第77話 亡霊の気配

文字数 1,816文字

「なら、教えてやる。私が塁をめちゃめちゃ好きだから、食べたいくらい好きだから、一つになった時点でオルガスムスを感じる」


【うふっと素直に嬉しそうに笑う】

「挿入しただけで?」
「うん、無条件」
「そうなんだ」
「でも、めちゃめちゃ好きでも。その時に、他に興味があったり、少しでも塁に対して怒っていたりすると、感じるのが遅くなったり、感じなかったりするよ。だから完全に自分の心の問題だと思う。いつもめちゃくちゃ好きだと、私も塁も疲れるから、オルガスムスを感じたり感じなかったりして、それでいいと思っていたけどな~」

「SEXすると、今その人がどれくらい好きか、わかるって事か?」
「まあ、そうだ」
「だから、俺とSEXした結果、めちゃめちゃ好きじゃないからオルガスムスなんか、論外?」
「うん、感じるベースがない。でも、さっきも言ったように、SEXってオルガスムスだけの問題じゃないから…」
 すらっと話す夏梅はカッコいいが…。この会話に意味があるのだろうか?

 天十郎は呆れ返ったような顔をした。
「好きでもなく、嫌な存在でもない俺って、まったく無害だからSEXが出来るって事か?」
「ああ、そうだね。そうかも知れない。SEXがお仕事なら、考え方がまた違って来るのかもしれないけど、私は仕事にするつもりはない」
「複雑だぞ」天十郎がぼそっと言った。
 夏梅は、複雑と言う言葉に天十郎を見た。僕が良く使う言葉だ。夏梅は嬉しそうにクネクネし始めた。

「どうした?お前って時々変になるよな…」夏梅は鼻歌を口ずさんでいたが、突然に思いついたように
「私にとって、無害ゆえに蒲との衝突が起きない。だから蒲にも殺されない。喜ぶべき事なのでは?」
「はあ、そうか、夏梅のその度胸がすごい。ねえ、それからもう一つ聞きたいことがあるのだけど」



【吉江さんって覚えている?】

「うん、覚えている」
「彼女さ、どうやら、蒲が仕掛けたらしいけど、知っている?」
「また、蒲がやったの?ふーん、それ以前に吉江さんは嫌いだ」
「蒲の仕掛けって知っていたんだ…。そうか…。でも、どうして嫌い?夏梅の代わりに、餌食になってくれたのだぞ」
「塁の好みのタイプだから」
「はあ?」天十郎と僕は同時に驚いた。

「そんなわけはない、違います」僕は、何度も夏梅の耳元で言い聞かせた。

「塁はモデルさんやバレリーナのように筋肉質で胸の無い人が好きなのだもん」
「いや、そうだったとしても塁は、いないでしょ」天十郎が言うと
「居る」僕と夏梅は同時に答えた。しかし、夏梅はどうしてそんな事を思っていたのか…。だから吉江に対してあんなに、異常な反応をしていたのか?

 僕は考え込んだ。思い当たるのは、中学生になって夏梅の胸が大きくなりはじめた時
「あまり大きくなるな、大きいと手に余るから」と言ったくらいだが、それは胸が大きいのが嫌いと言う意味ではなく、群がる男たちを排除するのが大変だという意味だったのだが…。

 どうしたら、そんな拡大解釈になる。難しい…。それを勘違いして、夏梅はいつもイジイジしていたのか?…。力が抜けて行くようだ…。

「塁はかくれんぼしていけど、塁は居る」と天十郎の目をみつめて、きっぱりと夏梅は言い切った。
「かくれんぼ?子供じゃあるまいし、塁はどこに隠れて居るの?」天十郎が強く問質した。
「隠れているから、どこに居るかなんて、わかる訳ないでしょ」夏梅はムキになって抵抗している。

 僕はここに居るけどね。

「隠れていると言う事は、いないと言う事だろ?いない奴の事なんていいじゃない」
「でもね。いないけどいるのだ」夏梅が言った。


【しばらく前から帰っていた蒲】

 リビングに入るなり二人の会話が聞こえ、二人から死角になる場所で聞き耳を立てていた。よほど、後ろめたい事があるらしい。

 夏梅の言葉に、二人に走り寄り、話に割りこみ「夏梅、わかるの?」と蒲が聞いた。天十郎が驚いたように「お帰り」蒲に言ったがその声をまったく無視し、夏梅の目の前に、顔をよせ、もう一度「わかるのか?」脅かすようにすごんだ。

「おい、わかるはずないだろ。蒲、夏梅を脅すな」僕が夏梅と蒲の間を遮ろうとすると、夏梅は、小さく言った。
「居た時も、かくれた今も、同じように私を見ている視線がある」
「視線?」蒲は僕の方を見た。

 僕は可愛く微笑んだ。

「ほら、私の後ろの席にいたでしょ。後ろから視線を感じていたのだけど、それを今もずーと感じる」
「怖いな」と天十郎がつぶやいた。
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登場人物紹介

夏梅(なつめ)…フリーライター。

亜麻 天十郎(あま てんじゅうろう)…精悍な顔立ちのイケメン俳優。

真間 塁(まま るい)…夏梅の家で暮らしている僕。

蒲 征貴(かば まさたか)…夏梅の同居人。可愛い童顔に似合わない行動を起こす。

黒川 典文(くろかわ のりふみ)…だてメガネの黒川氏 夫婦で美容室を経営 僕たちのよき先輩。

黒川 日美子(くろかわ ひみこ)…黒川氏の奥さん 幼い頃から夏梅をみている。

積只 吉江(つみた だよしえ)…黒川氏の美容室スタッフ。夏梅と極端に反発しあう。

立花 孝之(たちばな たかゆき)…釣り仲間の先輩。雑誌編集長。

紅谷 和樹(べにや かずき)…メークアップアーティスト。僕らの関係に興味を持つ。

茂呂 鈴里(もろ すずり)…化粧品メーカーの社長。天十郎に固執している。

梶原 美来(かじわら みらい)…天十郎の元カノ。美術館で騒ぎを起こす。

吉岡 修史(よしおか しゅうし)…編集記者。夏梅達の関係を暴露しようとする。

亜麻 日咲(あま にこ)…20歳 別名ニコラッチ

亜麻 禾一(あま かいち)…19歳 早々に結婚して芸能界へ

亜麻 玉実(あま たまみ)…17歳 夏梅二世

亜麻 叶一(あま きょういち)…15歳 全寮制の男子校に通っている。大物

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