が裏で動いていたら…。あっ、いや別に、気にするな」
「いいのです。このままだと、夏梅一人が、蒲とのスキャンダルを被る事になります。僕らのバランスが崩れても、やらないといけない事があると、今は思っています。このまま蒲に任せず、僕が対応しようと思います」
「そうでしたか」
「前夫の塁は、警察でも三月に事故死となっているので、そのショックで夏梅は二か月間入院し、退院後に取材で出会った俺が、猛烈にアタックして、一年後に再婚という時系列の事実と相違ない範囲で収めようかと思っていますがどうでしょうか?」
「蒲とのスキャンダルは?」
「あくまで、蒲は夏梅の幼馴染でマネージャーとして、夏梅と僕を助けていると言う事で突っぱねます。急に対応を変えると世間の話題をさらいますし、夏梅は相変わらず、雄を刺激するので、蒲がいないと生活ができないのですから、どうしようもないです」
「それが良いですね。丁度、美術館でのツーショットの写真も露出していますし、結婚前のスキャンダルも、吉江さんの事件も辻褄があいますから、そうしようか。その線で記者会見より先に、記事を出した方がいいだろ」
「立花編集長、うまいこと、お願いします」
「それにしても、あの美術館のツーショットの写真は、凄かったな」
「マタタビ女全開で、夏梅が『モネ』と言った時の写真ですよね」
「夏梅の顔は天十郎君に隠れているが、天十郎君に抱きかかえられ、見つめ合ってブカブカのセーターで豊かな胸の線が綺麗に出ていてさ…」
「ああ、あれは、偶然に会った元カノの美来から逃げるための小芝居に、俺と蒲のSEXビデオを撮らせる条件で夏梅が乗ってくれました」
【立花編集長は大笑いした】
おい、天十郎、違うだろ。家族と子供を作ってやるという条件だったぞ。まさか、お前が、自分で作るとは思わなかったが…。
「いやー、凄まじいな。それで本当に夏梅はSEXビデオを撮ったのか?」
「いえ、夏梅は大型犬には興味ないそうです」
「君達の関係やエピソードにはいつも驚かされるが、その秘話を公開したいよ」
「いやいや、イメージが大切ですから」
「それは、もちろん。今や人気女流作家と人気俳優、あれから20年、子供達と愛の溢れる生活の独占記事にしようか?」
「いや、巷では、仮面夫婦とも囁かれているし、今回は夏梅がターゲットになっているから、下手な記事は、煽る事になるからまずいです」
「君も、寡黙な家族を守るヒーローイメージだが、実際にはかなり違うからな、夏梅さんも華やかなイメージだけど、二人共まったく逆だし。子供達が一緒だとばれるな」
「僕達、二人共、仲が悪そうで、悪くないですし」
「そうだよね。最初は、幼稚園児の喧嘩をしていたけれど」
「今もしています。子供の取り合いで」天十郎が笑った。
「とにかく了解したよ。黒川氏と相談して、うまい展開を考えよう」
【僕らにとっては】
立花編集長はとてもいい相談相手だったが、天十郎と立花編集長は、信頼で結ばれているわけではない。お互いの利益で結ばれている関係だ。さすがに天十郎も本当の事は話さない。
彼らが夏梅の事をただひたすら寡黙にしているのは、表ざたにしても面倒なだけで、なんの利益もないからだ。しかし、夏梅は、天十郎と一緒にいる限り、彼らの利益の対象となるのは仕方のない事だ。
ただ心配なのは、天十郎の妻と言う付加価値で、人気女流作家になったものの殆ど作られた幻想に近い。夏梅にそれほどの実力が、あるとは思えない。天十郎が気軽に話した事も、いずれ夏梅に跳ね返る。
一度、この関係に、ひびが入れば、夏梅はマタタビ女として曝し者になる可能性がある。自分自身を売る仕事は、周囲が無事でも本人は逃げ場がなくなる。逃げ場である夏梅の自宅を確保しているとはいえ、リスクは大きい。
蒲との戦に明け暮れていないで、それまでに、夏梅自身に力をつけなければならないだろう。今日の味方は明日の敵だ。ビジネスの世界はそういうものだ。いつでも、晒し者になって切り捨てられてもいいように、準備をさせないといけない。
【帰り際に、天十郎は一人ごとのように】
「これでいい。あの状態でこれしか方法がなかったじゃないか」
自分に言い聞かせるように、何度も何度も…。どうやらかなり揺さぶられているようだ。天十郎のベクトルが出来るだけ、夏梅に向いていてもらえると嬉しいが、僕も慎重に行動しなければならない。
「しかし、放置はできません。吉岡から夏梅の再婚歴を聞かれて、質問された俺が答えなくてはいけないのに、蒲がノーコメントを貫いているので、かえって憶測を呼んでしまっている。対応方法を考えないといけないと思っています。このままでは、あまりにも展開が怪しくなる」
「そうだな。蒲が裏で動いていたら…。あっ、いや別に、気にするな」
「いいのです。このままだと、夏梅一人が、蒲とのスキャンダルを被る事になります。僕らのバランスが崩れても、やらないといけない事があると、今は思っています。このまま蒲に任せず、僕が対応しようと思います」
「そうでしたか」
「前夫の塁は、警察でも三月に事故死となっているので、そのショックで夏梅は二か月間入院し、退院後に取材で出会った俺が、猛烈にアタックして、一年後に再婚という時系列の事実と相違ない範囲で収めようかと思っていますがどうでしょうか?」
「蒲とのスキャンダルは?」
「あくまで、蒲は夏梅の幼馴染でマネージャーとして、夏梅と僕を助けていると言う事で突っぱねます。急に対応を変えると世間の話題をさらいますし、夏梅は相変わらず、雄を刺激するので、蒲がいないと生活ができないのですから、どうしようもないです」
「それが良いですね。丁度、美術館でのツーショットの写真も露出していますし、結婚前のスキャンダルも、吉江さんの事件も辻褄があいますから、そうしようか。その線で記者会見より先に、記事を出した方がいいだろ」
「立花編集長、うまいこと、お願いします」
「それにしても、あの美術館のツーショットの写真は、凄かったな」
「マタタビ女全開で、夏梅が『モネ』と言った時の写真ですよね」
「夏梅の顔は天十郎君に隠れているが、天十郎君に抱きかかえられ、見つめ合ってブカブカのセーターで豊かな胸の線が綺麗に出ていてさ…」
「ああ、あれは、偶然に会った元カノの美来から逃げるための小芝居に、俺と蒲のSEXビデオを撮らせる条件で夏梅が乗ってくれました」
【立花編集長は大笑いした】
おい、天十郎、違うだろ。家族と子供を作ってやるという条件だったぞ。まさか、お前が、自分で作るとは思わなかったが…。
「いやー、凄まじいな。それで本当に夏梅はSEXビデオを撮ったのか?」
「いえ、夏梅は大型犬には興味ないそうです」
「君達の関係やエピソードにはいつも驚かされるが、その秘話を公開したいよ」
「いやいや、イメージが大切ですから」
「それは、もちろん。今や人気女流作家と人気俳優、あれから20年、子供達と愛の溢れる生活の独占記事にしようか?」
「いや、巷では、仮面夫婦とも囁かれているし、今回は夏梅がターゲットになっているから、下手な記事は、煽る事になるからまずいです」
「君も、寡黙な家族を守るヒーローイメージだが、実際にはかなり違うからな、夏梅さんも華やかなイメージだけど、二人共まったく逆だし。子供達が一緒だとばれるな」
「僕達、二人共、仲が悪そうで、悪くないですし」
「そうだよね。最初は、幼稚園児の喧嘩をしていたけれど」
「今もしています。子供の取り合いで」天十郎が笑った。
「とにかく了解したよ。黒川氏と相談して、うまい展開を考えよう」
【僕らにとっては】
立花編集長はとてもいい相談相手だったが、天十郎と立花編集長は、信頼で結ばれているわけではない。お互いの利益で結ばれている関係だ。さすがに天十郎も本当の事は話さない。
彼らが夏梅の事をただひたすら寡黙にしているのは、表ざたにしても面倒なだけで、なんの利益もないからだ。しかし、夏梅は、天十郎と一緒にいる限り、彼らの利益の対象となるのは仕方のない事だ。
ただ心配なのは、天十郎の妻と言う付加価値で、人気女流作家になったものの殆ど作られた幻想に近い。夏梅にそれほどの実力が、あるとは思えない。天十郎が気軽に話した事も、いずれ夏梅に跳ね返る。
一度、この関係に、ひびが入れば、夏梅はマタタビ女として曝し者になる可能性がある。自分自身を売る仕事は、周囲が無事でも本人は逃げ場がなくなる。逃げ場である夏梅の自宅を確保しているとはいえ、リスクは大きい。
蒲との戦に明け暮れていないで、それまでに、夏梅自身に力をつけなければならないだろう。今日の味方は明日の敵だ。ビジネスの世界はそういうものだ。いつでも、晒し者になって切り捨てられてもいいように、準備をさせないといけない。
【帰り際に、天十郎は一人ごとのように】
「これでいい。あの状態でこれしか方法がなかったじゃないか」
自分に言い聞かせるように、何度も何度も…。どうやらかなり揺さぶられているようだ。天十郎のベクトルが出来るだけ、夏梅に向いていてもらえると嬉しいが、僕も慎重に行動しなければならない。