第73話 種族を超える条件

文字数 1,294文字

 「私たちは、破邪士が一度でも遭遇した妖魔は徹底的にマークし、その後を追いかけています」

 「あなたについても、もちろん記録があります。今から6年前、破邪士である滝壺八太1名が、阿寒の山で妖魔に遭遇。人間の男の子供の容貌、背に大きな翼あり。眠っていたところを滝壺が斬りつけると、驚いて飛んで逃げようとしたため、心気弾を放ち、地上に落とした。トドメを刺そうと駆け寄った時、妖魔は翼でかまいたちのような真空刃を無数に発生させ、滝壺を攻撃した。滝壺は傷を負って倒れ、戦闘不能となった。妖魔は夢中で飛び去った」

 天登(あまと)、小雪、優天は、天守が記録を読み上げるのを黙って聞いていた。

 「天登(あまと)

 「はい!」

 天登(あまと)はいきなり名を呼ばれ驚いた。

 「私は先日、あなたに何と言いましたか?」

 「はい。妖魔の全てが全て、敵ではない。見極める目を持てとおっしゃいました」

 「そうね。で、あなたの目から見て、優天はどう?」

 「はい! 優天は善良な妖魔です。俺と小雪が迅鬼(じんき)に殺されそうになったところを助けてくれて、安全なところへ避難させ、自分が3日寝込むほどの消耗をしながら、治療をしてくれました。ここまで初対面の者に尽くせることって、人間でも、ちょっとできないことだと思います」

 「ふむ。小雪は?」

 「私は、記録を聞いても、優天の善良さには、微塵も疑いがありません。私なら、寝込みを攻撃されたら、人間、妖魔、老若男女問わず、迷わず殺すと思います」

 「ハハ! わたしもそうかも!」

 天守が笑顔を見せた。

 「ただ最後に事実だけ伝えておくわね。この時の傷が癒えず、滝壺八太は、1週間後にこの世を去った」

 「え……?」

 優天はこれを聞いて、衝撃を受けた。

 「あの人、死んだんですか……?」

 膝から崩れ落ちる。

 「えぇ。滝壺はあなたとの戦闘で、亡くなった。彼は好戦的な性格だったけど、それゆえ妖魔の討伐数も多く、活発に活動していた。貴重な戦力を、我々は失った。何より、人一人の命が、失われた」

 「で、でも、それは!」

 天登(あまと)が言葉を挟もうとしたが、天守は手で制した。

 「事実は事実です。私たち破邪士の組織としては、この事実は重く受け止めなければならない」

 「……」

 「なので私の決断はこうです」

 「天登(あまと)と小雪、あなたたち2人が、優天の保護者、保証人になりなさい。彼が過ちを犯した時は、あなた達2人の全て、全人生をもって、償うこと。これでどう?」

 天登(あまと)と小雪は顔を見合わせ、「はい!」と叫んだ。

 優天が叫んだ。

 「で、でも、2人に迷惑はかけられな……」

 天登(あまと)が優天の言葉を遮った。

 「何言ってんだ! よかった! 優天、今日から俺たちは本当の仲間だ!」

 「やったぁ!」

 小雪も叫ぶ。2人の満面の笑みに、優天もようやく笑顔になった。

 「うん! ありがとう!」

 3人が部屋を出た後、沙夜(さよ)が言った。

 「よかったんでしょうか? 天守様」

 「わからないわ。でも私、彼らに、何か可能性を感じるの。これまで、有史以来戦い続けた私たちが出せなかった答えが、彼らなら、あるいはって……」

 「はぁ」

 「まぁ、様子をみましょ?」
 天主はにっこりと微笑んだ。
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