第88話 天守の戦略
文字数 1,470文字
時間は少し遡る。
慶次 と小雪が史竜 との交戦に入ったことを確認し、伍代は龍虎 と向き合った。
「さぁ、大将戦と行こうか」
「お前は副将だろう」
「まぁな。うちの大将はちと忙しいんでね」
「俺の目的は天守だ。他はノイズに過ぎない」
「言ってくれるじゃねぇか。ノイズに鼻明かされんなよ!」
伍代の全身はわずかに赤い光に包まれ、龍虎 の目前に高速移動した。
鋭く重い左拳が打ち込まれ、緑の光を纏う龍虎 が肘で受け止めた。
2人を中心に衝撃波が円形状に広がる。
そのまま連続して伍代は右フック、左ボディ、最後に飛び後ろ回し蹴りを放った。
龍虎 は全てをガードし、蹴りは右手の甲だけで止めてしまった。
伍代は飛び退いた。
「さすが妖魔の王だ。俺たちはお前の首を取ろうと、パテラを散々探してきた」
「知っている」
「だろうな。お前はひたすらに逃げ回ってたもんな」
「否定はしない」
「それがなぜ、いきなり俺たちの本拠へ攻め込んできた? 特攻か?」
「特攻というのは、後詰めがあって初めて機能する戦術だ。そんなものは俺たちにはない。俺が妖魔の最終戦力だ」
「ではなぜだ? なぜこのタイミングでゴテンを襲う?」
「ある時から、妖魔と人間の形勢に、変化が起こった」
「……」
「10年ほど前だ。300年生きてきた俺にとって、劇的な変化だ」
「どういう?」
「それまでは、妖魔が唯一人間に劣る能力、繁殖力を克服するため、妖魔は人間との交配を進めてきた。これを利用して人間社会への浸透を図ることが、基本戦略だった。これは相当うまくいった。人間社会の多方面で、妖魔の血を濃く持つ者が中枢の地位に上り、俺の指示で混乱をもたらした。集団暴力、軍部の暴走、災害を機とした騒乱、虐殺、犯罪、テロ、いじめ、パワハラ……、人間へあらゆる社会不安を植え付け、怨恨、嫉妬、害意、殺意……、あらゆる負の感情が至る所に生まれるように、仕向けていった」
「人間はもう、それは人間本来の気性と認識している」
「そうだ。成功しているんだ。しかし、ここ10年ほど、これがうまく進まなくなった。各方面の有力な妖魔が、各個撃破されるようになった」
「145代天守、有栖川 凛への代替わりだな」
「そのようだ。有栖川凛が破邪の者を指揮するようになってから、俺のやり方が見破られているんじゃないかと、感じるようになった」
「俺は先代から仕えているが、現天守は確かに違う」
「これまでも、腕の立つ破邪の者はいた。だがそいつらは、妖魔を狩るという戦いにのみ関心を向けていた。事を犯し、明るみに出た妖魔を狩る事を、仕事としていたようだ。しかし妖魔にとって、そんな活動は氷山の一角だ。本質は、巧妙に隠してきた、人間の中枢に入り込んだ秩序破壊、混乱工作が、人間社会転覆に最も効果的だからだ」
「しかし俺たちは、そんな存在の妖魔を、討伐リストに上げ、確実に削っていった」
「そうだ。それに集団戦法で挑んでくるようなことも、今まで少なかった」
「確かに、スリーマンセルは現天守の考案だ。それに、諜報、調査専門の破邪士を起用し出したのもそうだ。そうして俺たちは、ターゲットとなる妖魔の能力、血の濃度、生活パターン、人間社会における地位、これまでの犠牲者数などの事前情報を頭に入れて、戦いに臨めた。そうか、あれがそんなにお前らには厄介だったのか」
「お前たちの思った以上に、俺はこの状況に危機感を持った。早めに除かないと、せっかく人間社会に浸透した妖魔の影響力が弱まり、やがて排除されてしまう。俺が有栖川凛を狙う理由は、これだ」
「さぁ、大将戦と行こうか」
「お前は副将だろう」
「まぁな。うちの大将はちと忙しいんでね」
「俺の目的は天守だ。他はノイズに過ぎない」
「言ってくれるじゃねぇか。ノイズに鼻明かされんなよ!」
伍代の全身はわずかに赤い光に包まれ、
鋭く重い左拳が打ち込まれ、緑の光を纏う
2人を中心に衝撃波が円形状に広がる。
そのまま連続して伍代は右フック、左ボディ、最後に飛び後ろ回し蹴りを放った。
伍代は飛び退いた。
「さすが妖魔の王だ。俺たちはお前の首を取ろうと、パテラを散々探してきた」
「知っている」
「だろうな。お前はひたすらに逃げ回ってたもんな」
「否定はしない」
「それがなぜ、いきなり俺たちの本拠へ攻め込んできた? 特攻か?」
「特攻というのは、後詰めがあって初めて機能する戦術だ。そんなものは俺たちにはない。俺が妖魔の最終戦力だ」
「ではなぜだ? なぜこのタイミングでゴテンを襲う?」
「ある時から、妖魔と人間の形勢に、変化が起こった」
「……」
「10年ほど前だ。300年生きてきた俺にとって、劇的な変化だ」
「どういう?」
「それまでは、妖魔が唯一人間に劣る能力、繁殖力を克服するため、妖魔は人間との交配を進めてきた。これを利用して人間社会への浸透を図ることが、基本戦略だった。これは相当うまくいった。人間社会の多方面で、妖魔の血を濃く持つ者が中枢の地位に上り、俺の指示で混乱をもたらした。集団暴力、軍部の暴走、災害を機とした騒乱、虐殺、犯罪、テロ、いじめ、パワハラ……、人間へあらゆる社会不安を植え付け、怨恨、嫉妬、害意、殺意……、あらゆる負の感情が至る所に生まれるように、仕向けていった」
「人間はもう、それは人間本来の気性と認識している」
「そうだ。成功しているんだ。しかし、ここ10年ほど、これがうまく進まなくなった。各方面の有力な妖魔が、各個撃破されるようになった」
「145代天守、
「そのようだ。有栖川凛が破邪の者を指揮するようになってから、俺のやり方が見破られているんじゃないかと、感じるようになった」
「俺は先代から仕えているが、現天守は確かに違う」
「これまでも、腕の立つ破邪の者はいた。だがそいつらは、妖魔を狩るという戦いにのみ関心を向けていた。事を犯し、明るみに出た妖魔を狩る事を、仕事としていたようだ。しかし妖魔にとって、そんな活動は氷山の一角だ。本質は、巧妙に隠してきた、人間の中枢に入り込んだ秩序破壊、混乱工作が、人間社会転覆に最も効果的だからだ」
「しかし俺たちは、そんな存在の妖魔を、討伐リストに上げ、確実に削っていった」
「そうだ。それに集団戦法で挑んでくるようなことも、今まで少なかった」
「確かに、スリーマンセルは現天守の考案だ。それに、諜報、調査専門の破邪士を起用し出したのもそうだ。そうして俺たちは、ターゲットとなる妖魔の能力、血の濃度、生活パターン、人間社会における地位、これまでの犠牲者数などの事前情報を頭に入れて、戦いに臨めた。そうか、あれがそんなにお前らには厄介だったのか」
「お前たちの思った以上に、俺はこの状況に危機感を持った。早めに除かないと、せっかく人間社会に浸透した妖魔の影響力が弱まり、やがて排除されてしまう。俺が有栖川凛を狙う理由は、これだ」