第58話 心気のコツ

文字数 1,445文字

 大きな爆発が起こった。トオルが顔を上げた。

 「マサシがやったな」

 もうもうと土埃が舞う中、天登(あまと)は無事だった。

 心気の集中を続けている。しかしその目の前で、慶次(けいじ)が片膝をついた。

 「慶次(けいじ)!」

 天登(あまと)が叫んだ。

 「大丈夫だ。続けてくれ……」

 慶次(けいじ)はなんとか立ち上がった。
 敵に向き合うために振り返ると、慶次(けいじ)の焼け焦げた背中が目に入った。

 「慶次(けいじ)! 大火傷している!」

 「どうってこたねぇ、次で決めっからよ……。そろそろ3分だぜ。天登(あまと)

 慶次(けいじ)は不思議な気持ちでいた。
 戦いで手傷を負ったことはあるが、ここまでの重症は初めてだった。

 (やばいかもしれねぇ。傷口の感覚がない。視野が暗くなってきやがった……)

 マサシは思わぬ収穫に喜んだ。

 「こいつらを倒しゃあ、次期総長としてハクがつくぜ!」

 慶次(けいじ)は、自分が限界に近いことを悟っていた。
 しかし、この戦いでは、死んでも引けない事情があった。

 (俺だって、族だった。こいつらがつるんで遊びたい気持ちだってわかる。しかし、遊びで人に迷惑をかけちゃいけねぇんだ。まして犯罪なんて……。族を卒業した俺がケジメをつけてやらねぇと、全国の、ただヤンチャしたいだけの奴らも、妖魔と疑われちまう!)

 慶次(けいじ)は身体の内部で心気が巡り、傷の回復を試みているのがわかった。
 大火傷したあたりを中心に、エネルギーが身体を動き回っているのがよくわかる。

 慶次(けいじ)は、心気のコントロールが下手だった。
 今までは、ほとんど肉体の強さだけで妖魔を倒してきたようなものだった。

 師である胴間は、いつか使えるようになるさと楽観していて、慶次(けいじ)も深く考えてはこなかったが、心の底では焦っていた。
 時折戦いの中で、打撃に心気が乗っていないことは感じていた。
 
 さっきのように表面上は心気を纏って戦うことでパワーアップはできたが、打撃に一点集中させるタイミングが、どうしてもわからなかった。

 身体の中に、騒ぐ心気は確かに感じているのに、思ったところ、タイミングで、外へ出せないもどかしさ。日に日に焦りが積もっていた。

 しかし、なぜか、今はよくわかる。
 重症を負って無駄な力が抜けたからか、神経が研ぎ澄まされたからか、傷口というわかりやすい箇所に感覚が集中されたからか、原因は不明だが、心気がどこにいつ巡っているか、クリアに、よくわかった。
 これなら、できる!

 「この野郎! 俺はそっちのエネルギー溜め込み野郎にもぶつけたいんだよ! こうなりゃ、数打ちゃ当たるだ!」

 マサシは、ソフトボール大の妖気弾を連射し始めた。
 しかし慶次(けいじ)は、難なく心気をためた拳で、全ての弾を弾いていく。
 そして、ゆっくりとした歩みで、敵との距離を詰めていく。

 「なんだ! なんだお前! さっきの動きと別人じゃねぇか!」

 焦ったマサシはさらに弾数を増やしていくが、慶次(けいじ)には全てが見えていて、全てを難なく処理できた。

 ついに、マサシの目の前に立った。

 「ありがとうな、お前のおかげで、心気のコントロールのコツが、わかった」

 マサシは慶次(けいじ)を見上げたが、その時、「ひゃははは! かかったな!」

 爪の妖魔が後ろから飛び出した。やられたフリをして、機を窺っていたのだ!

 「この力を試すのが、近接型のお前でよかった」

 「くらえ、デスクロー!」

 赤黒い妖気がほとばしる爪を繰り出してきた敵に、慶次(けいじ)は静かに応じた。

 「心気拳!」

 一瞬で爪の妖魔の腹に大きな風穴が空いた。

 その穴を通し、後ろにいたマサシの頭部も、同時に吹っ飛んだ様子が見えた。
 
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