第13話 【襲撃】

文字数 3,640文字

長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【襲撃】

 艦隊は、南下を続けた。
 フェリーの乗船体験しか知らないコーコに、【紀伊】の艦内の広さと構造は、新鮮で興味深いものだった。警備上、立ち入れない場所がほとんどだったが、暇な時間を見つけてトウコと艦内を探索した。
 「‥‥凄いね。広いね。迷いだね。」
 コーコは、酔い止め薬を飲みながらも軽く船酔いをしてた。陸自のトウコは、艦上生活に少し戸惑っているようにも見えた。
 「トウコさんは、船酔いしないですか。」
 「気合です。後は根性で乗り切れます。」
 「わたしは、ちょっと無理。乗り物に弱いなぁ‥‥。」
 コーコは、小さく溜息を零した。
 「ところで。トウコさんは、迷いませんか。」
 「大丈夫です。艦内地図は、頭に入りました。」
 「凄いですね。わたし一人なら、迷って帰ってこれないかも。」
 「その様な時は、右手を壁に付けて移動すれば打開できます。」
 「はぁ‥‥、そうなんですか。」
 コーコは、意味が解らなかった。
 「食堂って、こんなに遠かったかな。」
 「食堂は、二層下です。」

 コーコの世話係のトウコの生真面目さにドクター達は、何度も撃たれそうになっていた。ドクター達の緊張感のない態度が受け入れなかったのだろう。
 「具申します。ご高齢を労わる必要はないかと思います。」
 「だから、撃たないでね。」
 その都度コーコは、宥め諭した。一緒に行動する最近になって、トウコの地雷が分かり始めていた。命令に実直なトウコは、冗談が通じなかった。特に不真面目な男性を毛嫌いしていた。コーコは、ふと思った。
 『もしかして、男嫌い。』

 食堂のドクター達は、研究所ように寛いでいた。コーコの姿を見ると呼び寄せた。
 「嬢ちゃん。ここが空いているぞ。」
 トウコは、ドクター達の前で警戒を解かずに絶えず気を張り詰めていた。その殺気にさすがのドクター達も気遣ってリツコに対するような状態だった。
 「嬢ちゃん。船酔いは大丈夫か。」
 「G二十八号に乗るよりは、マシです。」
 コーコの本心だった。
 「ところで、この船は、変形なんかしませんよね。」
 「巨大ロボットにとか。」
 「そぅ、そぅ。」
 「‥‥何で知ってる。」
 ドクター達の演技にコーコは、最初驚いて見せた。
 「えっ‥‥、そうなんですか。」
 直ぐに、お茶目な笑みを浮かべて、ドクター達を冷やかした。
 「フッフフフフ‥‥、今度は騙されません。」
 以前に研究所で揶揄われたのを根に持っていたコーコは、忘れていなかった。
 「空を飛んで宇宙に行けると、思っていましたよ。星間移動できるかと期待していたのに。残念です。」
 「嬢ちゃんは、蛇歳生まれか。執念深いのぅ。」
 コーコは、皆と笑ってから本題に移った。
 「それより、シミュレータは、運び込まれているのですか。」
 「おぅ。トレーラーごと持ってきている。」
 「模擬訓練、使えますか。」
 「問題ない。何時でもいけるぞ。」
 「黒い熊との模擬戦はできますか。」
 「大丈夫。」
 「使ってもいいですよね。」
 「リツコさんの許可をとってくれ。」

 第二甲板にG二十八号のシミュレータが搭載されたトレーラーが固定されていた。
 その隣のトレーラーのシミュレータからエリカが出たところだった。コーコの姿を見て冷笑した。
 「御機嫌よう。珍しいですわね。」
 「エリカ様は、訓練なさっていたのですか。」
 「当然でしょう。才能は、努力に正比例します。」
 「わたしも、そう思います。」
 コーコは、日々訓練を怠らないエリカの姿勢に感動した。エリカが苦笑して言った。
 「そうは仰っていますが、今の今まで見かけませんでしたよ。」
 「はぁ、少し船酔いで。」
 「まぁ、ご愁傷さまですこと。」
 エリカは、後ろに控えるトウコに視線を向けた。
 「‥‥貴女は、」
 「はっ。サトウ・トウコであります。」
 トウコは、何時になく緊張していた。上司のリツコに対するような態度だった。
 「コーコさんの世話係をさせて頂いております。」
 「そぅ、ご苦労様。さぞかし、大変でしょうね。」

 トウコは、シミュレータの入口まで付いてくると、中を興味深く覗いた。
 「シンプルな操縦席でしょう。」
 「はっ。勉強になります。」
 コーコは、乗り込むと、計器の点検を始めた。円球の下半分に画像が映らない仕様にトウコは、気になった様子だった。
 「質問、宜しいでしょうか。」
 「どうぞ。」
 「どうして、下部が見えないのでしょうか。」
 「あっははは‥‥、高いのが苦手なので。」
 「なるほど。」
 トウコが、言葉を深読みして感心していた。コーコは、相変わらず足元が見える状態に腰が引けていた。
 「では、ハッチを締めます。ご健闘をお祈りいたします。」
 トウコは、ハッチを納めるとコントロール室に入った。

 【‥‥レベル六十六、】
 先日、乱入した黒い熊のデータからプログラムされた模擬戦だった。
 「これって‥‥、化け物っ。‥‥だぁ。」
 富岳よりも少し動きは遅く感じたが、それ以外の全ては上回っていた。一分も持たすに撃破されていた。
 「‥‥どうすれば、勝てるのよ。」
 コーコは、傷心して呟いた。戦いになっていない状態だった。コーコは、久々に操縦席の中で吐きそうな気持になった。
 「‥‥うぅ、‥‥気持ち悪いっ。」
 コントロール室には、着替えたエリカが観戦に立ち寄った。コーコが必死に奮闘するものの手の施しようがない負け様を無言で見ていた。
 七戦全敗だった。
 「‥‥あらあら、時間が掛かりそうですこと。トウコさん、今度お茶をご一緒しましょう。」
 エリカは、そう言い残し出て行った。

 トウコは、ハッチの前で迎えた。
 「任務ご苦労様です。」
 コーコは、息を切らせ憔悴しきってシミュレータから出た。
 「‥‥はぁ、きつっ。」
 手渡された飲み物を喉に流し込みコーコは、溜息をついた。
 「バイトの後は、これよね。」
 コーコは、風呂上がりのオヤジ状態だった。

 その夜、コーコはトウコと上甲板に出た。潮風の中、星の煌く広さに感動した。
 「‥‥凄い、こんなに明るい夜空は初めて。」

 二日目の早朝、艦内に戦闘の警報が鳴り響いた。コーコと同室のトウコは、飛び起きるとリツコに連絡を入れた。
 「コーコを直ちにG二十八号に誘導。搭乗して待機させろ。」
 リツコの命令にトウコは、コーコの手助けをした。コーコは、乗船してから身分と立場を区別するために研究所の作業着で過ごしていた。リツコの指示で下着の代わりにパイロットスーツを着衣していた。トウコに先導されてコーコは急がされた。途中で艦内が揺れた。
 「‥‥えっ、なに、なにっ。」
 「大丈夫です。急いで下さい。」
 コーコは、知らされていなかったが、対艦ミサイルの攻撃を受けていた。防空和製イージス護衛艦と練習艦が、【紀伊】を守っていた。

 格納庫の【富岳改】に、既にエリカは搭乗していた。コーコの姿を見て叱責した。
 「遅いですよ。芋娘。」
 「すみません‥‥。」
 そこに再び爆発の振動が伝わった。
 「当たったんですか。」
 コーコは、脅え尋ねた。エリナが、冷静に薄ら笑った。
 「対艦ミサイルが命中していれば、こんなものではすまされませんよ。」
 「はぁ‥‥、でも、凄く揺れました。」
 「近くで迎撃された衝撃波です。それより、何時でも戦える準備をなさいな。」
 サブモニターにリツコの顔が映った。
 「エリナ、用意はどうか。」
 「全て完了しております。」
 「コーコは。」
 「はぃ、今、チェック中です。」
 「急いで。」
 リツコの表情は、何時も以上に険しかった。
 「万が一の場合、エリナの富岳改は、上陸用舟艇に。コーコは、そのまま後部ハッチより海に。」
 リツコの指示にコーコは、我が耳を疑った。
 「‥‥海に、ですか。」
 「G二十八号は、水陸両用の機能が備わっています。」
 「‥‥スイリクリョウヨウ、って何ですか。」
 「陸上でも水上でも作戦が可能な事です。」
 「‥‥そんなの、聞いていませんよ。それに、わたし泳ぎが苦手です。」
 「問題なし。海底を歩けば宜しい。」
 「‥‥はぁ。いゃ、それは、ちょっと、無理です。」
 コーコは、突然の話に混乱していた。後日にドクター達から、将来的に航空戦も可能にして宇宙でも作戦行動を遂行させる計画を聴かされることになった。
 コーコは、呆れながらも身の危険を感じた。
 『‥‥それって、いよいよ無理っ。わたしの裁量から離れて行くよ。』
 絵空事にしか思えなかった。

 三発の対艦ミサイルは、全て迎撃していた。艦橋は、警戒を解いていなかった。アラタ一佐が、艦隊司令の席に座上していた。
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