第14話 夏梅はスッポン体質だから
文字数 1,685文字
その蒲と天十郎の会話を聞いていた夏梅は呆れかえり
「なにを言っているのかね。つかれるわ。馬鹿馬鹿しい、仕事中に付き合う話題じゃないわね」
髪をぐちゃぐちゃにして、眠そうにあくびをした。その表情を見た蒲が
「このボロ雑巾のような、目がほとんど開いていない状態の夏梅は、粗大ごみのシールを買いに行きたくなる」
「ちぃ」夏梅は舌打ちした。
「これだよ、俺らにはこのふてぶてしい態度。この表情。目もろくに合わせようとしない。腹ただしい。ぶちのめしたくなる」
蒲がまるで、汚い物でも見たような言い方だ。
「いや、これはこれで憎々しい邪悪キャラギャップはいいね。オレは嫌いじゃない」
天十郎が言うと、蒲が拳を天十郎の頭に落とし、手前で止めた。
天十郎の言葉に、機嫌を直したように夏梅は「そんなにひどい」と独り言を言った。
「顔を洗ってこい」蒲がいうと不満そうに「うん、ボロ雑巾のようか…」とぼぞぼそと言っている。
傍観していた僕は「いい女だな」思わず、ぐちゃぐちゃの頭のボロ雑巾のような夏梅の目と耳の間にキスをした。
「夏梅は素直に騙されてくれるところがいいよ。誰かみたいに面倒臭くないから人として好きだ」
ノロノロと洗面所に夏梅が歩き出すと、少し照れ臭そうに天十郎がいいながら、夏梅の後ろについていった。
蒲はひたすら気分が悪そうだ。
「信じられない、やっぱりボロ雑巾が本気で好きなのはお前くらいだ」
【蒲は大きな声で吐き捨てると、キッチンに向かった】
「お前はいつも頭に来ると、心にもない事を言って、逃げるからダメなんだよ」僕は蒲を追いかけた。
蒲の言葉を、自分に言われたと勘違いした天十郎は戻って来て
「おい、蒲、焼いているのか?」
天十郎は嬉しそうに、キッチンに入ると蒲の背中にべったりくっ付き、
「でも、どうしてだ?なんで写真と実物が違う?」
蒲に話かけながら、遅いブランチの仕度を始めた。
「さあね」
小首をかしげ、あまり興味がないようなそぶりをしている。僕は蒲のそばで
「写真と実物の何が違うかと言うと、夏梅は目が大きいのによく見ると瞳孔が片方だけ、丸くなくて下の方に崩れている。そのせいで瞳の光の反射が微妙に違う。それが写真では写らない。あいつはなにもかも完璧なのに瞳孔だけ微妙にバランスがとれてない。人が意識できないところで、その光の微妙なバランスの崩れが愛くるしいのだ」
蒲が、僕の最後の愛くるしいという言葉に、あきれた顔でみた。僕は平気な顔で続けた。
「夏梅は他人に声をかけられることが嫌いだから、人と向き合うとき緊張で、口角が1ミリほど上がるのと、目が0.51ミリほど大きくなる。それが見る側の印象として自分にベビースマイルを投げかけているように見える。これはどうしようもない事だ」
僕はニヤリと笑い、蒲の前に立ちはだかった。蒲はため息を漏らすと、口を一文字にギュと強く締め「クソが」とつぶやいた。キッチンでブランチの支度で忙しい天十郎は、蒲の小さな、その声が聞こえなかったようだ。
【蒲はキッチンから出てきて、リビング側のキッチンカウンターに座った】
コーヒーを入れながら僕に聞いて来た。
「いい女の条件は、なんだ?」
「突然だな。凛としているが、物腰が柔らかく、温かい。隙だらけなのにガードが堅い。世間慣れしていない。媚びない。自立している。嘘がつけない。他の男に興味を示さない。僕だけに愛情表現をする。芯は強くて我慢強いが脆い。たった一つの欲しかない」
「お前が言うと悲しいよ。そのたった一つの欲とは、なんだよ」
「僕だけが欲しい」
「ふん、愛情表現は?」
「甘える」
「その条件があれば、憎々しい邪悪キャラでも許せるのか」
「お前って時々アホだな。僕に夏梅が憎々しい邪悪キャラなんか見せる訳ないだろ。お前らだからだよ。あいつは僕に甘えて、たくさんの泣き言は言うけれど、決して僕に苛立ったりしない」
自慢げに言うと蒲が
「わからん。あいつはお前が思っているほど、シンプルではない。欲深い女だ」
「ああ、そうだな。夏梅はスッポン体質だから、一度、掴んだものは、放そうとしない」
「お前、知っていたのか」
「なにを言っているのかね。つかれるわ。馬鹿馬鹿しい、仕事中に付き合う話題じゃないわね」
髪をぐちゃぐちゃにして、眠そうにあくびをした。その表情を見た蒲が
「このボロ雑巾のような、目がほとんど開いていない状態の夏梅は、粗大ごみのシールを買いに行きたくなる」
「ちぃ」夏梅は舌打ちした。
「これだよ、俺らにはこのふてぶてしい態度。この表情。目もろくに合わせようとしない。腹ただしい。ぶちのめしたくなる」
蒲がまるで、汚い物でも見たような言い方だ。
「いや、これはこれで憎々しい邪悪キャラギャップはいいね。オレは嫌いじゃない」
天十郎が言うと、蒲が拳を天十郎の頭に落とし、手前で止めた。
天十郎の言葉に、機嫌を直したように夏梅は「そんなにひどい」と独り言を言った。
「顔を洗ってこい」蒲がいうと不満そうに「うん、ボロ雑巾のようか…」とぼぞぼそと言っている。
傍観していた僕は「いい女だな」思わず、ぐちゃぐちゃの頭のボロ雑巾のような夏梅の目と耳の間にキスをした。
「夏梅は素直に騙されてくれるところがいいよ。誰かみたいに面倒臭くないから人として好きだ」
ノロノロと洗面所に夏梅が歩き出すと、少し照れ臭そうに天十郎がいいながら、夏梅の後ろについていった。
蒲はひたすら気分が悪そうだ。
「信じられない、やっぱりボロ雑巾が本気で好きなのはお前くらいだ」
【蒲は大きな声で吐き捨てると、キッチンに向かった】
「お前はいつも頭に来ると、心にもない事を言って、逃げるからダメなんだよ」僕は蒲を追いかけた。
蒲の言葉を、自分に言われたと勘違いした天十郎は戻って来て
「おい、蒲、焼いているのか?」
天十郎は嬉しそうに、キッチンに入ると蒲の背中にべったりくっ付き、
「でも、どうしてだ?なんで写真と実物が違う?」
蒲に話かけながら、遅いブランチの仕度を始めた。
「さあね」
小首をかしげ、あまり興味がないようなそぶりをしている。僕は蒲のそばで
「写真と実物の何が違うかと言うと、夏梅は目が大きいのによく見ると瞳孔が片方だけ、丸くなくて下の方に崩れている。そのせいで瞳の光の反射が微妙に違う。それが写真では写らない。あいつはなにもかも完璧なのに瞳孔だけ微妙にバランスがとれてない。人が意識できないところで、その光の微妙なバランスの崩れが愛くるしいのだ」
蒲が、僕の最後の愛くるしいという言葉に、あきれた顔でみた。僕は平気な顔で続けた。
「夏梅は他人に声をかけられることが嫌いだから、人と向き合うとき緊張で、口角が1ミリほど上がるのと、目が0.51ミリほど大きくなる。それが見る側の印象として自分にベビースマイルを投げかけているように見える。これはどうしようもない事だ」
僕はニヤリと笑い、蒲の前に立ちはだかった。蒲はため息を漏らすと、口を一文字にギュと強く締め「クソが」とつぶやいた。キッチンでブランチの支度で忙しい天十郎は、蒲の小さな、その声が聞こえなかったようだ。
【蒲はキッチンから出てきて、リビング側のキッチンカウンターに座った】
コーヒーを入れながら僕に聞いて来た。
「いい女の条件は、なんだ?」
「突然だな。凛としているが、物腰が柔らかく、温かい。隙だらけなのにガードが堅い。世間慣れしていない。媚びない。自立している。嘘がつけない。他の男に興味を示さない。僕だけに愛情表現をする。芯は強くて我慢強いが脆い。たった一つの欲しかない」
「お前が言うと悲しいよ。そのたった一つの欲とは、なんだよ」
「僕だけが欲しい」
「ふん、愛情表現は?」
「甘える」
「その条件があれば、憎々しい邪悪キャラでも許せるのか」
「お前って時々アホだな。僕に夏梅が憎々しい邪悪キャラなんか見せる訳ないだろ。お前らだからだよ。あいつは僕に甘えて、たくさんの泣き言は言うけれど、決して僕に苛立ったりしない」
自慢げに言うと蒲が
「わからん。あいつはお前が思っているほど、シンプルではない。欲深い女だ」
「ああ、そうだな。夏梅はスッポン体質だから、一度、掴んだものは、放そうとしない」
「お前、知っていたのか」