第17話 【乱戦】
文字数 3,779文字
長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【乱戦】
島の中腹に擬態待機している富岳改魔人のコックピットでエリカは、G二十八号の行動を観察していた。
「‥‥最初の戦闘は、そうなりますよね。」
そう呟きながらエリカは、数カ月前に米国領に派遣された実戦を想い返していた。
『充分に訓練を積んだわたくしでも、やらかしてしまいましたから。』
「さて、わたくしも始めましょうか。」
エリカは、碧い目を不敵に光らせた。リツコから命令が下った。
「【R・B】が船舶を転覆させた。特殊部隊が陸に向かっている。」
「了解しました。それにしても、芋娘、まったく何てコードネームを付けたのでしょう。品位を疑います。」
「揶揄わないの。あの子、あれで真面目に考えているのよ。」
「そうでしょうか。天然だと思いますが。」
「用意は良い。」
「大丈夫です。」
「では、海岸線を防衛ラインとする。」
「了解しました。上陸する兵士を捕獲します。」
「対戦車用ロケットランチャーを装備してると思われる。」
「心得ました。富岳改魔人、発進します。」
エリカは、暴風雨の中を海岸線に立った。
荒れる波間に転覆した漁船が船底を上に向けて揺れていた。G二十八号が暴れた後の悲惨さを見てコーコは、息を呑んだ。
「‥‥これでは、怪我人が出てしまう。」
「大丈夫。今のところ報告は入っていない。」
リツコの返答は、端的だった。
「それに、医療班の準備は万全だから。」
「‥‥溺れそうですよ。」
「溺れるような兵士はいない。」
リツコは、続けた。
「余計な心配をしないで、防衛を続けなさい。」
「‥‥あの船で最後ね。」
コーコは、最後の漁船を転覆させた。その直後だった。
「‥‥わぁ。」
コーコの悲鳴が上がった。G二十八号の足が、珊瑚礁の端を踏み外していた。真っ逆さまに海底深くに落ちて行った。
「うわぁ‥‥、止まれっ。」
垂直に近い急斜面の岩肌を手で掴もうとするが効果がなかった。モニターは真っ暗になった。
「‥‥えっ、何で真っ暗。壊れたのっ。」
G二十八号が海底に向かって沈んでいくのが体感できてコーコは怯えた。
「ドクター、嘘つきぃ。壊れたじゃないの。化けて出てやる。」
操縦席内が赤く点滅して警戒警報が鳴った。
「まだ、彼氏もいないのに。告ってもいないのに。」
コーコは、気持ちの整理が追い付かずに悔しさで泣き出していた。
「どうすればいいのよ。絶対、呪ってやる。」
真っ暗な深海に落ちて行った。
強い衝撃が起こりG二十八号の沈下が停まった。
「‥‥えっ、止まった。海底。」
基地のコントロール室で、ケーブルの排出を止めたのだった。
「嬢ちゃん聞こえるか。」
ドクター達の心配した声が響いた。
「大丈夫か。」
「大丈夫でありません。壊れました。壊れました。」
コーコは、泣きながら訴え噛みついた。ドクター達は、宥めながら指示を出した。
「先ずは、機体の異常をチェックを。」
コーコは、どこも異常がないのを確かめ安堵した。
「‥‥えっ、全て正常グリーンです。助かった。でも、外が真っ暗です。」
「深海は、そうなんだよ。」
「はぁ‥‥そうですか。って、逆さまです。下向いてます。」
コーコは、頭が斜め下になっているに気付き叫んだ。ドクター達の他人事のような声が操縦席に響いた。
「ケーブルにぶら下っているのかな。まあ、大丈夫だろう。」
「大丈夫じゃない。頭に、血がのぼるっ。」
コーコは、じたばたして何とか頭を上に体勢を戻した。
「‥‥はぁ、何とかできた。」
コーコは、G二十八号の目に組み込まれたライトをつけた。仄暗く外の岩肌が確認できた。
「って、もしかして、この崖を登るの。」
「仕方ないだろう。ケーブルを掴んでもいいから上がってこい。だが、くれぐれも切るなよ。内部バッテリーだけでは、登り切れないぞ。」
「ひぇー、脅かさないで下さいよぅ。それより、ホントに壊れていないですよね。」
「此方の機器でも異常は出ていない。」
「この操縦席、脱出カプセルになるのでしたよね。脱出します。」
「否。本体は壊れていないから。」
G二十八号は、電源ケーブルを掴んで海面に向かった。水深千八百メートルを越えていた。コーコは、慣れない動きに珊瑚礁まで上がるのに四苦八苦した。
その頃、波打ち際ではエリカの富岳改魔人が、特殊部隊相手に戦いを始めようとしていた。コックピットのモニターに、荒れる波間を泳ぎ海岸に近付く人を全て認識表示して追尾した。幾つかのグループに分かれていた。
「けっこう広がっていますか。」
富岳改魔人が使う捕獲兵器は、ドクター達が開発したものだった。閃光と共に捕獲網が拡がり半径五メートル内の人を絡め捕って身動きできないようにした。
見かけは漁民だが訓練の積んだ兵士の動きだった。捕獲網で絡め捕られるのを見ると散開して対処した。
「対応が早いですね。でも、想定内です。」
エリカは、次々に捕獲兵器を放ち兵を絡め捕っていった。
「これで、十二確保です。充分に用意していますから、さぁ、いらっしゃい。」
波打ち際で次々に捕獲網で捕らえていった。
そこに、コックピット内にレーザーロックの警報が鳴った。エリカの動きは、神がかっていた。二方向からの対戦車ランチャーに素早く対処した。殆んど同時に発射された飛翔体を剣で叩き切った。
閃光と爆炎の中を富岳改魔人を動かし捕獲武器を次々と放った。
「わたくしに当てようなんて、一万年と二千年早いですわよ。」
富岳改魔人の戦闘は、見事なものだった。全て波打ち際で捕獲網に絡め捕っていた。その戦闘を少し離れた個人用のシェルターからトウコは、眺め感心した。
「‥‥凄い。見事です。」
トウコら警護兵は、取り逃がした者の対処を命じられていた。トウコは、激しい白兵戦を覚悟していたのだ。
エリカは、捕獲網で絡め捕られて身動きできないのを、一つずつ掴み上げて用意していた柵に放り込んでいった。
「こちらエリカ、富岳改魔人。任務完了。」
「了解。ご苦労様。後は、此方に任せてもらいます。」
「指令。芋娘は、」
「現在、ケーブルを掴んで浮上中。」
「そうですか。救助は、必要でしょうか。」
「大丈夫。エリカは、所定の位置に戻り補給を受けて待機。」
コーコは、ケーブルを掴み足を岩肌に掛けて登り続けていた。G二十八号の形体からその動きは困難を伴った。
「‥‥ふぅ、足踏ん張れないよ。足、短すぎでしょ。」
コーコは、泣き言を言っていた。
「それに、この手って。モノ掴みにくいし。どうして、こんな手にしたのよ。もぅ、絶対、バカね。」
「‥‥聞こえてるぞ。まあ、そう言われてもしかたないか。」
ドクター達の同情する声がコーコの気持ちを逆なでした。
「聞こえたっていいですよぅ。もっと掴みやすくしてくださいよ。同情するなら改造してください。」
コーコは、半ベソをかきながら怒りをぶちまけていた。
海面まで少しの場所で石の壁のような人工物に気付いた。
「‥‥えっ、これって。」
コーコは、G二十八号の動きを止めて観察した。
「石の壁のようなのがありますが。」
「‥‥石の壁だと。」
ドクター達の怪訝そうな声が響いた。
「此方でも画像は確認した。ライトをもう少し強くできるか。」
海底の闇の中で頼りない光が石灰岩のような岩肌を照らした。
「どうして、石の壁なんか。」
「自然にできたものにしては、よくできているな。」
上下の幅は、G二十八号と同じぐらいだった。左右にその壁が、珊瑚礁の縁に沿い続いていた。水深は、二十メートルだった。
「何でしょうね。」
「後日、調べてもらう。嬢ちゃんは、そのまま珊瑚礁まで登りなさい。」
ドクター達は、冗談を言える余裕がもどっていた。
「今度落ちたら、ケーブルを切断するからな。」
コーコも、海面が見えて落ち着きを取り戻していた。
「はぁ‥‥、海の中でロッククライミングするとは思わなかったですよぅ。」
「よく頑張った。」
「特殊部隊のような漁民の人達は。」
「全員。エリカ様が捕獲したようだ。」
「さすが、エリカ様。」
珊瑚礁に上がると、風雨は激しくなっていた。リツコがサブモニター現れた。
「コーコは、波打ち際の元の位置まで戻りなさい。整備班が待機中です。」
益々歩きにくくなった珊瑚礁を揺られ流されて元の場所に辿り着いた。直ぐに整備班が機体の点検を始めた。トウコも駆けつけ、ハッチを開けて凱旋を讃えた。
「ご苦労様でした。コーコさん見事な戦いでした。」
「ありがとう。でも、珊瑚礁から落ちちゃいました。あっはははは‥‥。」
「ご無事でなによりです。」
そこに突如、地震が起こった。突き上げられる激震にコーコは、悲鳴を上げた。
目の前に信じられない光景がおこった。珊瑚礁全体が、荒れ狂う波を押し上げて隆起した。
「‥‥なんじゃこりゃ。」
コーコは、思わず昔の名セリフを叫んでいた。
島の中腹に擬態待機している富岳改魔人のコックピットでエリカは、G二十八号の行動を観察していた。
「‥‥最初の戦闘は、そうなりますよね。」
そう呟きながらエリカは、数カ月前に米国領に派遣された実戦を想い返していた。
『充分に訓練を積んだわたくしでも、やらかしてしまいましたから。』
「さて、わたくしも始めましょうか。」
エリカは、碧い目を不敵に光らせた。リツコから命令が下った。
「【R・B】が船舶を転覆させた。特殊部隊が陸に向かっている。」
「了解しました。それにしても、芋娘、まったく何てコードネームを付けたのでしょう。品位を疑います。」
「揶揄わないの。あの子、あれで真面目に考えているのよ。」
「そうでしょうか。天然だと思いますが。」
「用意は良い。」
「大丈夫です。」
「では、海岸線を防衛ラインとする。」
「了解しました。上陸する兵士を捕獲します。」
「対戦車用ロケットランチャーを装備してると思われる。」
「心得ました。富岳改魔人、発進します。」
エリカは、暴風雨の中を海岸線に立った。
荒れる波間に転覆した漁船が船底を上に向けて揺れていた。G二十八号が暴れた後の悲惨さを見てコーコは、息を呑んだ。
「‥‥これでは、怪我人が出てしまう。」
「大丈夫。今のところ報告は入っていない。」
リツコの返答は、端的だった。
「それに、医療班の準備は万全だから。」
「‥‥溺れそうですよ。」
「溺れるような兵士はいない。」
リツコは、続けた。
「余計な心配をしないで、防衛を続けなさい。」
「‥‥あの船で最後ね。」
コーコは、最後の漁船を転覆させた。その直後だった。
「‥‥わぁ。」
コーコの悲鳴が上がった。G二十八号の足が、珊瑚礁の端を踏み外していた。真っ逆さまに海底深くに落ちて行った。
「うわぁ‥‥、止まれっ。」
垂直に近い急斜面の岩肌を手で掴もうとするが効果がなかった。モニターは真っ暗になった。
「‥‥えっ、何で真っ暗。壊れたのっ。」
G二十八号が海底に向かって沈んでいくのが体感できてコーコは怯えた。
「ドクター、嘘つきぃ。壊れたじゃないの。化けて出てやる。」
操縦席内が赤く点滅して警戒警報が鳴った。
「まだ、彼氏もいないのに。告ってもいないのに。」
コーコは、気持ちの整理が追い付かずに悔しさで泣き出していた。
「どうすればいいのよ。絶対、呪ってやる。」
真っ暗な深海に落ちて行った。
強い衝撃が起こりG二十八号の沈下が停まった。
「‥‥えっ、止まった。海底。」
基地のコントロール室で、ケーブルの排出を止めたのだった。
「嬢ちゃん聞こえるか。」
ドクター達の心配した声が響いた。
「大丈夫か。」
「大丈夫でありません。壊れました。壊れました。」
コーコは、泣きながら訴え噛みついた。ドクター達は、宥めながら指示を出した。
「先ずは、機体の異常をチェックを。」
コーコは、どこも異常がないのを確かめ安堵した。
「‥‥えっ、全て正常グリーンです。助かった。でも、外が真っ暗です。」
「深海は、そうなんだよ。」
「はぁ‥‥そうですか。って、逆さまです。下向いてます。」
コーコは、頭が斜め下になっているに気付き叫んだ。ドクター達の他人事のような声が操縦席に響いた。
「ケーブルにぶら下っているのかな。まあ、大丈夫だろう。」
「大丈夫じゃない。頭に、血がのぼるっ。」
コーコは、じたばたして何とか頭を上に体勢を戻した。
「‥‥はぁ、何とかできた。」
コーコは、G二十八号の目に組み込まれたライトをつけた。仄暗く外の岩肌が確認できた。
「って、もしかして、この崖を登るの。」
「仕方ないだろう。ケーブルを掴んでもいいから上がってこい。だが、くれぐれも切るなよ。内部バッテリーだけでは、登り切れないぞ。」
「ひぇー、脅かさないで下さいよぅ。それより、ホントに壊れていないですよね。」
「此方の機器でも異常は出ていない。」
「この操縦席、脱出カプセルになるのでしたよね。脱出します。」
「否。本体は壊れていないから。」
G二十八号は、電源ケーブルを掴んで海面に向かった。水深千八百メートルを越えていた。コーコは、慣れない動きに珊瑚礁まで上がるのに四苦八苦した。
その頃、波打ち際ではエリカの富岳改魔人が、特殊部隊相手に戦いを始めようとしていた。コックピットのモニターに、荒れる波間を泳ぎ海岸に近付く人を全て認識表示して追尾した。幾つかのグループに分かれていた。
「けっこう広がっていますか。」
富岳改魔人が使う捕獲兵器は、ドクター達が開発したものだった。閃光と共に捕獲網が拡がり半径五メートル内の人を絡め捕って身動きできないようにした。
見かけは漁民だが訓練の積んだ兵士の動きだった。捕獲網で絡め捕られるのを見ると散開して対処した。
「対応が早いですね。でも、想定内です。」
エリカは、次々に捕獲兵器を放ち兵を絡め捕っていった。
「これで、十二確保です。充分に用意していますから、さぁ、いらっしゃい。」
波打ち際で次々に捕獲網で捕らえていった。
そこに、コックピット内にレーザーロックの警報が鳴った。エリカの動きは、神がかっていた。二方向からの対戦車ランチャーに素早く対処した。殆んど同時に発射された飛翔体を剣で叩き切った。
閃光と爆炎の中を富岳改魔人を動かし捕獲武器を次々と放った。
「わたくしに当てようなんて、一万年と二千年早いですわよ。」
富岳改魔人の戦闘は、見事なものだった。全て波打ち際で捕獲網に絡め捕っていた。その戦闘を少し離れた個人用のシェルターからトウコは、眺め感心した。
「‥‥凄い。見事です。」
トウコら警護兵は、取り逃がした者の対処を命じられていた。トウコは、激しい白兵戦を覚悟していたのだ。
エリカは、捕獲網で絡め捕られて身動きできないのを、一つずつ掴み上げて用意していた柵に放り込んでいった。
「こちらエリカ、富岳改魔人。任務完了。」
「了解。ご苦労様。後は、此方に任せてもらいます。」
「指令。芋娘は、」
「現在、ケーブルを掴んで浮上中。」
「そうですか。救助は、必要でしょうか。」
「大丈夫。エリカは、所定の位置に戻り補給を受けて待機。」
コーコは、ケーブルを掴み足を岩肌に掛けて登り続けていた。G二十八号の形体からその動きは困難を伴った。
「‥‥ふぅ、足踏ん張れないよ。足、短すぎでしょ。」
コーコは、泣き言を言っていた。
「それに、この手って。モノ掴みにくいし。どうして、こんな手にしたのよ。もぅ、絶対、バカね。」
「‥‥聞こえてるぞ。まあ、そう言われてもしかたないか。」
ドクター達の同情する声がコーコの気持ちを逆なでした。
「聞こえたっていいですよぅ。もっと掴みやすくしてくださいよ。同情するなら改造してください。」
コーコは、半ベソをかきながら怒りをぶちまけていた。
海面まで少しの場所で石の壁のような人工物に気付いた。
「‥‥えっ、これって。」
コーコは、G二十八号の動きを止めて観察した。
「石の壁のようなのがありますが。」
「‥‥石の壁だと。」
ドクター達の怪訝そうな声が響いた。
「此方でも画像は確認した。ライトをもう少し強くできるか。」
海底の闇の中で頼りない光が石灰岩のような岩肌を照らした。
「どうして、石の壁なんか。」
「自然にできたものにしては、よくできているな。」
上下の幅は、G二十八号と同じぐらいだった。左右にその壁が、珊瑚礁の縁に沿い続いていた。水深は、二十メートルだった。
「何でしょうね。」
「後日、調べてもらう。嬢ちゃんは、そのまま珊瑚礁まで登りなさい。」
ドクター達は、冗談を言える余裕がもどっていた。
「今度落ちたら、ケーブルを切断するからな。」
コーコも、海面が見えて落ち着きを取り戻していた。
「はぁ‥‥、海の中でロッククライミングするとは思わなかったですよぅ。」
「よく頑張った。」
「特殊部隊のような漁民の人達は。」
「全員。エリカ様が捕獲したようだ。」
「さすが、エリカ様。」
珊瑚礁に上がると、風雨は激しくなっていた。リツコがサブモニター現れた。
「コーコは、波打ち際の元の位置まで戻りなさい。整備班が待機中です。」
益々歩きにくくなった珊瑚礁を揺られ流されて元の場所に辿り着いた。直ぐに整備班が機体の点検を始めた。トウコも駆けつけ、ハッチを開けて凱旋を讃えた。
「ご苦労様でした。コーコさん見事な戦いでした。」
「ありがとう。でも、珊瑚礁から落ちちゃいました。あっはははは‥‥。」
「ご無事でなによりです。」
そこに突如、地震が起こった。突き上げられる激震にコーコは、悲鳴を上げた。
目の前に信じられない光景がおこった。珊瑚礁全体が、荒れ狂う波を押し上げて隆起した。
「‥‥なんじゃこりゃ。」
コーコは、思わず昔の名セリフを叫んでいた。