第16話 ダウンジャケット
文字数 1,107文字
「これ、めちゃくちゃ暖かいぜ!」
大手アパレルのユニシロで購入した空色のダウンジャケットを、保 は友人たちに見せびらかした。友人たちはその独特な手触りを新鮮なものと捉え、称賛する。
「いいな、これ! 俺も買ってもらおうっと」
「結構これ、カッコもいいじゃんな?」
口々に言う男子中学生。オシャレにも目覚める時期である。ユニシロ製品の機能美は、この新商品にも当然生かされており、多感な彼らの要求もしっかり満たしているのだ。
アパレル大手のユニシロ。様々なヒット商品を世に送り出してきたユニシロといえども、スーパーエコロジーシティである牟田無 市での営業には厳しい条件が課せられる。新たなエコロジー商品の開発や、それに関する仕組みを創り続けることがその条件なのだ。逆にこの条件をクリアし牟田無市での販売が順調であれば、その商品は日本中に存在するエコ意識の高い消費者にも人気が出る。ユニシロに限らず、各社が牟田無での生き残りに注力するのは、必然であった。
保と彼を囲む友人たちの輪から少し離れたところで、その騒ぎをじっと見守っていたのが毛利 有資 である。毛利も中学二年生男子だが、保たちとは異なり、江古田研究所関連職員の家族ではない。牟田無市の活動に賛同して移住してきた一般家庭の子弟であった。そして彼の姉がユニシロ牟田無店のスタッフなのだ。が、その事実は保たちに知られていない。ここでそれがバレたら、買っておいてくれ、などと頼まれ面倒なことになりかねない。聡明な少年である毛利は、自然にその輪から離れている訳だ。決して仲間はずれになっているのではない。そして聡明な毛利は気が付いている。温暖化が進んでも冬が一層寒い理由の一つに。
それが若者に一般化した脱毛だった。現代人にとって体毛が邪魔なものとみなされて久しい。それは確かに、かつては保温に役立ったはずである。だが、衣服を手に入れた人類は頭部以外の体毛を剃り、抜くという行動に出た。江古田研究所でもかつて遺伝子操作による脱毛を実現する動きがあった。そうすることで剃毛に使う器具をなくすことができ、治療やそれに伴うトラブルも回避できる。何より時間が節約できるというのも大きい。しかし頭髪や眉毛 、睫毛 を残すという操作が思いの他困難だったため、そのプロジェクトは頓挫していた。
そしてユニシロが動いた。新ジャケットは当然、鳥の羽や動物の毛などは使わないし、ましてや石油化学製品でもない。そう、人間が剃り落とした体毛、散髪で切り捨てた頭髪を利用しているのだ。保たちは果たしてそれを知っているのだろうか?
新商品の評判を、いち早く姉に伝えたい。そう思って、毛利はそっとその場を離れた。
大手アパレルのユニシロで購入した空色のダウンジャケットを、
「いいな、これ! 俺も買ってもらおうっと」
「結構これ、カッコもいいじゃんな?」
口々に言う男子中学生。オシャレにも目覚める時期である。ユニシロ製品の機能美は、この新商品にも当然生かされており、多感な彼らの要求もしっかり満たしているのだ。
アパレル大手のユニシロ。様々なヒット商品を世に送り出してきたユニシロといえども、スーパーエコロジーシティである
保と彼を囲む友人たちの輪から少し離れたところで、その騒ぎをじっと見守っていたのが
それが若者に一般化した脱毛だった。現代人にとって体毛が邪魔なものとみなされて久しい。それは確かに、かつては保温に役立ったはずである。だが、衣服を手に入れた人類は頭部以外の体毛を剃り、抜くという行動に出た。江古田研究所でもかつて遺伝子操作による脱毛を実現する動きがあった。そうすることで剃毛に使う器具をなくすことができ、治療やそれに伴うトラブルも回避できる。何より時間が節約できるというのも大きい。しかし頭髪や
そしてユニシロが動いた。新ジャケットは当然、鳥の羽や動物の毛などは使わないし、ましてや石油化学製品でもない。そう、人間が剃り落とした体毛、散髪で切り捨てた頭髪を利用しているのだ。保たちは果たしてそれを知っているのだろうか?
新商品の評判を、いち早く姉に伝えたい。そう思って、毛利はそっとその場を離れた。