第20話 【合力】

文字数 3,011文字

長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【合力】

 孤島での出来事がコーコの夢に時々あらわれた。珊瑚礁全体が海中から隆起する様子に魘されて目覚めた。それでも、その光景がトラウマにならなかった。性格的なこともあったが、その夏の日々が日常からかけ離れた状況下でのバイトだったからだろうか。
 早朝のキッチンで母が弁当を作っていた。
 「早いのね。」
 「まぁね。お年頃だし。」
 「そう、もしかしての恋煩い。」
 母の直感の鋭さは、今に始まった事でなかった。
 「母さんも、あったわよ。」
 「それは、想像したくないし。」
 そう言ってからコーコは、母と妹が夏の商店街のクジ引きで当てた一泊温泉旅行のお土産が父の仏壇の前に置かれているのを目にした。父の写真の笑顔は、コーコを毎朝励ました。
 「このお土産、サイコでしょう。なんで、お札なの。」
 「さぁ、サイコのセンスってね。よく分からないでしょう。」
 コーコも、その考えに同調できた。
 「ところで、わたしにはなかったの。」
 「そうだった。渡すの忘れてた。」
 母が仏壇の戸袋から取り出したのは、お守りだった。
 「‥‥はぁ、お守り。って、なんで安産のお守りよ。フツーは、学力とか恋愛とかだし。」
 「いずれ、必要でしょう。」
 それでもコーコは、しっかりと身に着けた。変なところで信心深かった。
 「‥‥まっ、いいか。今日も元気だ。御飯が美味しい。」
 コーコは、シローが在籍する大学訪問をどのように進めようか色々と考えていた。

 毎朝のように、トウコが玄関まで迎えに現れた。その朝は、エリカも並んでいた。
 「エリカ様、その恰好は‥‥。」
 エリカの学生服姿にコーコは、途中で言葉を失った。エリカがボーズを取った。
 「似合いますでしょう。」
 「‥‥はぁ、それなりに。」
 制服姿は、肉感的だった。
 「でも、ちょっとタイトですわね。」
 「‥‥って、まさか。」
 「交換留学生として貴女の高校で社会勉強をします。」
 「‥‥大丈夫なんですか。」
 「何がでしょう。」
 エリカは、毅然と言った。
 「我がユナイテッド・キングダムに不可能はありません事よ。わたくしを交換留学生とするのは動作もないでしょう。」
 エリカが出したパスポートと学生の身分証を見てコーコは言葉もなかった。十七歳の高校生になっていた。予め準備している様子にコーコは、恐れ入った。
 「では、参りましょう。」
 その日から、英国領事館が用意した車になった。エリカは、当然のように送迎の車の後ろに乗り込んだ。
 「もちろん、防弾仕様です。」

 エリカの登場に学内が話題騒然となった。それまでも、交換留学生は数多くいたが、あらゆる意味で図抜けていた。男子学生の羨望と女子学生の妬みの中でエリカは、その日の内に取り巻きをつくり女王の立場になっていた。コーコは、呆れ独り呟いた。
 「‥‥もぅ、勝手にしてよ。」
 それでもエリカなりに楽しんでいるのがコーコには、ほのぼのしく見えた。エリカの母国の大学生活が想像できた。コーコは、隣のトウコに耳打ちした。
 「どこまでもエリカ様ね。ネジが外れていたりして。」
 「筋が一本通って見事です。」
 「はぁ‥‥、ええっ。」
 後日知ることになるが、リツコとトウコのマンションにエリカ専用の寝具が運び込まれ一部屋が占拠されていたのだ。
 「ところで、マチコって、今どこにいるかな。」
 「先ほど、北校舎の三階廊下を教室に向かっていました。」
 トウコの情報収集能力をコーコは、重宝していた。
 「急げば、教室に入る前に合流できます。」
 教室手前でマチコを捉まえた。
 「突然だけど、この土曜日。大学の見学に付き合ってよ。」
 「えっ、オープンキャンパスやっているの。この時期に。」
 マチコの驚きにコーコは、少し声を落とした。
 「じゃなくて、知り合いの訪問。」
 「なに、もしかして。男目当て。」
 「鋭い。それより、就活大学生は、あれからどうなのよ。」
 「えへっ、‥‥それなりに。」
 含ませたマチコの様子にコーコは、感心した。
 「それより、エリカさんもバイトで知り合ったの。」
 「そうなるのね。」
 「コーコ、何のバイトしてたのよ。」
 「はぁ‥‥、話せないけど。この夏は、過酷なバイトだったよぅ。」
 三人でや約束を取り決めた。

 授業が進むと、エリカが日本語の読み書きができるのに驚かされた。コーコは思った。
 『英国人の皮をかぶった日本人だったりして。笑えるし。』

 学校帰りにエリカに誘われて、SNSで話題になっている和風甘味処に並んだ。
 「初めて並びました。」
 エリカは、どこまでも楽しそうだった。
 寄り道をして研究所に着くと、新しい三台のシュミレータが起動準備が整っていた。ジョーダンが待ち構えていた。
 「オカエリネ。オソイネ。」
 「貴男の都合でわたくしは、動いていません事よ。リツコ司令。時間どおりでしょうか。」
 コーコとエリカは、新しいパイロットスーツに着替えた。相変わらず過激な水着仕様だった。久々の操縦席が落ち着く感覚にコーコは、溜息まじりに納得をして呟いた。
 「‥‥はぁ、わたしって慣れてる。これって、どうなのよ。」
 「お嬢ちゃんは、そこが一番似合ってるぞ。」
 ドクター達が、コーコの姿に感極まったような声を上げた。コーコは、小さく溜息をついた。
 「はぁ‥‥、冗談は、お歳だけにしてください。もぅ。」
 「おおっ、嬢ちゃんらしい。気概じゃ。」
 「それよりも、これ、新しいって聞きましたが、どこか変わってますか。」
 コーコは、改めて内部を見まわした。ドクター達の得意げな顔が、サブモニターにあった。
 「ベルトを見なさい。ボタンが一つ増えとるだろう。」
 コーコは、レールガンの起動スイッチを思い起こした。一度使った記憶が鮮明によみがえった。コーコ的には、あの光景が強く残っていた。そのスイッチに並んでもう一つ新たに設置されていた。
 「それを押すとだ。操縦席が合体仕様になる。」
 「はぁ‥‥、合体仕様。」
 コーコは、一抹の不安を感じた。好からぬ考えに溜息を零した。ドクター達の目の輝きが疎ましかった。
 「‥‥まぁ、いいか。試しに押してみますか。」
 内部モニターが暗転して左隣にジョーダンのコックピットが表れその向こうにエリカも映った。
 「‥‥な、何なんですか。」
 コーコは、予想もしない画像の広がりに慌て声を上げた。
 「三人の操縦席の画像が同じ場所に映る。三人で操作しているように見えるだろう。」
 ドクター達の満面の笑みを見てコーコは肩を落とし、内部モニターに映るジョーダンの上半身の裸に絶句した。
 「‥‥少佐は、なんで、裸なのよ。」
 コーコは、マッチョ体形が苦手だった。興味がないというか、魅力を感じなかった。コーコは、縫いぐるみ系の男子が好みだった。もちろん、美形であるのも必修だった。
 「キアイネ。レディ。オーケー、ダイジョウブネ。」
 ジョーダンの気合がこもる雄たけびにコーコは、びびった。
 「‥‥こわっ。」
 「‥‥これだから、まったく困りますね。」
 エリカが、冷たく言い捨てた。コーコは、思い付いた考えを口にした。
 「これって、必要な仕様なんですか。」

 三台の新しいシュミレータは、現在製造が急がれている新型のロボット用だった。改めてコーコは、さほど変わらない内部の仕様に呆れ呟いた。
 「これなら、前のでもいいと思うけどな‥‥。少佐の隣、暑苦しいし。」
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