第75話 伍代の指揮

文字数 1,431文字

 「そうか、そりゃそうだよな、全部わかってるよな。それでこそ俺たちの天守だ。よしわかった!」

 「ありがとう、伍代さん」

 再びスマホに向かって天守が呼びかける。

 「これから、私が信理(しんり)の治療に入るに伴い、結界を解きます。破邪士以外の非戦闘員は、全員退避! 全破邪士は、龍虎(りゅうこ)一党の襲撃に備え、総力を結集! 総指揮官は伍代政輝(まさてる)! この戦いは、ゴテンを守るためではない。人類を守る戦いだ。死守しろ!」

 最後に、天守が付け加えた。

 「みんな、お願いします! 私が行くまで全員、生き残ること!」

 あらゆる場所で天守の声を聞いた破邪士達。

 放送の当初は、奮い立つ者、恐怖で色を失う者、考えを整理できずに狼狽(うろた)える者など様々だったが、最後には皆、腹が据わった顔をしていた。

 天守の言葉の内容もさることながら、その声が導く方向は、どこか人に可能性を感じさせるものだった。

 次に伍代に代わった。

 「あー、伍代だ。天守の命令で絶対なのは、誰も死なないことだ。具体的には、ゴテンを守ることだが、ゴテンとは人のことだ。建物じゃない。そこはしっかり認識してくれ」

 「作戦を言う。今ゴテンにいる破邪師は35名だ。正門は俺と胴間の隊。それに、新人の武丸慶次(けいじ)日皐月(ひさつき)小雪、津神(つがみ)天登(あまと)

 「もう一つの門、東門は、瑠川(るかわ)ひろみの隊と、新人は雨神楽(あめかぐら)(にしき)田鋤(たすき)五右衛門(ごえもん)網川樹々(じゅじゅ)

 「そして、天守閣には、安藤千夏を配置する。雑魚は全て遠隔全体攻撃で無力化してくれ」

 「作戦ってほどでもないが、以上だ。破邪士は総勢112名、大半が妖魔討伐で出払っている。ここにいる35名だけで龍虎(りゅうこ)を相手にするにはちょい痺れるが、みんな、やってやんぞ!」

 伍代が振り上げた右手に呼応し、モニターの向こうで、破邪士全員が右手を振り上げた。

 中継放送が終わった。

 同時に天守が信理(しんり)の治療のため、病室に入った。

 破邪士全員が持ち場に走る。

 途中で、ゴテン全体の空気が冷たくなるような、というより、今までがあったかい居心地良い空間だったのが、外界と変わらない空気に変わった。天守が結界を解いたのだ。

 その頃龍虎(りゅうこ)は、函館郊外に(そび)える山の(いただき)にいた。

 小柄な子供の姿。

 顔はフードの下に隠れているが、タバコの煙がフードの奥から立ち上っている。
 床几机に腰を下ろし、幹部とみられる妖魔3体が傍に控える。

 配下の妖魔が市街地攻撃をしており、龍虎(りゅうこ)は街を見下ろすこの場所から指揮している。
 この山にも、夥しい数の妖魔がひしめいている。

 「おまえら、感じたか?」

 「おぉ」

 「はい」

 「えぇ」

 三体が声を揃えた。

 「有栖川が結界を解いた。兵を呼び戻せ。ゴテンを攻める」

 立ち上がった龍虎(りゅうこ)に、何百とひしめく妖魔が応えた。

 「おぉ!」

 天登(あまと)と小雪が正門に着くと、既に慶次(けいじ)が来ていた。

 「慶次(けいじ)、もう大丈夫なのか?」

 「あたぼうよ!身体がなまって仕方ねぇ! 復帰戦で妖魔のドンが相手たぁ、上等だ!」

 「ハハハ! その意気だ!」

 伍代が隊とともに現れ、慶次(けいじ)の背中を叩くと、慶次(けいじ)は前の地面に突っ伏した。
 小雪が笑顔を見せる。
 みんな、絶体絶命の危機とわかりながら、どこか吹っ切れた様子だ。
 
 天登(あまと)は、刀を抜いた。

 「お、夕霧(ゆうぎり)だな」

 「伍代さん、知ってるんですか?」

 「おぉ。(にしき)ん家のだろ? いい刀だ」

 「はい。(にしき)さんにもらいました」

 「そりゃ、あいつも相当お前に期待してるな。きばれよ!」

 天登(あまと)も伍代に背中を叩かれ、立ち上がりかけた慶次(けいじ)にぶつかった。

 みんなが笑った。


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