死神刑事の勘違い

文字数 1,091文字

 数日後の昼過ぎ。
 宮間と黒羽は飲食店の並ぶ通りを歩いていた。

 殺人事件解決により、二人揃って有給休暇を獲得したのである。
 そこで一緒に食事にでも行こうという話になったのだった。

 宮間は電子タバコの煙をくゆらせていた。
 目は見事に死んでいる。
 勤務中に比べればまだマシだが、それでも濁り方が一般人のそれとは一線を画していた。

 隣を進む黒羽は眉を少し寄せて鼻を押さえる。

「今度は何の臭いですか」

 宮間は電子タバコを指の間で回しながら答える。

「そんな嫌そうな顔しないでよ。ただのシーザーサラダフレーバーなんだから」

「控えめに言って正気を疑いますね」

 二人がいつも通りの談笑をしていると、前方に見覚えのある人影がいた。

 エプロンを着けた七篠が佇んでいる。
 ただし身体の前面が赤い液体に塗れており、顔や髪にも飛沫が付いていた。
 特徴的な大きな目は、同じく赤くなった地面を呆然と見つめている。

 殺人鬼がついに本性を現したのだ、と黒羽は瞬時に察した。
 彼女はすぐさまスタンガンを取り出して構える。
 宮間は電子タバコをくわえたまま突っ立っていた。

 二人に気付いた七篠は、笑顔で挨拶をする。

「あー、刑事サンと黒羽サンだー。こんにちはですー。お仕事中ですか?」

「よう、まこっちゃん。今日は休みだよ。今からメシに行くんだ」

「ご飯ですか! いいですねェ、楽しんできてくださいー」

 呑気に会話をする宮間と七篠。

 一人だけ緊迫した雰囲気の黒羽は、七篠の動きに注意しながら宮間に囁く。

「いいのですか」

「ん? 何がかな」

「七篠さんの恰好ですよ。白昼堂々と血塗れです」

 宮間はぼんやりと七篠を眺める。
 対する七篠は不思議そうに首を傾げていた。

 やがて何かを理解した宮間は、遠慮がちに苦笑する。

「えっと、黒羽ちゃんはちょっと勘違いしてるっぽいね。まこっちゃんの足元をよく見てみなよ」

「足元……?」

 指を差す宮間に従い、黒羽は視線を動かす。

 七篠の足元には、同じく赤い液体に濡れたビニール袋があった。
 目を凝らすと、中に何かが入っているのが分かる。
 それは、大量の潰れたトマトだった。

 二人の視線の先に気付いた七篠は、頭を掻いて照れる。

「トマト鍋を作ろうと思ったのですが、買い物の帰りに転んでしまいました。お恥ずかしい限りです」

 殺人鬼の回答を受けた宮間は、黒羽の方を見て問う。

「ほら、勘違いだったでしょ?」

「……そうですね」

 黒羽は顔を逸らして俯くことしかできなかった。
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