第23話 口から真実は出てこない
文字数 1,809文字
今日、やっぱり釣りに一緒に行けば良かった。と後悔していた。
「口から真実は出てこない」と、よく黒川氏から言われたものだ。
口から言い訳は出て来ても、真実が語られる事は滅多にない。だから自分自身で掴むしかないのだ。黒川氏夫婦は口が堅い。美容という客商売で多くの情報が入るが、よほどの事がないと話さない。
僕は立花編集長の所を訪ねようか考えていたところ、膝もとでゴロゴロしていた夏梅が天十郎を指さして「!行方不明!」と叫んだ。
「えっ」天十郎は夏梅を見た。黒川氏が申し訳なさそうに
「いやね。天十郎君のタイアップ記事の話から、今、天十郎君が、行方不明でひと騒ぎになっていると立花編集長から言われていてさ、それでカバーガールのポートレートサンプルも極秘で我々だけでおこなったのさ。今日の釣りの席でもその話が出て、茂呂社長がかなり強引で…」
最後に言葉を濁した。
「はあ」天十郎は暗い顔をして、ため息だ。
「なんで、そんな事になっているのかわからないが、いや、もちろん、君が新しい同居人だという話は、立花編集長にもしていない。天十郎君自身が解決すべき問題だからね」
「誰にも言わずに、必要な荷物だけ持って来たし、来る途中で携帯を捨てたから、ご迷惑をおかけしてしまったようで」
「マネージャーにも言わずに?」
黒川氏が驚いた顔をすると、天十郎は申し訳なさそうに頷いた。
「それで、行方不明なのか。そうか、君がそこまで、そうしたかった事情があるのだろう」
「ただね~」
日美子さんがため息をつき、黒川氏が続けた。
「大手ではないが化粧品メーカーの茂呂社長は知っているかな?」
「ええ」蒲が答えた。
「彼女が騒ぎ立てているようで、早めに解決しないと面倒な事になりそうだという事だ。出来るだけ早く立花編集長に会って対応策をとらないと」
天十郎は迷っている顔をしている。天十郎のスポンサーらしいが、無理を押し通すその社長の事を、気持ち悪いと言うほど嫌がっていた。
「あのね。うるさい事を言いたくないのだけど、天十郎さんがいる事で、この家のメンバーに関心が集まるでしょ。対応策は練らないとね」
日美子さんが微笑んだ。よっぽど嫌なのか、天十郎の顔はますます暗くなる。空気が暗く澱み始めたが蒲は知らん顔をしている。
その顔をチラチラと見ていた夏梅が
「それ!ようは、ここの住所が表に出なければ問題ない。それに行方不明にならなければいいのでしょ。日美子さん達はいつも助けてくれるから相談すればいい」
澱んでいた空気が少し和らぎ、黒川氏夫妻は顔を見合わせた。
「元に戻るのが最善だと思うけれど…。まあ、今のところ、私たちに被害はないし、折角、引っ越したばかりだしね。しばらくはこのままいられるように、私たちも協力するから」
黒川氏が慰めるように言った。
蒲は、物事の展開が自分の思う方に進んでいない事に、腹を立てたのか、黒川氏夫妻や天十郎が座り込んでいるそばをするりと抜けて、リビングを出た。
【玄関ホールを抜けて反対側にある洗面所まで蒲を追いかけた】
鏡越しに目線があった蒲は「よせよ」突き放すように目線をそらした。僕は笑って
「お前がマネージメントすればいいだろ」
「俺が?冗談だろ」馬鹿馬鹿しいという顔だ。
「茂呂社長ってスポンサーだろ?スポンサーから逃げたら事務所とのトラブルは明白だ。事務所に掛け合って、黒川氏の美容室の専属モデルで契約して、広告料として美容室の住所を貸してもらえよ。簡単だろ。天十郎をスポンサーに返すか、蒲がマネージメントするかどっちかだ」
「ばかいえ、そんな事できないよ」
「黒川さん、そろそろ美容室から抜け出して事業展開したいって、聞いたことがある。振って見ろよ。今回の夏梅のカバーガールの件もうまくまとめたぞ、才覚はある」
「馬鹿馬鹿しい」
「自由にすればいい。天十郎には出て行ってもらえばいいだろ。僕はどっちでもいいぞ」
【僕は蒲を洗面所に残しリビングに戻った】
暫くすると蒲がリビングに戻って来て黒川氏夫妻と話し始めた。
「黒川さんは事業展開を考えていますか?」
「蒲、どうしてそれを知っている?」
「いや、今の事務所のトラブルを解消出来るのなら、俺も全面的に協力します」
「蒲?お前が?」
「今の生活、結構、気に入っています。お前どう?」
蒲が天十郎にふったが、天十郎は黙っていた。僕は、彼らを全く無視して、夏梅が釣りで日焼けした、おでこと鼻の頭を撫でていた。
「口から真実は出てこない」と、よく黒川氏から言われたものだ。
口から言い訳は出て来ても、真実が語られる事は滅多にない。だから自分自身で掴むしかないのだ。黒川氏夫婦は口が堅い。美容という客商売で多くの情報が入るが、よほどの事がないと話さない。
僕は立花編集長の所を訪ねようか考えていたところ、膝もとでゴロゴロしていた夏梅が天十郎を指さして「!行方不明!」と叫んだ。
「えっ」天十郎は夏梅を見た。黒川氏が申し訳なさそうに
「いやね。天十郎君のタイアップ記事の話から、今、天十郎君が、行方不明でひと騒ぎになっていると立花編集長から言われていてさ、それでカバーガールのポートレートサンプルも極秘で我々だけでおこなったのさ。今日の釣りの席でもその話が出て、茂呂社長がかなり強引で…」
最後に言葉を濁した。
「はあ」天十郎は暗い顔をして、ため息だ。
「なんで、そんな事になっているのかわからないが、いや、もちろん、君が新しい同居人だという話は、立花編集長にもしていない。天十郎君自身が解決すべき問題だからね」
「誰にも言わずに、必要な荷物だけ持って来たし、来る途中で携帯を捨てたから、ご迷惑をおかけしてしまったようで」
「マネージャーにも言わずに?」
黒川氏が驚いた顔をすると、天十郎は申し訳なさそうに頷いた。
「それで、行方不明なのか。そうか、君がそこまで、そうしたかった事情があるのだろう」
「ただね~」
日美子さんがため息をつき、黒川氏が続けた。
「大手ではないが化粧品メーカーの茂呂社長は知っているかな?」
「ええ」蒲が答えた。
「彼女が騒ぎ立てているようで、早めに解決しないと面倒な事になりそうだという事だ。出来るだけ早く立花編集長に会って対応策をとらないと」
天十郎は迷っている顔をしている。天十郎のスポンサーらしいが、無理を押し通すその社長の事を、気持ち悪いと言うほど嫌がっていた。
「あのね。うるさい事を言いたくないのだけど、天十郎さんがいる事で、この家のメンバーに関心が集まるでしょ。対応策は練らないとね」
日美子さんが微笑んだ。よっぽど嫌なのか、天十郎の顔はますます暗くなる。空気が暗く澱み始めたが蒲は知らん顔をしている。
その顔をチラチラと見ていた夏梅が
「それ!ようは、ここの住所が表に出なければ問題ない。それに行方不明にならなければいいのでしょ。日美子さん達はいつも助けてくれるから相談すればいい」
澱んでいた空気が少し和らぎ、黒川氏夫妻は顔を見合わせた。
「元に戻るのが最善だと思うけれど…。まあ、今のところ、私たちに被害はないし、折角、引っ越したばかりだしね。しばらくはこのままいられるように、私たちも協力するから」
黒川氏が慰めるように言った。
蒲は、物事の展開が自分の思う方に進んでいない事に、腹を立てたのか、黒川氏夫妻や天十郎が座り込んでいるそばをするりと抜けて、リビングを出た。
【玄関ホールを抜けて反対側にある洗面所まで蒲を追いかけた】
鏡越しに目線があった蒲は「よせよ」突き放すように目線をそらした。僕は笑って
「お前がマネージメントすればいいだろ」
「俺が?冗談だろ」馬鹿馬鹿しいという顔だ。
「茂呂社長ってスポンサーだろ?スポンサーから逃げたら事務所とのトラブルは明白だ。事務所に掛け合って、黒川氏の美容室の専属モデルで契約して、広告料として美容室の住所を貸してもらえよ。簡単だろ。天十郎をスポンサーに返すか、蒲がマネージメントするかどっちかだ」
「ばかいえ、そんな事できないよ」
「黒川さん、そろそろ美容室から抜け出して事業展開したいって、聞いたことがある。振って見ろよ。今回の夏梅のカバーガールの件もうまくまとめたぞ、才覚はある」
「馬鹿馬鹿しい」
「自由にすればいい。天十郎には出て行ってもらえばいいだろ。僕はどっちでもいいぞ」
【僕は蒲を洗面所に残しリビングに戻った】
暫くすると蒲がリビングに戻って来て黒川氏夫妻と話し始めた。
「黒川さんは事業展開を考えていますか?」
「蒲、どうしてそれを知っている?」
「いや、今の事務所のトラブルを解消出来るのなら、俺も全面的に協力します」
「蒲?お前が?」
「今の生活、結構、気に入っています。お前どう?」
蒲が天十郎にふったが、天十郎は黙っていた。僕は、彼らを全く無視して、夏梅が釣りで日焼けした、おでこと鼻の頭を撫でていた。