第4話 決意

文字数 1,747文字

 「妖魔が、知っているかもしれない……? それは、妖魔に尋ねるってことですか?」

 「そう。相手は選ぶけどね」

 「で、でも、妖魔は人間の敵ですよね? 敵がそんなことを教えてくれるんですか? そもそも妖魔のせいでこんなことになったんだ!」
 天登(あまと)の声は上ずった。

 「そうだね。でも、妖魔の中にもいろいろいるし、妖魔は血が濃いと、何百年でも生きて、人間の想像をはるかに超える量の知識を蓄えている。可能性はあると思うわ」

 「そうか、そうなのか・・・。方法があるんだ。母さんを助ける方法があるんだ。瑠川(るかわ)さん、俺、それをやりたい! やり方を教えてくれませんか?!」

 「もちろん、そのために来たんだもの。だけどそれには、厳しい鍛錬に耐え、強くならないといけない。そして一人前の破邪士として戦う中で、妖魔の中枢に迫ることができれば、あるいはその問いのヒントをつかめるかもしれない。控え目に言って、めちゃくちゃしんどいし、死ぬより苦しいと思うけど」

 「やる! やります! 母さんは病弱な身で俺を産み、女手一つでここまで育ててくれた。今までずっと一緒にいてくれて、そして俺の代わりに傷を負った。それに、それに、このままじゃ、俺のもう一人の大切な家族、あかりが、この先ずっと自分を責め続ける。そんなことは絶対にあっちゃいけない! 俺はやります!」

 「天登(あまと)……。わたしも、やる! 天登(あまと)と一緒に、おばさんを助ける!」
 あかりが叫んだ。

 「おっと、それには、役割分担があるんだよ、あかりちゃん」

 「え?」
 あかりはキョトンとした。

 「実は、私たちこのエリアの破邪士のチームは、以前から天登(あまと)のことを知っていた。それは天登(あまと)は非常に稀な血、純血の人間だから。純血ってのは妖魔の血が入らない、100%人間の血を持つ者。その人間は破邪士としての素質がとても高い。もともと私達は、天登(あまと)の高校卒業を待って、破邪士にリクルートしたいと思っていたのよ」

 天登(あまと)はうまく話を飲み込めない。純血とは何か?

 「さっき見たでしょ?天登(あまと)が放った心気弾(しんきだん)。初めてで何にも教えずに、あの威力、あのコントールができる破邪士なんて、私は見たことがない。驚きの素質よ。まあ、あれは純血ってだけじゃ説明できないけど……。才能っていうのかしらね?そんな素質を持つのが天登(あまと)、あなたなのよ」

 「俺にそんな力が……。だけど、母さんには微量でも妖魔の血があるのに、なぜその子の俺が純血になるんですか?」

 「詳しくは解明されていないけど、単純に遺伝だけでは血の濃度は決まらないと言われているわ。純血は突然変異的に生まれる。だから100万人に一人っていうレアな存在なのよ」
 「だから天登(あまと)には、破邪士として、私たちに力を貸して欲しい。戦力が欲しい私たちと、お母さんを治したいあなた。目指す方向は同じよ」

 「わ、わたしは?!」
 あかりが訊いた。

 「あかりちゃんには、お母さんのサポートをお願いしたい。人間の医学では説明できない変化が、今後お母さんには現れてくると思う。その様子を、前線の天登(あまと)や、私たち破邪士組織に、伝えて欲しいの」
 「もちろん、学業に支障が出ない範囲でね」
 瑠川(るかわ)は、片目を瞑った。

 「はい!」

 「あかり、俺からも頼みがあるんだ」

 「なに? 遠慮せず言って! 天登(あまと)!」

 「俺、これから未知の破邪士としてやってくとなると、修行とかで、きっと普通の生活じゃなくなるんだと思う。病院にもあまり、来られなくなるんじゃないかと思う。そんな時、母さんの近くにいてあげてほしいんだ。母さん、あかりを本当に、家族、娘のように思っていたんだ。いつもじゃなくていいんだ。暇な時、母さんの様子を見に来てくれないかなって……」

 「何言ってんのよ!」
 あかりが天登(あまと)の背中を思い切り叩いた。
 「天登(あまと)のバカ! 当たり前じゃない! 私は毎日来るつもりよ! 当たり前のことをイチイチ言わないで水くさい! 今までだって、毎日アパートに行ってたでしょ!」

 「そう言えば、毎日いたね、あかり」

 「でしょ! お母さんは私に任せなさい! だから、だから……」
 再び涙ぐみ、あかりは天登(あまと)の胸に顔を埋めた。

 「だからお願い天登(あまと)、必ず、おばさんを助ける方法を見つけて、お願い」
 か細い声で、あかりが言った。

 「あぁ、必ず」

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