第46話 心配事

文字数 1,256文字

「なにか対応方法はありますかね?」黒川氏が立花編集長に聞いた。
「うちの弁護士に相談してみよう、何か方法があるかも知れない」
「ええ、ぜひ、うちの弁護士とも一緒に、住所の件も含めて今の事務所との交渉が先ですね」
「ああ、茂呂社長の条件付き提案もあるので…」
「今の話だと、この九月で契約が切れているだろ。それを三月まで伸ばして、今の事務所の契約が切れる四月から新たに契約したい意向か?まあ、あっているな」
「今の事務所のコマーシャルタレントは、契約違反で契約解除になっていると聞いている。それに、広報の仕事、月三回の化粧品の代理店研修の参加も、新たに追加されてきた」


【その時、すっかり落ち込んだ夏梅が入って来た】

 立花編集長が「お、夏梅ちゃん今日のパンツ素敵だね」と声をかけた。
「立花編集長!こんにちは。これ!天十郎の七分丈のチノパン。ちょうどいいでしょ」夏梅は元気を振り絞って答えた。

「ウエストどうしているの?」
「スカーフで縛っている!」
 腰から長く垂れているスカーフを手元で遊びながら、ベビースマイルを見せた。

「お前また俺のか、お前、帰れよ」声をかけた天十郎に近づき
「蒲と帰れってか?」
「俺と帰るか?」
「いやだぜ」
「蒲はどうしたの?」
「しらない、吉江さんと話でしょ」不貞腐れている。僕が叱ったからテンションは低めだ。

「塁の洋服はどうしたの?ちょうどサイズが合っていたよね。蒲と天十郎のサイズだとかなり大きいでしょ?」立花編集長が聞いた。夏梅は頷き
「それが、家に帰ったらもう何もなかった」

 僕にも、僕の両親にも、夏梅はとてもいい子だった。だから余計に蒲と一緒の夏梅に耐えられなかったのか、僕のものを全部持って引越をしてしまった。だから夏梅が着られる物が一枚も残ってないのだ。

「そうか、残念だったな」
 夏梅は寂しそうな顔を見せた。そんな夏梅をまったく無視して、天十郎は自分のチノパンツが気になるようで、さっきからシャツをめくろうとして、夏梅とぴったりくっついて小競り合いを始めた。

 どうみても傍からは、ねちっこく、いちゃついているカップルに見える。


【夏梅は最近】

 外出する際は、天十郎にくっついていれば、大きなトラブルにならない事を理解している。周囲の男達も、仲良く天十郎にぴったりくっついた夏梅を、遠巻きにするしか方法がないのだ。

 黒川氏が、天十郎と夏梅のカップルをつくづく見ながら聞いた。

「しかし、君たちのツーショットは圧倒されるな。夏梅ちゃんは不思議な子で、いるだけでお客さんが増える。お客さんを呼ぶ子だし、蒲はあの通り黙っていれば、かなりのいい男だろ、二人が協力してくれるなら、天十郎君の事を本気で考えてもいい。夏梅ちゃんはどう思う?」
「どうって、なんの話かわからないよ」
「天十郎君の事務所を新しく、僕らが作れるか検討しているところだが、私達はコネが少ないからな。九月から蒲が根回しをしてくれている事は知っている?」
「天十郎の住所を隠す話?」
「そうだよ。今のところ夏梅ちゃんに担当してもらうのは、記念式典だけど…」
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登場人物紹介

夏梅(なつめ)…フリーライター。

亜麻 天十郎(あま てんじゅうろう)…精悍な顔立ちのイケメン俳優。

真間 塁(まま るい)…夏梅の家で暮らしている僕。

蒲 征貴(かば まさたか)…夏梅の同居人。可愛い童顔に似合わない行動を起こす。

黒川 典文(くろかわ のりふみ)…だてメガネの黒川氏 夫婦で美容室を経営 僕たちのよき先輩。

黒川 日美子(くろかわ ひみこ)…黒川氏の奥さん 幼い頃から夏梅をみている。

積只 吉江(つみた だよしえ)…黒川氏の美容室スタッフ。夏梅と極端に反発しあう。

立花 孝之(たちばな たかゆき)…釣り仲間の先輩。雑誌編集長。

紅谷 和樹(べにや かずき)…メークアップアーティスト。僕らの関係に興味を持つ。

茂呂 鈴里(もろ すずり)…化粧品メーカーの社長。天十郎に固執している。

梶原 美来(かじわら みらい)…天十郎の元カノ。美術館で騒ぎを起こす。

吉岡 修史(よしおか しゅうし)…編集記者。夏梅達の関係を暴露しようとする。

亜麻 日咲(あま にこ)…20歳 別名ニコラッチ

亜麻 禾一(あま かいち)…19歳 早々に結婚して芸能界へ

亜麻 玉実(あま たまみ)…17歳 夏梅二世

亜麻 叶一(あま きょういち)…15歳 全寮制の男子校に通っている。大物

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