第22話 【急転】
文字数 3,258文字
長いタイトルを付けたいが‥‥、取り敢えずは【急転】
シローの長い沈黙が、その場の空気を重くした。
「‥‥あぁ、あの時の。‥‥気付かなくて、すみません。」
シローの反応は、あやふやだった。コーコは、今まで見せたことのない笑顔をつくっていた。
「こちらこそ。突然、押しかけまして、ご迷惑だったでしょうか。」
「いぇ‥‥。」
「ちゃんとしたご挨拶をせずにお別れしたのが心残りで。」
「はぁ‥‥。」
「たまたま、近くを通りましたので。」
「どうも‥‥。」
シローの反応は、コーコの存在を想い出せないでいるようにも見えた。
エリカとトウコの仮装的な衣装がシローを困惑させ警戒を強めさせていた。
コーコは、可愛い紙袋を差し出した。思い詰めた目が座っていた。
「‥‥これ、お口に合いますかどうか。」
コーコの手作りクッキーセットに周りが引いた。前日に悪戦苦闘して焼き上げたクッキーだった。失敗した残骸がテーブルを占拠しているのを料理上手な母と妹が非難したのをコーコは、根に持っていた。
『あいつら、乙女の真心と一念を馬鹿にして。許さないし。』
それでもクッキーは、自分なりに満足していた。なぜか、形はG二十八号の顔を模していた。
「‥‥どぅも、皆で頂きます。」
「いぇいぇ、お一人で。」
「公社の方でしたか。」
「いぇ、バイトでした。」
「えっ‥‥。」
「高校生です。」
「えっ、若いと思った。」
「あは、もぅ、嫌ですよぅ。」
コーコが、これ以上ない余所行きの笑顔を見せた。
トウコの顔が引き攣った。サチコの目が点になり、エリカは呆れた冷たい視線を向けた。
かみ合わない二人の会話に周りは、辛抱強く傍観していた。
「‥‥あっ、そうだ。わたしたち、ちよっと。」
突然、サチコが思いだしたようにエリカとトウコに目配せして研究室から連れ出した。
無言のまま三人は、学食に立ち寄った。
「意外ね。コーコって、超々美形男子が好みだったのに。」
最初にサチコが、ポツリと話し出した。
「ふぅ‥‥、理想と現実の落差に悩むって。」
「達観した仏様のようなお顔でしたが。あれはあれとして、好いかと思います。」
トウコが、自分の感想に頷きながら言った。エリカは、不思議そうに尋ねた。
「彼は、所帯持ちでしょう。」
「ええっ‥‥、どうして分かるのですか。」
サチコの疑問にトウコも頷いた。エリカは、紅茶を一口飲んでから続けた。
「本棚の写真楯に、お子様とのツーショットがありました。」
「流石、エリカ殿。観察眼が違います」
トウコは、感心した。
「それって、悲劇じゃない。」
サチコは、嘆息した。
「コーコって、たぶん。あれよ。一途だし。」
「まさか。」
「それは、どうでしょう。」
「いやいや、幼馴染が言うのだから。信じて。」
「それは、拙いと思います。」
「どうでしょう。」
「ですが、思う気持ちは尊いです。」
「不倫になるよね。」
「フリン‥‥、高校生教師でしたか。」
「それは、どうしてなのでしょうか。」
「コーコって、前見えなくなるよ。」
「真っ直ぐのようですから。仕方ありませんね。」
「素敵です。熱い思いに感動します。」
「いゃ、それは、」
「でも、そうなのですか。」
「そうだよ。」
懇親話が、混線していた。三人は、半ば真剣で少しばかり無責任だった。
サチコが、溜息混じりに呟いた。
「でも、コーコがあんなキャラだったなんて。もぅ、絶対に無理してるよ。」
「そうでしょうか。わたくしには、いつもの様に見えましたが。」
「周りが見えていないと思います。」
「あら‥‥、トウコがいえば、不思議ね。」
「そうでありましょうか。」
トウコは、エリカの前では上下関係が自衛隊仕様だった。
その後も三人が話を熱く積もらせていると、緊急電が入った。トウコが、急ぎコーコのもとに走った。
研究室のシローとコーコの話は、どこまでも錯綜していた。血相を変えたトウコが飛び込んでくる姿にシローは驚きコーコは慌てた。
「失礼します。コーコさん、緊急の招集であります。」
「えっ、ええええっ‥‥。」
コーコは、笑顔を引き攣らせた。
「とても残念ですが、急用のようです。あのぅ、今度、ゆっくりとお邪魔してもよろしいでしょうか。」
「はぁ、‥‥こんなところでよければ。」
「有難う御座います。必ず、必ずです。」
コーコは、とびっきりの笑顔を向けた。トウコは、コーコを抱えんばかりに退室させた。
「コーコさん、急ぎます。」
「もぅ、なんなの。世界よ、馬に蹴られてしまえ。」
コーコの顔は、失意と怒りに変貌していた。
英国大使館の車が到着した。
三人が乗り込み車が走り去るのを呆然とサチコは見送り呟いた。
「何なの、あの三人‥‥。」
三人が向かった先は、在日米軍基地だった。既に出港している【紀伊】にヘリで向かった。三人の甲冑が甲板に並んでいた。既にジョーダン少佐は、搭乗して気合が入っていた。
コーコとエリカが着替え各自の甲冑に搭乗すると、リツコは作戦を伝えた。
「本日、正午。島の動きが停止した。この期に乗じて上陸。制圧をする。」
作戦は、明快だった。
「時は、一刻を争う。甲冑三体は、島に上陸し、日米共同の特殊部隊の警護に向かう。」
「でも、どうして島が停まったのですか。御都合主義の話じゃないのに。」
コーコの疑問にリツコが言い放った。
「この世の中、ご都合で動いているようなものです。」
「ええっ‥‥、って、リツコさんが、それをいいますか。」
「取り敢えずは、チャンスは最大限に利用する。上からの命令です。」
「はぁ‥‥、納得すればいいのね。」
作戦は、シンプルだった。日米共同部隊が、輸送ヘリと水陸両用車両で上陸して占拠する。その部隊の援護に三体の甲冑が同行するというものだった。
「作戦開始は、15・00時。各員の奮闘努力を期待する。」
強襲揚陸艦【紀伊】にZ旗が揚がった。
日米の精鋭部隊は、島に上陸を果たすと予定通りに制圧した。三体の甲冑は、島の三方向に橋頭堡を確保した。
最初に入り口を見つけたのは、コーコだった。たまたま踏んだ足元が凹んだ。
「‥‥これ、入り口じゃないですか。」
「画像を寄せろ。」
リツコは命じて、甲冑とシンクロしているカメラを動かせた。開口部の光学迷彩が、G二十八号の足に触発され露出していた。
水陸両用部隊の隊長にリツコが確認した。
「入り口を確保。潜入できるか。」
部隊が展開して報告が上がった。
「‥‥入口、確保。‥‥突入できます。」
そこに、コーコが具申した。
「【R・B】も入れます。」
「了解した。コーコを先頭に突入。」
コーコの甲冑が、匍匐前進できるスクエアな空間だった。
「‥‥これって、きついよぅ。」
前屈みの態勢にコーコは、直ぐに根を上げた。突然、前に進めなくなり慌てた。
「‥‥えっ、なに、なんですかぁ。」
手足を動かしても動かなかった。焦れば焦るほど動かなかった。
「これ‥‥、トラップです。罠にかかりました。」
半ベソをかいてコーコが焦った。サブモニターのリツコは、明らかに呆れ怒りを堪えていた。
「背中が、つっかえているのでしょう。もっと、態勢を低く。」
「‥‥ひぇーっ、無理っ、です。」
コーコは、お腹のベルトに吊り下げられた格好で手足を動かすが上手くいかなかった。リツコが即座に命令を下した。
「【R・B】は、後退せよ。」
「‥‥了解です。」
G二十八号は、入り口から十メートルも入っていなかった。下半身が入り口から覗いていた。尻尾が愛らしく振れ動いた。
「‥‥ヤバッ、戻れません。」
G二十八号は、前進も後退も出来なくなっていた。
リツコは、ジョーダンの黒い甲冑とエリカの富岳改を呼び寄せた。
「オオッ、ファニー。キュートダネ。」
「まったく、手の焼けるトカゲですね。」
二体の甲冑は、尻尾を掴むと引き摺り出した。コーコが、照れ笑った。
「‥‥てへっ、恥ずかしながら帰ってまいりました。」
シローの長い沈黙が、その場の空気を重くした。
「‥‥あぁ、あの時の。‥‥気付かなくて、すみません。」
シローの反応は、あやふやだった。コーコは、今まで見せたことのない笑顔をつくっていた。
「こちらこそ。突然、押しかけまして、ご迷惑だったでしょうか。」
「いぇ‥‥。」
「ちゃんとしたご挨拶をせずにお別れしたのが心残りで。」
「はぁ‥‥。」
「たまたま、近くを通りましたので。」
「どうも‥‥。」
シローの反応は、コーコの存在を想い出せないでいるようにも見えた。
エリカとトウコの仮装的な衣装がシローを困惑させ警戒を強めさせていた。
コーコは、可愛い紙袋を差し出した。思い詰めた目が座っていた。
「‥‥これ、お口に合いますかどうか。」
コーコの手作りクッキーセットに周りが引いた。前日に悪戦苦闘して焼き上げたクッキーだった。失敗した残骸がテーブルを占拠しているのを料理上手な母と妹が非難したのをコーコは、根に持っていた。
『あいつら、乙女の真心と一念を馬鹿にして。許さないし。』
それでもクッキーは、自分なりに満足していた。なぜか、形はG二十八号の顔を模していた。
「‥‥どぅも、皆で頂きます。」
「いぇいぇ、お一人で。」
「公社の方でしたか。」
「いぇ、バイトでした。」
「えっ‥‥。」
「高校生です。」
「えっ、若いと思った。」
「あは、もぅ、嫌ですよぅ。」
コーコが、これ以上ない余所行きの笑顔を見せた。
トウコの顔が引き攣った。サチコの目が点になり、エリカは呆れた冷たい視線を向けた。
かみ合わない二人の会話に周りは、辛抱強く傍観していた。
「‥‥あっ、そうだ。わたしたち、ちよっと。」
突然、サチコが思いだしたようにエリカとトウコに目配せして研究室から連れ出した。
無言のまま三人は、学食に立ち寄った。
「意外ね。コーコって、超々美形男子が好みだったのに。」
最初にサチコが、ポツリと話し出した。
「ふぅ‥‥、理想と現実の落差に悩むって。」
「達観した仏様のようなお顔でしたが。あれはあれとして、好いかと思います。」
トウコが、自分の感想に頷きながら言った。エリカは、不思議そうに尋ねた。
「彼は、所帯持ちでしょう。」
「ええっ‥‥、どうして分かるのですか。」
サチコの疑問にトウコも頷いた。エリカは、紅茶を一口飲んでから続けた。
「本棚の写真楯に、お子様とのツーショットがありました。」
「流石、エリカ殿。観察眼が違います」
トウコは、感心した。
「それって、悲劇じゃない。」
サチコは、嘆息した。
「コーコって、たぶん。あれよ。一途だし。」
「まさか。」
「それは、どうでしょう。」
「いやいや、幼馴染が言うのだから。信じて。」
「それは、拙いと思います。」
「どうでしょう。」
「ですが、思う気持ちは尊いです。」
「不倫になるよね。」
「フリン‥‥、高校生教師でしたか。」
「それは、どうしてなのでしょうか。」
「コーコって、前見えなくなるよ。」
「真っ直ぐのようですから。仕方ありませんね。」
「素敵です。熱い思いに感動します。」
「いゃ、それは、」
「でも、そうなのですか。」
「そうだよ。」
懇親話が、混線していた。三人は、半ば真剣で少しばかり無責任だった。
サチコが、溜息混じりに呟いた。
「でも、コーコがあんなキャラだったなんて。もぅ、絶対に無理してるよ。」
「そうでしょうか。わたくしには、いつもの様に見えましたが。」
「周りが見えていないと思います。」
「あら‥‥、トウコがいえば、不思議ね。」
「そうでありましょうか。」
トウコは、エリカの前では上下関係が自衛隊仕様だった。
その後も三人が話を熱く積もらせていると、緊急電が入った。トウコが、急ぎコーコのもとに走った。
研究室のシローとコーコの話は、どこまでも錯綜していた。血相を変えたトウコが飛び込んでくる姿にシローは驚きコーコは慌てた。
「失礼します。コーコさん、緊急の招集であります。」
「えっ、ええええっ‥‥。」
コーコは、笑顔を引き攣らせた。
「とても残念ですが、急用のようです。あのぅ、今度、ゆっくりとお邪魔してもよろしいでしょうか。」
「はぁ、‥‥こんなところでよければ。」
「有難う御座います。必ず、必ずです。」
コーコは、とびっきりの笑顔を向けた。トウコは、コーコを抱えんばかりに退室させた。
「コーコさん、急ぎます。」
「もぅ、なんなの。世界よ、馬に蹴られてしまえ。」
コーコの顔は、失意と怒りに変貌していた。
英国大使館の車が到着した。
三人が乗り込み車が走り去るのを呆然とサチコは見送り呟いた。
「何なの、あの三人‥‥。」
三人が向かった先は、在日米軍基地だった。既に出港している【紀伊】にヘリで向かった。三人の甲冑が甲板に並んでいた。既にジョーダン少佐は、搭乗して気合が入っていた。
コーコとエリカが着替え各自の甲冑に搭乗すると、リツコは作戦を伝えた。
「本日、正午。島の動きが停止した。この期に乗じて上陸。制圧をする。」
作戦は、明快だった。
「時は、一刻を争う。甲冑三体は、島に上陸し、日米共同の特殊部隊の警護に向かう。」
「でも、どうして島が停まったのですか。御都合主義の話じゃないのに。」
コーコの疑問にリツコが言い放った。
「この世の中、ご都合で動いているようなものです。」
「ええっ‥‥、って、リツコさんが、それをいいますか。」
「取り敢えずは、チャンスは最大限に利用する。上からの命令です。」
「はぁ‥‥、納得すればいいのね。」
作戦は、シンプルだった。日米共同部隊が、輸送ヘリと水陸両用車両で上陸して占拠する。その部隊の援護に三体の甲冑が同行するというものだった。
「作戦開始は、15・00時。各員の奮闘努力を期待する。」
強襲揚陸艦【紀伊】にZ旗が揚がった。
日米の精鋭部隊は、島に上陸を果たすと予定通りに制圧した。三体の甲冑は、島の三方向に橋頭堡を確保した。
最初に入り口を見つけたのは、コーコだった。たまたま踏んだ足元が凹んだ。
「‥‥これ、入り口じゃないですか。」
「画像を寄せろ。」
リツコは命じて、甲冑とシンクロしているカメラを動かせた。開口部の光学迷彩が、G二十八号の足に触発され露出していた。
水陸両用部隊の隊長にリツコが確認した。
「入り口を確保。潜入できるか。」
部隊が展開して報告が上がった。
「‥‥入口、確保。‥‥突入できます。」
そこに、コーコが具申した。
「【R・B】も入れます。」
「了解した。コーコを先頭に突入。」
コーコの甲冑が、匍匐前進できるスクエアな空間だった。
「‥‥これって、きついよぅ。」
前屈みの態勢にコーコは、直ぐに根を上げた。突然、前に進めなくなり慌てた。
「‥‥えっ、なに、なんですかぁ。」
手足を動かしても動かなかった。焦れば焦るほど動かなかった。
「これ‥‥、トラップです。罠にかかりました。」
半ベソをかいてコーコが焦った。サブモニターのリツコは、明らかに呆れ怒りを堪えていた。
「背中が、つっかえているのでしょう。もっと、態勢を低く。」
「‥‥ひぇーっ、無理っ、です。」
コーコは、お腹のベルトに吊り下げられた格好で手足を動かすが上手くいかなかった。リツコが即座に命令を下した。
「【R・B】は、後退せよ。」
「‥‥了解です。」
G二十八号は、入り口から十メートルも入っていなかった。下半身が入り口から覗いていた。尻尾が愛らしく振れ動いた。
「‥‥ヤバッ、戻れません。」
G二十八号は、前進も後退も出来なくなっていた。
リツコは、ジョーダンの黒い甲冑とエリカの富岳改を呼び寄せた。
「オオッ、ファニー。キュートダネ。」
「まったく、手の焼けるトカゲですね。」
二体の甲冑は、尻尾を掴むと引き摺り出した。コーコが、照れ笑った。
「‥‥てへっ、恥ずかしながら帰ってまいりました。」