第79話 胴間大海(どうまおおみ)

文字数 1,089文字

 その頃正門では、天登(あまと)、小雪、慶次(けいじ)は、危なげなく敵の数を確実に減らしていた。
 実戦経験を短期間ながら幾度も積んだ3人は、9血以上の敵もコンビネーションで凌げている。

 龍虎(りゅうこ)と、人狼の妖魔、史竜(しりゅう)はまだ動かない。
 伍代隊、胴間隊も、隊長共々、数いる敵の方を何とか捌いている。
 「あいつを知ってるか?」

 龍虎(りゅうこ)史竜(しりゅう)に尋ねた。

 「はっ、伍代政輝(まさてる)です」

 「そうだ。俺が動けばあいつが応戦してくるはずだ」

 「その構えですね。私が片付けます」

 「できるか?」

 「龍虎(りゅうこ)様のお手を(わずら)わせることはありません」

 史竜(しりゅう)はスーツ姿のまま、両手の骨を鳴らした。

 「獣人史竜(しりゅう)、参る!」

 史竜(しりゅう)は信じられないスピードで伍代へ迫る。

 そこへ胴間が割って入った。

 「おっと、お前の相手は俺だ!」

 胴間は史竜(しりゅう)へ右ストレートを繰り出した。

 史竜(しりゅう)も同じく右ストレートを出し、2人の拳が交錯した。
 互いに避けきれず、顔にキレイにヒットし、それぞれがふっとんだ。

 「いいパンチじゃねぇか、あんた!」

 「……」

 胴間の呼びかけに、史竜(しりゅう)は無言だ。

 スーツを直して一呼吸起き、すぐに次々と足技を繰り出してきた。
 胴間は史竜(しりゅう)の蹴りをカットしたり、かわしたりしながら、受け続けているとダメージが蓄積することを悟り、一旦距離をとった。
 すかさず史竜(しりゅう)が詰めてくるが、顔面に向け、心気を目一杯込めた右ストレートを放った。

 「鉄芯!」

 カウンターを受けたような格好になり、史竜(しりゅう)の鼻へ重いパンチが食い込んだ。

 鼻血を噴きながら史竜(しりゅう)が吹っ飛ぶ。
 しかしなんとか宙返りして、着地した。

 「伍代政輝(まさてる)以外にも、あなたのような使い手がいるのか」
 史竜(しりゅう)は再びスーツを直している。

 「俺は肉弾戦担当の破邪士だ。根性だけは負けねぇぜ!」

 「そのようだ。それでは、私も本気でやらせてもらう」

 史竜(しりゅう)はスーツの上着を脱ぎ、そばにあった木にかけた。
 ネクタイを緩め、ワイシャツの袖をまくる。

 「ぐおおおおおおおお!」

 史竜(しりゅう)の身体から妖気がほとばしる。
 しかし妖気は発散されるのではなく、史竜(しりゅう)の中に蓄えられていくようだ。
 それに伴い、身体が筋肥大していく。
 あたりに獣臭が充満する。
 より野生の本能を解放しているようだ。

 「私は獣人として、あらゆる拳法を修めた。お相手仕(つかまつ)る。紳士としてのエチケット違反は、ご勘弁願いたい」

 「妖魔の中にお前さんのような儀礼を重んじる者がいるとはな! こちらもそれに応え、全力で臨む!」

 胴間も同じく心気を溜め始めた。肌が黒く硬化していく。

 「俺は不器用でね。必殺の『鉄芯』を全身に行き渡らせるぐらいしか能がねぇ。しかし、破壊力は折り紙付きだ」
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