第17話 たね
文字数 1,108文字
「見事な白色ねえ。私、この白い桜が大好き」
ミドリの弾んだ声を受けて、
「ホントねえ。でもね、ミドリちゃん。桜って一般にはピンク色よね?」
科学者と一緒に生活をしているミドリだが、世間一般の常識にはその分、乏しい。しかも物心ついた時にはこの牟田無に住んでいたのだから、彼女にとって桜といえばこの白い花だ。しかし節子は小学校の途中でこの街にやってきた。今ではすっかり親友だが、生粋の牟田無っ子が知らない世界を知っている。
「そうらしいね。でも私にはこの白よ。微妙なコントラストがまた綺麗だし」
きっぱりとそう告げて、ミドリは視線を江古の丘に向けた。
「節子、
もう一人の友人、環希と三人で五分も走った。光合成細胞を背中に持ち、エネルギーを作りながら生きているミドリは、少し手加減して走る。でも一番はやはりミドリだ。
「もう、ミドリは速いねえ」「私、息が切れるぅ」
二人は口々に言いながらも、江古の丘にある清水で喉を潤す。ミドリも当然疲れは感じているから、この不純物がほとんどない水が一層美味しい。
「あっ、ここ!」節子が指をさした先には、プランターが並んでいる。その中には小さな芽を出しているものもある。「かわいいー」と口々に言いながら、三人はそれを見て回った。
「うちのやつ、これだっ」と環希が大きな声をだした。そこには環希の姓を書いたプレートがあり、割れた豆のような芽が土から顔を出していた。
「環希の家で食べたサクランボね」ミドリが言うと
「うちで出した柿の種は、丘の斜面にこの前植え替えられたわ」と節子。
その柿の木を鑑賞し、お弁当を食べた。江古の丘には、プラスチックで包装された既製品は持ち込めない。もちろん可燃物も持ち帰りが絶対である。三人は手際よく片付け、そして帰路についた。
帰りも白い花を見ながら、三人の少女が会話を続ける。
「七月が楽しみだなあ。この桜からサクランボ採るのよねえ」
「あんまり甘くないけど、ね」
「でも、こうやってちょっとずつ違う実桜を並べるから甘いのもできるんでしょ?」
「質が一定じゃないから、産業としては儲からないみたいだけどね」
「で、食べたサクランボの種は、またあの丘の施設で育てて……」