第4話 夜の公園
文字数 1,110文字
「ぼ、僕と、け、けっ、結婚! 結婚してくださいぃ」
久しぶりのディナーだった。その後公園で、結三郎は跪 きケースを差し出した。晶子はしっかり彼を見据え、目を潤ませながらそれを受け取った。
「ありがとう。ありがとう。ユイくん。ずっと、待ってたの。開けても、いいかな?」
結三郎は「もちろん」と言ったが、声が掠 れている。ここまで精一杯力んでいたが、一挙に気が抜けてしまった。はっきり聞きとれなかったものの、拒絶されるはずはないと思う晶子。結三郎の手掌 から、青いケースを掴 み、右の親指と人差し指とで蓋を開ける。
「まあ、素敵! ダイヤモンドね? ありがとう。すごく嬉しい」
「〇・五カラットだけど、将来はもっと、大きいのを……」
結三郎がもごもごと呟 いているが、ますます聞き取れない。晶子の期待よりちょっとは小さかったが、大きいものが欲しければ自分で買える。大事なのは、これを結三郎が自分のためだけに用意してくれたことなのだ。そう思いつつも晶子はその宝石に目を光らせる。
「ユイ君、これ、すごく綺麗ね」
既にプロ鑑定士の目になった晶子。普段から拡大鏡を持ち歩いているがここでバッグから取り出すほど無神経ではない。公園は暗い。が、分かる。少なくともクラリティはIF以上ありそうだし、黄色は全くなさそうだった。副業があることを結三郎に隠している手前、素直に喜んでいる振りを続ける。でも、知りたい。一介の研究員である結三郎がどうしてこんな高品質なダイヤモンドを入手できたのだろう。
「高かったでしょ?」
晶子は、あまり余計なことを言うべきではないと思っていた。特にお金のことは品がない気もするが、結三郎と夫婦になるのだから、そこはむしろきっちりしておいて良い。興奮から冷めつつあった結三郎は、来たな、と思った。既婚の友人たちが口々に言っていた。女は、結婚となるとすぐに現実主義者になる。式が終われば倹約一筋だ。まだ婚約しただけなのに、もうこれなんだな。そう思うと陰鬱な気分になるが、むしろ微笑 ましいと感じる。
「気にしなくて大丈夫。実はこれ、凄いんだ。詳しくは言えないけど」
実は結三郎にも隠れた副業があるのか? それもやばいやつ? いつか探らなければと思いながら、晶子は嬉しそうに左薬指に指輪をはめる。ぴったりだ。
「うれしい、ユイくん!」
依然として排出され続ける二酸化炭素だが、世界的に地下貯蔵が行われている。その二酸化炭素を電気分解し、さらに高熱高圧環境下で人工的にダイヤモンドを作る革新的な実験を、オーストラリアのナオミ・エコダ女史が行っている。製造に必要なエネルギーがまだまだ莫大であり、多くの批判が予想されるため公表時期は未定である。
久しぶりのディナーだった。その後公園で、結三郎は
「ありがとう。ありがとう。ユイくん。ずっと、待ってたの。開けても、いいかな?」
結三郎は「もちろん」と言ったが、声が
「まあ、素敵! ダイヤモンドね? ありがとう。すごく嬉しい」
「〇・五カラットだけど、将来はもっと、大きいのを……」
結三郎がもごもごと
「ユイ君、これ、すごく綺麗ね」
既にプロ鑑定士の目になった晶子。普段から拡大鏡を持ち歩いているがここでバッグから取り出すほど無神経ではない。公園は暗い。が、分かる。少なくともクラリティはIF以上ありそうだし、黄色は全くなさそうだった。副業があることを結三郎に隠している手前、素直に喜んでいる振りを続ける。でも、知りたい。一介の研究員である結三郎がどうしてこんな高品質なダイヤモンドを入手できたのだろう。
「高かったでしょ?」
晶子は、あまり余計なことを言うべきではないと思っていた。特にお金のことは品がない気もするが、結三郎と夫婦になるのだから、そこはむしろきっちりしておいて良い。興奮から冷めつつあった結三郎は、来たな、と思った。既婚の友人たちが口々に言っていた。女は、結婚となるとすぐに現実主義者になる。式が終われば倹約一筋だ。まだ婚約しただけなのに、もうこれなんだな。そう思うと陰鬱な気分になるが、むしろ
「気にしなくて大丈夫。実はこれ、凄いんだ。詳しくは言えないけど」
実は結三郎にも隠れた副業があるのか? それもやばいやつ? いつか探らなければと思いながら、晶子は嬉しそうに左薬指に指輪をはめる。ぴったりだ。
「うれしい、ユイくん!」
依然として排出され続ける二酸化炭素だが、世界的に地下貯蔵が行われている。その二酸化炭素を電気分解し、さらに高熱高圧環境下で人工的にダイヤモンドを作る革新的な実験を、オーストラリアのナオミ・エコダ女史が行っている。製造に必要なエネルギーがまだまだ莫大であり、多くの批判が予想されるため公表時期は未定である。