第54話 総家令、撃たれる
文字数 3,254文字
孔雀は
「ポリオと、結核、破傷風、これでとりあえず五百人分。来月、
「そうだね。
早くに医学部を出て医師免許を取ったが、その後、すっかり医局には入らずにいる。
臨床どころか注射なんて何年もしていないだろう。
「私、練習台になったの。だいぶうまくなったから大丈夫」
「・・・・内出血だらけじゃないか・・・。どこが上達したんだ・・・」
練習なら豚足か鶏モモでやってよ、と言ったのだが、やっぱり人間がいいと言われて仕方なく両腕を犠牲にしたのだ。
「・・・それにしても、カエルマークのキッチンカー、おいしかったなぁ」
思い出したように
「パーラーとほぼ同じメニューが食べれるようになってるの」
「いいねえ。カエルマークのオムライスが好きなんだよね」
特製ケチャップ、ベシャメルソース、デミグラスソース、しょうゆあんかけ、とかけるソースが選べるオムライスはカエルマークのパーラーでも人気メニューだ。
今回、
皇帝から、隊員の配偶者や恋人へのプレゼントと配布されたリボンの包みのシャンパンはちょっとした騒ぎになった。
更に特別休暇の辞令のカードも同封されていた。そもそも
「
「
栄養士の資格もあり料理上手の
「だって
「カロリーは取れるんだ。量が多いから。あと、成型肉の缶詰。野菜ジュースと牛乳が毎食二本づつ。それから、プロテインチョコレートバー、ビタミン剤の類」
また
ふと、外が騒がしいのに気付いた。
「何でしょう?・・・
西の方に煙が上がっていた。
「・・・難民キャンプで火事か・・・?」
二千人を超す人間がいるのだ。大変な事になる。
違う、と孔雀は目を
連続して発破音が聞こえた。敵襲だ。
三国が睨み合う中、またどちらかが痺れを切らしたのか。
今、ここにいる人間で、
「
この妹弟子はさすがの
有事に強く、判断が早いのはさすがだ。
なんだっていいから妹弟子を守ってくれればいいと願った。
「あまり奥まで行くなよ。
頷きながら
煙と油と血の肉の焦げる匂いの中、
この総家令は、怪我人や病人を含む逃げ惑う人々を退避させながら
驚異的な時間だと称賛されたが、
家令全員が家令で構成されていれば、またはもう一人誰か家令がいれば、被害は確実にもっと少なかっただろうと
急ごしらえであるが
襲撃は、二国、どちらでもなかった。反政府勢力だった。
前線と空白地帯では、災害と反政府勢力の制圧と駆逐は、発見者の義務とされている。
何より、迅速に履行しなければ、仮想敵国から侵入の口実にされる。
車両が五台。攻撃してきたのは二十人といった所。
テロリストにしては、人間の数に対して車両が多いのに違和感を感じた。
連行する為か、いや、囲い込んで一斉攻撃する為か。
初動が早かったから、そうはならなかったけれど、難民キャンプの犠牲者は現時点で十六人。
何とも痛ましいことだ。
孔雀が攻撃して来た死亡した人間の持っていたまだ熱いマシンガンを拾い上げ、軽さに驚く。
見たことないのない型式だった。
旧式ではない、最新式のようだが見覚えもないし新作のカタログにも見当たらなかった。
孔雀は革手袋を嵌めて手早く分解を始めた。
構成する構造体の部品が少ない。
だから軽いのか、と納得した。
衝撃でよくバラバラにならないものだ、と感心する。
「・・・・偽造品か改造品でしょうか」
そう言う海兵隊員に孔雀も頷いたが、何とも違和感があった。
「でも。すごい。これ、あれだけ撃って歪みもない。・・・とにかく装備品は全部チェックしてみなくてはね。遺体はこちらで後で回収しましょうね。照合出来るようにナンバーつけて、性別とか状態をチェックして。感染症には注意してね」
孔雀は手短に告げた。
それから、と表情を和らげた。
「・・・今回の作戦に動員、感謝申し上げます。ひと段落したら、青鷺お姉様の主催でお茶会しましょうね」
強面の海兵隊の面々が笑った。
あのバジリスクは、荒々しい
お上品機雷とは言われる彼女の鬼のしごきのお茶会に、毎回、強面達は戦々恐々だ。
血と硝煙と砂埃にまみれた場所で、羽根のようなその淡い色に心を奪われた。
何だろう、と見ると、水色のスカーフのようだった。
石だらけの地面に子供が蹲っていた。
逃げ遅れたのか、頬が血で濡れて、
「・・・ママかパパは?」
辛い質問だったろうか、親はきっと殺された人間の誰かに違いない。
少女は答えずに目の涙をぬぐった。
その瞬間、軽い破裂音が聞こえた。
それと、腹部に熱い、という感覚。
足元にすぐに血だまりが出来た。
その血だまりに
何人かが追おうとしたが、
どちらに捕まっても、どんな目に合うか。
うまく逃げ切れるといいけれど。
水色のスカーフだけが、目に焼きついた。
突然寒くなり、目の前が暗くなり始めた。
「・・・あの子、追いかけないで」
とだけ言って。そこから意識は途切れた。