第96話 決着

文字数 1,860文字

2人の剣が激しくぶつかり合った!
 どちらも引かない!
 引いた方が相手の技に飲み込まれ、敗北を喫することは目に見えていた。

 互いに全妖気、全心力を技に込め、意地と意地が拮抗した。

 獅子王丸と父のペンダントは、狂ったように輝きを増した。

 「この場に立っているのがやっとだ!」

 慶次(けいじ)が叫ぶ。
 皆、瑠川(るかわ)(にしき)が作った心気のベールの中にいたが、プレッシャーはもろに感じられた。

 ぶつかり合うエネルギーの中で、獅子王丸がブルブルと震えはじめた。
 天登(あまと)は目を疑ったが、震えているのは剣ではなく、天登(あまと)の腕だった。
 この戦いにあたり、にわかに放出心気のストッパーを外しただけに、身体が追いついていない!
 龍虎(りゅうこ)はそれをみた。

 「限界のようだな。苦しかろう。一気に終わらせてやろう!」

 信じられないことに、龍虎(りゅうこ)は更なる妖気を上乗せした!
 余力を残していたのだ!
 戦術においても、龍虎(りゅうこ)は何枚も上手だった。

 「まずい!」

 瑠川(るかわ)が叫んだ。
 天登(あまと)が徐々に押し込められていく。
 剣を弾かれれば、その場で勝負は決まるだろう。

 (エネルギーの量が違う! 負ける! 俺は、伍代さんにもらった力で持ってしても、龍虎(りゅうこ)に及ばなかったのか……! もう、ダメだ……!)

 (おいおい、そりゃないぜ、天登(あまと)

 天登(あまと)の心に、直接語りかけてくる声があった。

 (えっ? 伍代さん?)

 天登(あまと)はこの声に聞き覚えがないため、伍代ではない。

 しかし、ひどく懐かしい響きだ。 

 (おまえの力はそんなもんじゃない。まだ、やれていないことがあるはずだ)

 (えっ? 誰? あなたは……、誰ですか? 俺がやれていないことって……?)

 (今まで留守にして悪かったな、天登(あまと)。俺の愛する、お前の母さんを守ってくれて、ありがとう。ここは俺も力を貸す。だから、二人一緒に、やってやろうぜ!)

 天登(あまと)は、声の主が誰か、わかったような気がした。
 そして、自分のやるべきことも!

 「はい!」

 天登(あまと)はおもむろに、両手で握っていた獅子王丸の柄から、右手を離した。

 「!!」

 龍虎(りゅうこ)は目を見張った。

 「覚悟を決めたか!」

 龍虎(りゅうこ)は、一気に決めるべく、剣にありったけの妖力を注ぎ込んだ!

 「うおおおおおぉっ!」

 しかし、天登(あまと)の左手一本に支えられた、獅子王丸はブレない!
 その時龍虎(りゅうこ)は、天登(あまと)の左手が、別の誰かの強力な心気に包まれていることを感じた。

 「バ、バカな!!」

 天登(あまと)は空いた右手を伸ばし、腰に佩いていた、夕霧を抜いた!
 皆がまばたきもせず、事態を見守っている!

 「うおおおおっ!」

 すぐに夕霧は天登(あまと)の心気を吸い上げ、真っ青に輝きはじめた!

 「き、きさま!」

 「最後だ龍虎(りゅうこ)! 父さんと一緒に、最後の技を放つ! くらえ! 晴天の太刀、最終奥義! 双天(そうてん)(ざん)!」

 天登(あまと)は獅子王丸の上から夕霧を勢いよく重ねた!

 すると押されていた天登(あまと)の心気は勢いを取り戻し、一気に龍虎(りゅうこ)のパワーを上回った!

 「こ、こんなことが! こんなことが! あっていいはずない!」

 龍虎(りゅうこ)は必死で堪えようとするが、天登(あまと)の背後から押し寄せる新たな心力で、押し切られていく!

 「うおおおおおおおおっ!」

 龍虎(りゅうこ)が叫んだ。

 大爆発が起きた。

 周りの人も大地も木々も、大きく飛ばされ、抉られた。

 天登(あまと)も、龍虎(りゅうこ)も、元いた場所から吹っ飛んだ。
 爆風で、誰も、何も、見えなくなった。

           ◇
 
 やがて爆風が晴れ、天登(あまと)が目を開けた。

 離れたところで、大地が深く抉られ、その中心で人影が倒れている。

 それは、一人ではなかった。

 仰向けで倒れている龍虎(りゅうこ)の上には、うつ伏せで別の妖魔が倒れていた。

 エリスだった。

 絶命しているのは明らかだった。

 天登(あまと)は、ボロボロになった身体を引きずり、近づいた。

 龍虎(りゅうこ)も目を覚ましたが、動けないようだ。

 「エリスが(かば)ってくれなければ、俺は死んでいた」

 龍虎(りゅうこ)が呟いた。

 「エリス。俺の身代わりになど、ならなくてよかったのだ。お前はお前の務めを果たした。もう休んでいればよかったのだ。すまなかった。エリス」

 龍虎(りゅうこ)は身動きできないまま、涙を流した。

 「龍虎(りゅうこ)さま!」

 史竜(しりゅう)が腹を抱えながら龍虎(りゅうこ)とエリスの傍に膝を落とした。

 「エリスはその瞬間、飛び出そうとした私の腹に妖気弾を打ち込んで動きを押さえ込み、あなたの面前へ飛び出ました……」

 「そうか……。史竜(しりゅう)。エリス。不甲斐ない王のために、すまなかったな」

 天登(あまと)は、立っていることができず、その場に片膝をついた。

 顔を上げ、視界を確保したとき、信じられない光景をみた。

 それは、天守、有栖川(ありすがわ)(りん)だった。
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み