第21話 【訓練】

文字数 3,146文字

長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【訓練】

 「少し、お待ちなさい。」
 エリカが、訓練前に疑問を呈した。
 「どうして、わたくしがレフトのでしょう。」
 「オオッ、プリンセスノ、イチデスネ。」
 「煩い。わたくしは、指令に尋ねています。」
 エリカは、合点がならないのか不機嫌だった。
 「だいたい。どうして、この男がセンターなのでしょう。」
 「ワタシ、ジョウカンネ。」
 「わたくし、軍人ではありません事よ。ボランティアです。」
 エリカの青い瞳は、険悪に煌めいていた。
 「そこの芋娘は、パートだと聞いていますし。」
 「ダカラネ。ワタシ、ボスネ。」
 「そこが、納得いきません。芋娘も、そう思うでしょう。」
 「はぁ‥‥、いぇ。わたしとしては、そうですね。まぁ、なんですか‥‥。」
 「ええいっ、はっきりと主張しなさいな。」
 エリカは、苛立ってコーコの優柔不断を否定した。
 エリカとジョーダンの対立は平行線をたどり解決しそうになかった。
 『‥‥それを言い出したら、前に進まないし。』
 コーコは、二人の様子を傍観しながら独り冷静に思った。話は混乱し錯綜を続けた。エリカは、最後まで納得しなかった。
 「これは、由々しき事案です。」
 エリカの、その日の機嫌は最悪だった。コーコは、漠然と思った。
 『これって三人、必要なのかな‥‥。』
 後日コーコの疑問は、恐怖と落胆と爆笑の内に知ることになった。合体変形と、ひと昔のロボットアニメのような仕様で、三人が必要だった。

 ジョーダンが操作する形体は、遠距離狙撃仕様、エリカは、接近戦でも射撃でも兼用できる中距離支援仕様だった。そして、なぜかコーコの仕様は、近接戦闘仕様だった。
 「‥‥わたしが、前線なの。」
 コーコは、よく分からなかった。
 変形は、後方で組み立てる様式だった。ティータイムが出来るほどに時間が掛かった。
 「‥‥直ぐに、ババーンと変形合体できないのですか。」
 コーコは、もっちゃりとした変形に呆れ尋ねた。ドクター達が目をくりくりさせた。
 「無理に決まっておろう。そんな事できたとしても、操縦席のパイロットの体がもたん。」
 「はぁ‥‥、そうなの。」
 「今の技術では、これが限界。ロボットアニメのようにいかんぞ。」
 それなら、最初から三体作ればいいのに、とコーコは素直に思った。
 「イイデハ、ナイデスカ。サンニンデ、タタカエバ、カンタンネ。」
 ジョーダンのシンプルな考えにコーコは、溜息をついた。エリカは、苦虫を噛み潰したように沈黙していた。

 各自が模擬戦用のシュミレータに入った。内部モニターに三人が映ると、中央のジョーダンが、腕組みをして仁王立ちしていた。コーコに清々しい笑顔を向けた。
 『‥‥ひぇーッ、キショイしょッ。やっぱ、ムリッ。』
 コーコの顔に引き攣った笑みが浮かんでいた。
 「各自、宜しいか。」
 リツコが、確認の声が響いた。
 「まずは、少佐の仕様で模擬戦を始めます。」
 「オーケー、カラオーケー。」
 CGに現れたのは、移動する孤島だった。【紀伊】の上甲板から、ジョーダンは遠距離射撃を行った。超望遠でも指の先ほどの大きさの目標に命中させた。
 「‥‥凄いし。でも、なぜ裸なのかな。」
 コーコは、感心しながらも直ぐ隣で操作する上半身裸の少佐に呆れた。
 「メイチュウネ。オオッ、パーフェクト。」
 ジョーダンは、陽気に笑いながらも次々に命中させた。その向こうでエリカが冷たい視線を向けていた。
 その後も次々に命中していった。エリカが、冷やかした。
 「まぁーっ、お上手です事。ですが、当たっても、急所を外しているようですね。」
 「オオッ、マダキュウショ、ワカラナイネ。」
 「はぁ、それでよく狙いますね。」
 「ヒットスレバ、オール、オーケイダヨ。」
 ジョーダンは、どこまでも前向きだった。リツコの命令が入った。
 「次、エリカ。接近しつつオールレンジ攻撃。」
 「了解です。」
 エリカは、ホバークラフトに立ったまま外部武器ポットを一斉に射出した。ダブルライフルから徹甲弾を放った。孤島に次々と命中した。
 「‥‥げっ、どんだけ武器積んでるのよ。」
 その派手な攻撃にコーコは、関心を通り越して呆然と眺めた。
 「オオッ、グレート。プリンセス。」
 ジョーダンの感極まる声が騒々しかった。
 「煩い。静かになさい。」
 エリカが叱責した。リツコの命令が続いた。
 「続いて、コーコ。上陸して制圧。」
 「コーコ、行きまーす。」
 空中から島に飛び降りた。
 「先ずは、キックッ。」
 コーコは、勢いをつけて蹴った。跳ね返され転がった。
 「わぁーっ、ヤバイっ。」
 「オオ、トッコウネ。グレート。」
 「‥‥バカですか。」
 三人が三様に、呻き叫んだ。操縦席が激しく揺れた。
 「硬いっ、‥‥それなら、パンチッ。」
 激しい衝撃がコックピットに返った。
 「わぁーっ、硬いしっ。」
 「オオッ、コンジョウネ。」
 「‥‥このもの、馬鹿すぎです。」
 コントロール室では、リツコ以下誰もがコーコの戦いにドン引きしていた。ただ一人、トウコだけは、感動に目を輝かせて呟いていた。
 「凄い、コーコさん、気持ちが伝わります。」
 その日の模擬戦は、コーコの独り舞台だった。ひたすら叩き蹴って勝てずに終わった。
 後日談になるが、その時のコーコの戦い方からインスパイァされたドクター達は、究極最終武器を制作するのだったが。これは、後のお話に。

 家に帰ったコーコは、疲れ果てていた。その日の夕食当番のコーコが作った料理は、捏ねて叩く手作りハンバーグだった。
 「‥‥お姉ちゃん、変な殺気が残っているよ。」
 妹のサイコは、少し距離を置いていた。コーコの不敵な笑いは、半分いっていた。
 「ふっふっふっふっ‥‥、叩いても蹴っても、ダメなのね‥‥。」
 「お姉ちゃん。タネ捏ねすぎよ。叩くな。」
 「ふっ、そうね。そうなのよ。叩いてもダメなのよ‥‥。」
 「お母さん、お姉ちゃん、ヤバイよぅ。」
 母親は、冷えたビールを片手にヘッドホンでレコードを聴いていた。たぶん、ワルキューレ。

 その後も連日、シュミレータの訓練は続いた。

 土曜日は、予定どおり休暇になった。
 最初は、三人で大学訪問をする計画だった。どうしてなのか、いつの間にかエリカも同道していた。理由は定かでなかったが、その日のエリカが身に纏った衣装はビクトリア朝を似せたドレスだった。誰も特に何も質問ができなかった。
 ホームや列車内は、エリカとトウコが悪目立ちだった。二人はコスプレと見られたのだろうか。画像を撮るものが続出した。
 エリカは、気にする様子もなかった。列車の定刻運行に感心していた。
 「日本人は、どうして時間どおりに列車を動かしたがるのかしら。」
 「それは、勤勉だからであります。」
 そう答えるトウコは、あの衣装で隙なく辺りを警戒した。
 地下鉄から大学のバスを使った。
 四人の姿は、車中にあっても目立った。特にエリカは、オーラのような存在感を見せた。何故か、四人の周りに空間が出来ていた。
 正門の警備員に止められそうになると、エリカの身分証が絶大な効果を表した。コーコは、感心した。
 「‥‥凄いですね。それって、どこでもフリーパスですか。」
 「そうですね。でも、入れない場所もありますよ。」
 エリカの意味深な返事は、後に証明されることになるが、コーコは世の中の不条理に悩まない胆力があった。
 シローの研究室は、トウコが完璧に下調べをしていた。
 見覚えのある三人娘にシローは、驚きながら警戒した。
 「どうも、その節は、何かとお世話になりました。」
 コーコの猫を被った挨拶に周りが引いた。シローは、困惑した。
 「ええっと‥‥、君は。‥‥誰でしたか。」
 「コーコです。」

 
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