第62話 生者の盾

文字数 1,397文字

 一方、ヤマキとアキラを相手にする慶次(けいじ)は、徐々に追い詰められていた。
 ヤマキのパンチが慶次(けいじ)の顔面を捉える頻度が増してきた。
 打撃をかわしても、すかさず妖気弾が襲ってくる。アキラは慶次(けいじ)の動きの隙をしっかりとみている。確実に急所が狙われていた。

 「チャンス!」

 慶次(けいじ)がふらついた瞬間、背後に回ったヤマキが、慶次(けいじ)を羽交い締めにした。

 「しまった!」

 「へへへ、捕まえた!おらあああああ!」

 ヤマキが怪力で慶次(けいじ)を締め上げる。

 「ぐあああああ!」

 「さっきはよくもタコ殴りにしてくれたな! もうお前は終わりだ」

 アキラが加勢する前は慶次(けいじ)が優勢だったため、ヤマキは鬱憤が溜まっていた。

 「もう助けも来ない! このまま死ね!」

 「ぐあああああ!」

 アキラは、戦況に満足し、暗室呪縛にいる天登(あまと)をみた。

 「どう? 仲間がやられる様子は? 胸が抉られるようだろう? 俺はさっき、これを味わったんだよ。お前も、あの男も、自業自得なんだよ。じきにあのチビも、トオルさんにやられる」

 「がぁはっ!」

 慶次(けいじ)が吐血した。
 天登(あまと)は暗室呪縛の中で、それを見ていることしかできない。

 (にしき)の秘剣八咫烏に、間合いでなくても切られることを理解したトオルは、さらなる妖気で体を鋼鉄のように固め、両腕の十文字で斬撃に備えたが、(にしき)の剣はガードをものともせず、肉に届き、切り刻んでくる。

 「ぐおおおおおお!」

 トオルは耐えながら、咆哮した。

 「トドメだ」

 (にしき)が最後の斬撃を加えた時、信じられないことが起こり、(にしき)は目を疑った。
 
 (にしき)の剣が食い込んだのは、倒れていた妖魔暴走族、狗縷巣の構成員だった。

 「ぐぅ」

 血を吹き出し、絶命する妖魔。

 「いつのまに……!」

 (にしき)はさらに斬撃を次々に加えた。
 その度に、トオルの前には瀕死の妖魔が現れ、切られ、絶命していく。何度も何度も、それが繰り返された。
 (にしき)は攻撃の手を緩めた。

 「これは、なんだ?」

 「生者の盾さ」

 トオルが答えた。

 「俺の特殊妖力です。(にしき)さん。俺は瀕死の者をこの手に瞬時に転送することができる。こんな風に」

 トオルが両手を前へ突き出した瞬間、瀕死の妖魔2体がトオルに首を掴まれた状態で目の前に現れた。

 「あんたのお仲間がでっかい心気弾で、部下を一掃してくれたけど、ほとんど戦闘不能だが、生きてはいるようです。おかげで、俺の盾は尽きない」

 (にしき)は眉一つ動かさず、トオルの話を聞いていた。

 「言うことは、それだけか?」

 (にしき)は攻撃を再開しようとした時、背後で叫び声が聞こえた。

 「うわああああああ!」

 (にしき)が振り返ると、アキラがトオルのところへ走ってきた。

 「トオルさん! なんでみんなをそんな風に扱うんだ! 仲間じゃないか!」

 「アキラ……。黙っておけ」

 「嫌だよトオルさん!仲間が死んじゃうじゃないか! みんな生きてるなら、またみんなで走れるじゃないか!」

 「俺が生きるためなら、こいつらがいくら死んだっていいんだ」

 「トオルさん! みんな仲間だって言ったじゃないか! 破邪士に殺されかけてた俺を助けてくれた時、たくさん仲間がいるから、お前も一緒に走らないかって、誘ってくれたじゃないか!」

 「みんな仲間じゃないか! 俺たち、みんな仲間じゃないか! 仲間を、自分の盾にするなんて! そんなの、仲間じゃないよ!」

 「トオルさ!! ぐぅぅ……!」
 叫び続けるアキラの腹を。トオルは鋼鉄拳で貫いた。
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