第56話 スプリングブリッジ

文字数 1,694文字

 「いくぞチビコラァ!」

 2体はアクセル全開で並行にバイクを走らせ、(にしき)へ向かってきた!
 2台の間隔はおよそ3メートル。
 (にしき)を間にして通り過ぎるような格好で向かってきた。
 
 (にしき)も距離を詰める。互いにすれ違いそうになったその時、(にしき)は2台の間にキラリと光るものを感じ、咄嗟に宙へ飛んだ。
 2台は急ブレーキをかけ、(にしき)へ向き直る。

 「へへ、気付いたみてぇだな!」

 「目がいい奴だ!」

 (にしき)は目を凝らした。
 並行して走る2台の間に、鋭い糸が何本も渡してある。

 「これが俺たちの技、スプリングブリッジだ!」

 「俺たちはバイクで並走する時、一瞬で間に鋭い妖気の糸を渡すことができる。間に入った人間は、ズタズタに細かく、切り刻まれるって寸法だ」

 「これで何人警察をミンチにしてやったか、ハハハハハ!」

 「こんなこともできるんだぜ!」

 ヤマキは高速でバイクを飛ばし、(にしき)へ向かってきた。
 途中で車体を寝かせ、滑るように突っ込んでくる。(にしき)は跳んで避けようとしたが、はっと気づき上を見た。なんとアキラが乗車したままバイクをジャンプさせ、寝かせた車体のヤマキのバイクと、空中で立体的に並走の形を取っている!

 「スプリングブリッジ!」

 2体が叫んだ。
 (にしき)は剣で糸を断ち切ろうと構えたが、相手がそれを想定しないはずがない。
 丘を降りるように横へ流れ避けた。
 丘の下では相手を見上げる形になり不利になるが、それしかなかった。

 「よく見切ったな」

 アキラがアクセルをふかしながら叫ぶ。

 「この糸は、生物にしか触れない。生物を切り刻むためだけの、妖力で作った糸だ。生物以外のこの世の物質には反応しない。すり抜ける」

 「けっ、もうちょっとだったのによぉ、勘のいい奴だ」

 ヤマキが残念がる。

 「大丈夫だヤマキ。俺たちは丘の上。あいつは下だ」

 「そうだなアキラ。俺たちが絶対有利だ」

 「次で決める!」

 高らかとエンジン音を響かせ、2台のバイクがスタートした。グングン加速し、一気にトップスピードに達する。
 2台の間隔は30メートルほど。丘の端に達した時、2台は大きく飛び上がった。

 「スプリングメッシュ!」

 2台の間に渡された鋭い糸が瞬く間に網の目のように張り巡らされ、まるで大きな風呂敷を広げたように空中に展開された。
 同時に2台の間隔が広がっていき、糸の網も拡張していく。
 2台は最高点に達し、車体を地上に向けた。

 「行くぜ!」

 2台はハードランディングするかのように、高速で地上に突っ込んできた! 2台の間には風呂敷のように広げられた網! 鋭利な糸で編まれている。
 2台のスピード、網の範囲、いかに高速で移動しても、かわしようがない。

 「終わったな」

 丘上で観戦していたトオルが呟いた。

 誰もが、(にしき)の負けを確信したが、(にしき)は落ち着いていた。
 おもむろに左手にはめていた黒手袋を外す。
 そこには、赤い筋肉や神経が剥き出しの手が隠されていた。

 「何してやがんだ。殺される準備かぁ!?」

 (にしき)を中央に定め、網の目で切り刻もうと突っ込んできていたヤマキは叫んだ。

 「悪手!」
 (にしき)が手袋を外した左手を伸ばし、空を握った。
 何かを掴むような仕草だ。すると、不思議とヤマキの身体がバイクから離れた。

 「へ??」

 ヤマキは信じられないような顔をしている。
 なんと、ヤマキの襟首を、手首の先だけになった(にしき)の赤い手が、掴んでいる。(にしき)は空を握った手をそのまま、反対側へ払った。
 すると遠隔で同じ動きをした赤い手が、ヤマキをすごい力で投げ飛ばした。

 先にはバイクに跨ったアキラがいて、投げ飛ばされたヤマキはアキラにぶつかり、2体は墜落した。
 
 スプリングメッシュは消え失せ、ヤマキが乗っていたバイクも落下した。

 トオルが呟いた。
 「ほう」

 起き上がったアキラとヤマキは顔を見合わせている。

 「なんだ今のは。いきなり手首の先が現れて、俺の襟首をつかんでお前の方へぶん投げた。あいつの技か?」

 「みろ! また黒い手袋をはめている。あの左手で今の技を使うんだ」

 「なんてやつだ……」

 「さぁ、乗り物は捨てて、そろそろちゃんとやろうか」

 (にしき)の声に2人は戦慄した。
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