第6話 檻
文字数 1,034文字
バタバタと足音が響く。檻 の中を小動物が駆け回っている。広くはないその空間で生活を謳歌しているように見える。そんな彼らを眺めていると、ミドリは自分の不自由さも受け入れられるような気がする。
この小動物たちは、いわゆる実験動物である。ミドリの父、江古田博士のアイディアを支え、実証するために生存する。微生物から哺乳類まで幾多の生物を揃えているが、この部屋で生活しているのは、何種類かのネズミたちだ。マウス、ラット、モルモット。それぞれ体の大きさや尻尾の長さで区別できるのだが、遺伝子操作などにより、見かけだけでは分からない違いも多い。そして成育環境を変えて育てることもあるので、勝手に触るなどは厳禁である。実の娘といえども本来は入ることすら許されないない部屋なのだが、ミドリは研究員の絵禰子 さんにお願いして時々こっそり入っている。
この部屋の一角に見慣れない区画ができていた。先月来た時にはなかったはずだ。気になって恐る恐る近づいてみた。檻には、モルモットが入っているようだ。
が、ミドリは違和感を覚えた。尻尾がないのでモルモットだろうが、体が明らかに小さい。まだ子供なのかとも思ったが、最も大きな個体で体長十五センチくらい。更に小さいのもいるから、それが子供だろう。モルモットは通常二十センチから四十センチにも育つので、かなり小さいことになる。そしてこの小さなモルモットたちは、何となく元気がないように思えた。ミドリの知っているモルモットは、車輪の中で回るなど活発に遊ぶし、糞も多いのだが。
約束の三十分が過ぎたので、絵禰子さんに連絡を取り、部屋から出た。あのモルモットのことを尋ねたところ、絵禰子さんは人差し指をぷくっとした唇に立て、後でね、とウインクをした。
夜、照明を極力落とした部屋で腹這いになってぼんやりしていた。父の言いつけ通り、背中の細胞を休ませていたその時、絵禰子さんからメールが届いた。先ほどの質問に対する答えだ。
「あのモルモットらしい小さなネズミは、『ミニミット』と名付けた改良種。一つ一つの細胞を小さくした種よ。更に心拍数などの生態活動が全て少なく、小さくなるようにしているの。だから、あまり活発でないし、食べる量も少ない。その分寿命が長いはずなんだけど、まだ一生における摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスについて詳しいデータをとっている段階。私と禎子 さんとの極秘共同研究よ。誰にも言わないでくれるわね? 信頼していますよ、ミドリさん」
この小動物たちは、いわゆる実験動物である。ミドリの父、江古田博士のアイディアを支え、実証するために生存する。微生物から哺乳類まで幾多の生物を揃えているが、この部屋で生活しているのは、何種類かのネズミたちだ。マウス、ラット、モルモット。それぞれ体の大きさや尻尾の長さで区別できるのだが、遺伝子操作などにより、見かけだけでは分からない違いも多い。そして成育環境を変えて育てることもあるので、勝手に触るなどは厳禁である。実の娘といえども本来は入ることすら許されないない部屋なのだが、ミドリは研究員の
この部屋の一角に見慣れない区画ができていた。先月来た時にはなかったはずだ。気になって恐る恐る近づいてみた。檻には、モルモットが入っているようだ。
が、ミドリは違和感を覚えた。尻尾がないのでモルモットだろうが、体が明らかに小さい。まだ子供なのかとも思ったが、最も大きな個体で体長十五センチくらい。更に小さいのもいるから、それが子供だろう。モルモットは通常二十センチから四十センチにも育つので、かなり小さいことになる。そしてこの小さなモルモットたちは、何となく元気がないように思えた。ミドリの知っているモルモットは、車輪の中で回るなど活発に遊ぶし、糞も多いのだが。
約束の三十分が過ぎたので、絵禰子さんに連絡を取り、部屋から出た。あのモルモットのことを尋ねたところ、絵禰子さんは人差し指をぷくっとした唇に立て、後でね、とウインクをした。
夜、照明を極力落とした部屋で腹這いになってぼんやりしていた。父の言いつけ通り、背中の細胞を休ませていたその時、絵禰子さんからメールが届いた。先ほどの質問に対する答えだ。
「あのモルモットらしい小さなネズミは、『ミニミット』と名付けた改良種。一つ一つの細胞を小さくした種よ。更に心拍数などの生態活動が全て少なく、小さくなるようにしているの。だから、あまり活発でないし、食べる量も少ない。その分寿命が長いはずなんだけど、まだ一生における摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスについて詳しいデータをとっている段階。私と