第6話 【対面】
文字数 3,893文字
長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【対面】
「間に合いそうですか。」
所長が、珍しくコントロール室に姿を見せた。研究室に住み込む所長を【引きこもり姫】と、ドクター達は呼んでいた。リツコに進行状況の所見を聴いてから所長は、幾つか確かめた。
「分かりました。進めて下さい。」
コーコは、操縦席のサブモニターに映る所長の様子を見ながら思った。
『‥‥やっぱ、どう見たって中学生よね。』
日本生まれながら外国籍の所長が、某国の超有名大学院を十三歳で卒業しているのを後で知った。所長になった経緯は、最後まで謎だったが、コーコと全てにおいて物が違っていた。
退室する所長の後ろ姿が見えなくなると、ドクター達が口々に言いだした。
「姫の実験は、進んでいるのか。」
「既に試作品を向こうで作ったと聞いたぞ。」
「大丈夫なのか。怖いな。あれを装備するのか。反則だろう。」
「これで、暫くは電源が落ちなくてすむから良しとするか。」
レベル3相手の模擬戦は、勝率を八割近くまで上げていた。失神する恥ずかしい姿を見せることもなく、G二十八号のパワーを上手く使い善戦していた。基本性能の差が、G二十八号とレベル3では大人と子供ぐらいなのをコーコだけ知らされていなかった。
コーコは、更衣室に向かう途中で顔を覗かせ得意げに言った。
「うふ、余裕です。」
その得意満面なコーコに、ドクター達は宣言した。
「嬢ちゃん、果たし状を送るからな。」
「‥‥はぁ、果たし状。」
コーコは、語彙が理解できずに聞き直した。ドクター達は、続けた。
「巌流島だ。(誰も知らない。)」
ドクター達の沸く冗談にリツコが横から口を挟み窘めた。
「孫のような娘を揶揄って楽しいですか。」
「いや、嬢ちゃんの緊張を解そうかと‥‥。」
「いいですか。今回が、最後のチャンスとお考え下さい。今回のG二十八号がダメなら、全員特別養護施設に出向ですよ。」
リツコは、詳細の説明を始めた。G二十八号を防衛装備の試作機として防衛省の審査に持って行く内容だった。話の展開が突然過ぎてにコーコは、真意を掴めていなかった。
「‥‥防衛装備って。これって、自衛隊が使うものでしたか。」
「それが、話が込み入っているの。防衛省が審査するのだけれど。自衛隊の装備ではなく、民間の組織が運用する工作機械として採用される予定なのよ。」
「‥‥はぁ。」
「決まれば【特別防衛隊】という民間組織を立ち上げてG二十八号を運用します。」
「海外支援救助隊のようなものですか。」
「支援や救助より防衛ね。国が表立って出来ない防衛を民間企業が代行する。そう思って。」
「‥‥はぁ、難しいおはなしですね。」
「民間に責任を転嫁させた方が、事が巧く進むことがあるの。」
「‥‥あまりよく分かりませんが。」
「今は、分からなくても大丈夫。」
「‥‥はぁ。」
コーコは、ほとんど理解できなかった。それでも漠然とではあるが、自分がとんでもない立場に立たされているように思えた。
「明日から、組み立て工場に行ってもらうけれど、親御さんに私から連絡を入れましょうか。」
リツコは、実物が組み上がっている工場で作動確認の後に審査場に移動する立案計画を伝えた。
「一週間の予定です。勿論、出張手当が別に付きます。」
その夜、母にバイト先での事情を話すと、深く理由も聞かずに了承した。
「‥‥心配じゃないの。」
コーコは、予測していたものの母の物分かりの良さに少し不満気に言った。
「もし、彼氏とお泊りだったらどうするのよ。」
「どんな男の子なの。」
「たとえよ。たとえ、もぅ。」
後になって、リツコが母の会社に出向き事情を説明して許可を取っていたことをコーコは知った。
秋の修学旅行の予行になるかと試しに用意したが、思いのほか荷物になった。その様子に妹のサイコは、静かに言った。
「‥‥宇宙にでも行くの。」
リツコが運転するマイクロバスは、ドクター達とコーコだけだった。所長は、一人先に工場に乗り込んでいた。車中は、学生のバス旅行のように賑わっていた。コーコは、運転席の横で景色を楽しんだ。田舎の海辺は、連日の激務で疲労するコーコを癒した。
「リツコさん。運転上手ですね。」
「仕事柄、大型特殊も乗れるのよ。」
「凄いですね。もしかして、飛行機なんかも操縦できたりして。」
「大丈夫、問題ないわよ。」
「‥‥えっ、冗談ですよね。」
「冗談に聞こえた。」
「リツコさんて、何者なのですか。」
「マネージャー。」
連れられて着いた先は、半島の山間にある田舎の廃校跡地だった。公堂の中が組み立て工場に改築されていた。そこで働く作業員たちも、見た目にもわかる高齢揃いだった。中央に天井を押し上げるように直立する実寸大のG二十八号は、予想以上の凶暴さを見せていた。十mを越えるグロテクスな外観を見た幼子なら思いだして夜泣きする威喝さだった。
「‥‥リアル、ヤバいかも。」
見上げるコーコは、思わずそう呟いた。ドクター達と挨拶していた同年配の大柄な工場長が、後ろで小さくなって控えるコーコに気付き覗き込んで尋ねた。
「その娘がパイロットか。」
「期待の星。」
「救世主。」
「女神様だ。」
ドクター達の称賛に、工場長は呆れ顔で言った。
「良く見つかったな。」
「‥‥初めまして、コーコです。よろしくお願いします。」
コーコは、工場長の威圧感に緊張して挨拶した。コーコの頭の先から爪先まで観察してから工場長は、改めて言った。
「物好きだな。」
「‥‥えっ。」
「まあいいか。」
「はぁ‥‥。」
コーコは、信じたかった。心配されていると。
「あのぅ、質問いいでしょうか。」
改まってコーコは、畏まり尋ねた。
「操縦席の入口が見当たりませんが。」
「この娘、乗り込むつもりなのか。」
工場長が、苦笑した。
「お前、何も聞かされていないのか。操縦室は、あのトレーラーに乗せられているコンテナの中だ。遠隔操作だよ。」
「遠隔操作でしたか。」
「そう、実際に乗っての戦闘は危険だろう。違うか。」
「はぁ‥‥。」
コーコは、納得できるようでできなかった。
「シミュレータと同じ操縦室は、G二十八号の腹部にあることはあるんだが。」
「あるんですか。」
「遠隔操作で問題ないから、緊急用だ。いずれ撤去する。」
「はぁ‥‥、なるほど。」
コーコは、生返事を続けながら思った。
『まぁ、確かに。乗っていない方が、怪我しないわね。』
トレーラーに乗せられたコンテナの中は、見慣れたシミュレータと同じだった。コーコは、覗き込みながら工場長に尋ねた。
「これって、どのくらい離れて操作できるのですか。」
「地球の反対側でも大丈夫だ。」
「あのぅ、素朴な質問なんですが。もし、このトラックが攻撃されて破壊されたらG二十八号は、動かなくなるのですか。」
「そういうことだ。」
コーコは、漠然とした不安から思った。トラックよりもG二十八号の操縦席の方が安全ではないのかと。
「‥‥なるほど。‥‥取り敢えずは、着替えますか。」
トレーラーに併設された簡易更衣室は、野営用の簡素なものだった。期待していなかったコーコでも、古いシャワー設備と洗面台にドン引きした。
「‥‥これって、使っていないでしょう。」
正式なパイロットスーツは、過激なデザインは同じでも色が違った。白とピンクを基調にした配色が妖精的だった。
「うわぁ、‥‥これって、同級生には絶対に見せられないよ。」
コーコが悩みながら着替える外では、ドクター達が工場長と話していた。
「所長の開発した装備は。」
「既に頭部に組み込んだ。今回は、ケーブルを繋げば一度だけ使える。」
「そういえば、頭部が少し変形しているか。」
ドクター達がG二十八号を見上げていた。
「儂の思いがこもったデザインが、これでは台無しだ。」
「少し顔つきが悪くなったか。仕方なかろう。」
実物のG二十八号を見た後で、操縦席からの景色を目にすると、実際に搭乗しているような感覚だった。
「どうだ。シミュレータと同じだろう。」
工場長に尋ねられてコーコは、納得した。実写画像から見える足元のトレーラーの荷台に自分がいると思うと不思議な気持ちになった。コーコは、思った。
『今、あのトラックを踏んじゃえば、わたしが死ぬって事かしら。変な感じね。』
「‥‥あのぅ、この本体の移動はどういう方法でおこなうのですか。」
コーコは、ふと思い浮かんだ疑問を投げかけた。
「このまま歩かせて行くのですか。国道とか歩いても大丈夫なんですか。」
「戦車用の運搬車両を用意してている。」
来る道の細さと曲道を想い返しながらコーコは、素朴な質問を呈した。
「これを積めるトレーラーって通れましたか。道が狭すぎるように思えましたが。」
「そこが問題なんだ。今更山道を拡張する予算も時間も無い。」
パーツごとに小分けして運び秘密裏に組み立てたのが裏目に出た話にコーコは、思った。
『こんな山奥で組み立てなければいいのに。』
後日、その理由を聞いてコーコは爆笑した。余りの馬鹿馬鹿しさに。
コーコが正式な操縦室に入り、最終調整が始まった。夕方近くまでかかり問題もなく作業は終了した。
「間に合いそうですか。」
所長が、珍しくコントロール室に姿を見せた。研究室に住み込む所長を【引きこもり姫】と、ドクター達は呼んでいた。リツコに進行状況の所見を聴いてから所長は、幾つか確かめた。
「分かりました。進めて下さい。」
コーコは、操縦席のサブモニターに映る所長の様子を見ながら思った。
『‥‥やっぱ、どう見たって中学生よね。』
日本生まれながら外国籍の所長が、某国の超有名大学院を十三歳で卒業しているのを後で知った。所長になった経緯は、最後まで謎だったが、コーコと全てにおいて物が違っていた。
退室する所長の後ろ姿が見えなくなると、ドクター達が口々に言いだした。
「姫の実験は、進んでいるのか。」
「既に試作品を向こうで作ったと聞いたぞ。」
「大丈夫なのか。怖いな。あれを装備するのか。反則だろう。」
「これで、暫くは電源が落ちなくてすむから良しとするか。」
レベル3相手の模擬戦は、勝率を八割近くまで上げていた。失神する恥ずかしい姿を見せることもなく、G二十八号のパワーを上手く使い善戦していた。基本性能の差が、G二十八号とレベル3では大人と子供ぐらいなのをコーコだけ知らされていなかった。
コーコは、更衣室に向かう途中で顔を覗かせ得意げに言った。
「うふ、余裕です。」
その得意満面なコーコに、ドクター達は宣言した。
「嬢ちゃん、果たし状を送るからな。」
「‥‥はぁ、果たし状。」
コーコは、語彙が理解できずに聞き直した。ドクター達は、続けた。
「巌流島だ。(誰も知らない。)」
ドクター達の沸く冗談にリツコが横から口を挟み窘めた。
「孫のような娘を揶揄って楽しいですか。」
「いや、嬢ちゃんの緊張を解そうかと‥‥。」
「いいですか。今回が、最後のチャンスとお考え下さい。今回のG二十八号がダメなら、全員特別養護施設に出向ですよ。」
リツコは、詳細の説明を始めた。G二十八号を防衛装備の試作機として防衛省の審査に持って行く内容だった。話の展開が突然過ぎてにコーコは、真意を掴めていなかった。
「‥‥防衛装備って。これって、自衛隊が使うものでしたか。」
「それが、話が込み入っているの。防衛省が審査するのだけれど。自衛隊の装備ではなく、民間の組織が運用する工作機械として採用される予定なのよ。」
「‥‥はぁ。」
「決まれば【特別防衛隊】という民間組織を立ち上げてG二十八号を運用します。」
「海外支援救助隊のようなものですか。」
「支援や救助より防衛ね。国が表立って出来ない防衛を民間企業が代行する。そう思って。」
「‥‥はぁ、難しいおはなしですね。」
「民間に責任を転嫁させた方が、事が巧く進むことがあるの。」
「‥‥あまりよく分かりませんが。」
「今は、分からなくても大丈夫。」
「‥‥はぁ。」
コーコは、ほとんど理解できなかった。それでも漠然とではあるが、自分がとんでもない立場に立たされているように思えた。
「明日から、組み立て工場に行ってもらうけれど、親御さんに私から連絡を入れましょうか。」
リツコは、実物が組み上がっている工場で作動確認の後に審査場に移動する立案計画を伝えた。
「一週間の予定です。勿論、出張手当が別に付きます。」
その夜、母にバイト先での事情を話すと、深く理由も聞かずに了承した。
「‥‥心配じゃないの。」
コーコは、予測していたものの母の物分かりの良さに少し不満気に言った。
「もし、彼氏とお泊りだったらどうするのよ。」
「どんな男の子なの。」
「たとえよ。たとえ、もぅ。」
後になって、リツコが母の会社に出向き事情を説明して許可を取っていたことをコーコは知った。
秋の修学旅行の予行になるかと試しに用意したが、思いのほか荷物になった。その様子に妹のサイコは、静かに言った。
「‥‥宇宙にでも行くの。」
リツコが運転するマイクロバスは、ドクター達とコーコだけだった。所長は、一人先に工場に乗り込んでいた。車中は、学生のバス旅行のように賑わっていた。コーコは、運転席の横で景色を楽しんだ。田舎の海辺は、連日の激務で疲労するコーコを癒した。
「リツコさん。運転上手ですね。」
「仕事柄、大型特殊も乗れるのよ。」
「凄いですね。もしかして、飛行機なんかも操縦できたりして。」
「大丈夫、問題ないわよ。」
「‥‥えっ、冗談ですよね。」
「冗談に聞こえた。」
「リツコさんて、何者なのですか。」
「マネージャー。」
連れられて着いた先は、半島の山間にある田舎の廃校跡地だった。公堂の中が組み立て工場に改築されていた。そこで働く作業員たちも、見た目にもわかる高齢揃いだった。中央に天井を押し上げるように直立する実寸大のG二十八号は、予想以上の凶暴さを見せていた。十mを越えるグロテクスな外観を見た幼子なら思いだして夜泣きする威喝さだった。
「‥‥リアル、ヤバいかも。」
見上げるコーコは、思わずそう呟いた。ドクター達と挨拶していた同年配の大柄な工場長が、後ろで小さくなって控えるコーコに気付き覗き込んで尋ねた。
「その娘がパイロットか。」
「期待の星。」
「救世主。」
「女神様だ。」
ドクター達の称賛に、工場長は呆れ顔で言った。
「良く見つかったな。」
「‥‥初めまして、コーコです。よろしくお願いします。」
コーコは、工場長の威圧感に緊張して挨拶した。コーコの頭の先から爪先まで観察してから工場長は、改めて言った。
「物好きだな。」
「‥‥えっ。」
「まあいいか。」
「はぁ‥‥。」
コーコは、信じたかった。心配されていると。
「あのぅ、質問いいでしょうか。」
改まってコーコは、畏まり尋ねた。
「操縦席の入口が見当たりませんが。」
「この娘、乗り込むつもりなのか。」
工場長が、苦笑した。
「お前、何も聞かされていないのか。操縦室は、あのトレーラーに乗せられているコンテナの中だ。遠隔操作だよ。」
「遠隔操作でしたか。」
「そう、実際に乗っての戦闘は危険だろう。違うか。」
「はぁ‥‥。」
コーコは、納得できるようでできなかった。
「シミュレータと同じ操縦室は、G二十八号の腹部にあることはあるんだが。」
「あるんですか。」
「遠隔操作で問題ないから、緊急用だ。いずれ撤去する。」
「はぁ‥‥、なるほど。」
コーコは、生返事を続けながら思った。
『まぁ、確かに。乗っていない方が、怪我しないわね。』
トレーラーに乗せられたコンテナの中は、見慣れたシミュレータと同じだった。コーコは、覗き込みながら工場長に尋ねた。
「これって、どのくらい離れて操作できるのですか。」
「地球の反対側でも大丈夫だ。」
「あのぅ、素朴な質問なんですが。もし、このトラックが攻撃されて破壊されたらG二十八号は、動かなくなるのですか。」
「そういうことだ。」
コーコは、漠然とした不安から思った。トラックよりもG二十八号の操縦席の方が安全ではないのかと。
「‥‥なるほど。‥‥取り敢えずは、着替えますか。」
トレーラーに併設された簡易更衣室は、野営用の簡素なものだった。期待していなかったコーコでも、古いシャワー設備と洗面台にドン引きした。
「‥‥これって、使っていないでしょう。」
正式なパイロットスーツは、過激なデザインは同じでも色が違った。白とピンクを基調にした配色が妖精的だった。
「うわぁ、‥‥これって、同級生には絶対に見せられないよ。」
コーコが悩みながら着替える外では、ドクター達が工場長と話していた。
「所長の開発した装備は。」
「既に頭部に組み込んだ。今回は、ケーブルを繋げば一度だけ使える。」
「そういえば、頭部が少し変形しているか。」
ドクター達がG二十八号を見上げていた。
「儂の思いがこもったデザインが、これでは台無しだ。」
「少し顔つきが悪くなったか。仕方なかろう。」
実物のG二十八号を見た後で、操縦席からの景色を目にすると、実際に搭乗しているような感覚だった。
「どうだ。シミュレータと同じだろう。」
工場長に尋ねられてコーコは、納得した。実写画像から見える足元のトレーラーの荷台に自分がいると思うと不思議な気持ちになった。コーコは、思った。
『今、あのトラックを踏んじゃえば、わたしが死ぬって事かしら。変な感じね。』
「‥‥あのぅ、この本体の移動はどういう方法でおこなうのですか。」
コーコは、ふと思い浮かんだ疑問を投げかけた。
「このまま歩かせて行くのですか。国道とか歩いても大丈夫なんですか。」
「戦車用の運搬車両を用意してている。」
来る道の細さと曲道を想い返しながらコーコは、素朴な質問を呈した。
「これを積めるトレーラーって通れましたか。道が狭すぎるように思えましたが。」
「そこが問題なんだ。今更山道を拡張する予算も時間も無い。」
パーツごとに小分けして運び秘密裏に組み立てたのが裏目に出た話にコーコは、思った。
『こんな山奥で組み立てなければいいのに。』
後日、その理由を聞いてコーコは爆笑した。余りの馬鹿馬鹿しさに。
コーコが正式な操縦室に入り、最終調整が始まった。夕方近くまでかかり問題もなく作業は終了した。