容赦のない言葉

文字数 1,223文字

「やはりあの女性が犯人だったのですね。詳しく教えてください」

 黒羽は有無を言わせない口調で宮間を問い詰めた。
 宮間は黒羽の熱意を軽く受け流す。

「もちろん今から話すよ。大事なことだからねぇ」

 宮間は手帳をめくりつつ、脳内の情報整理を行っていく。

 その途中で、事前に注文していた料理が届いた。
 三人分のラーメンにサイドメニューの餃子である。

 それらを見た宮間は、ラーメンの香りを嗅ぎながら割り箸を割った。

「冷めたらもったいないし、食べながら話そうか」

「賛成ですー!」

 七篠が腹を鳴らしながら同意する。
 今にも食べ始めかねない勢いだ。
 先ほどからずっと我慢していたらしい。

 黒羽も仕方なく頷く。

「……それで構いません」

「よしよし、そうこなくっちゃ」

 宮間はさっそくラーメンを啜りながら、手帳をめくって目当てのページを読み上げる。

「元彼女さんの名前は、榊あおい。二十二歳のパート勤務で、現場の近くに住んでいるみたいだね。ガイシャの浮気がバレて、ほとんど一方的な形で別れを切り出されたらしい。まあ、殺人の動機としては十分かね」

「すぐに会いに行きましょう。住所は分かりますか?」

 黒羽はやや食い気味に尋ねる。
 ラーメンには一口も手を付けていない。

 宮間は餃子を口に運びながら手帳をさらにめくる。
 肉汁が垂れてページに染みが付いているが、あまり気にした様子はなかった。

「まあ、一応調べてはいるけど……」

「逮捕するための証拠がないのですね。分かりますー」

 黙って話を聞いていた七篠が続きを言う。
 神妙な面持ちのつもりかもしれないが、手は絶え間なく料理を運んでいるのでイマイチ締まらない。
 既にラーメンの器はスープだけになろうとしていた。

 宮間は箸で七篠を差す。

「そうそう。よく分かったね。おそらくクロだろうけど、証拠がなきゃ駄目なんだ。逮捕できない」

 黒羽は顎に指を当て、少し考えてから意見する。

「今後はその証拠集めを中心に、榊さんの身辺を探るのですね」

「ご名答。何も逃がすわけじゃない。むしろ、確実に捕まえるために下準備をするのさ」

「確実に捕まえるための……」

 宮間の言葉を聞いた黒羽は、途端に黙り込む。
 意表を突かれたような表情だった。
 耳にした言葉の意味を、丁寧に紐解いて理解しようとしている。

 そんな黒羽の姿を、宮間は微笑みながら見守る。
 口出しはしない。
 ただ、彼女の些細な変化を眺めるばかりだ。

 一方で七篠は、不思議そうに首を傾げる。

「刑事サン、この短時間でよくここまで調べられましたね。すごいです」

「まあ、やる気を出せばこれくらい朝飯前だよ」

「それはいつもやる気を出した方がいいんじゃないですか?」

「……まこっちゃんは地味に痛い所を突いてくるねぇ」

 胸を押さえた宮間は、乾いた苦笑を漏らした。
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