知り合いの殺人鬼
文字数 1,326文字
七篠まこと。
その名を耳にした宮間は、なんとも微妙な顔をする。
「あー……ん? どっかで聞いたことがあるような、ないような……」
「刑事なんですから、人の顔と名前くらいは覚えてください。立派な怠慢です」
悩む宮間を見て、黒羽は辛辣な言葉を吐く。
さすがにここまで見当もつかないのはどうかと思ったようだ。
相手は常軌を逸した大量殺人者。
過去に面識があるはずだが忘れた、では済まされない。
「もうアラサーだからね……記憶力が衰えてるんだよ」
「悲しそうに言っても騙されません。早く思い出してください」
煮え切らない態度の宮間と若干苛立つ黒羽。
そこに助け舟を出したのは、意外にも七篠であった。
「刑事サンは相変わらずですねェ。何度もお会いしていますよ。ショッピングモールでの火災事件とか、高層ビルでの停電事件とか、豪華客船での水没事件とか……」
それを聞いた宮間は、合点のいった顔で手を打つ。
「ああ、やっと思い出した。まこっちゃんかー。久しぶりだね、三年ぶりくらい?」
「だいたい二カ月ぶりですよー。刑事サンはお元気でしたか?」
「うんうん、元気。仕事が忙しすぎて面倒なのが最近の悩みだな」
宮間と七篠は実に親しげな様子で会話をする。
まるで旧来の友人といった雰囲気だ。
唯一、状況を把握できていない黒羽は、冷たい眼差しを宮間に向ける。
目の前の殺人鬼について説明しろ、という視線だった。
さすがに空気を呼んだ宮間は、ニコニコと笑う七篠の肩を叩く。
「まこっちゃんはフリーの便利屋さんのオーナーでね。なぜか頻繁に殺人事件の現場で出くわすんだ」
「…………なるほど」
回答を受けて黒羽は思わず硬直する。
この殺人鬼は、間違いなくクロだ。
七篠が事件を起こしているのだから、現場で何度も遭遇するのは当然のことである。
だが、それを直接的に指摘するのはあえて避けた。
今はこうして穏やかな七篠だが、何をきっかけに豹変するか分からない。
迂闊な言動は控えるべきだろう。
おそらく宮間もその辺りを理解しているのだ、と黒羽は思うことにした。
明らかに何も考えていなさそうだが、そこを深く追求しても益はない。
黒羽は当たり障りのなさそうな話題を振ってみる。
「まこっちゃんというのは……」
「俺が付けたあだ名だよ。そもそも七篠まことってのは偽名でね? その時のまこっちゃんは七篠権兵衛 って名乗ってたんだけど、堅苦しい上に偽名だって丸分かりでしょ? だからくじ引きで下の名前を一緒に決めてみたんだ」
「結構気に入ってます」
唐突に展開される偽名トークに、七篠は笑顔で頷く。
表沙汰にできない内容かと思われるが、本人は至ってのほほんとしていた。
宮間も世間話でもしているかのような調子だ。
平然と危険な話題を提供してくる。
彼の脳内からは、七篠が殺人鬼であるという情報は既に欠落しているのかもしれない。
黒羽は俯きがちに頭に手を当てる、
「――良い名前、ですね」
鈍い頭痛を感じ始めた彼女には、月並みな相槌しか打てなかった。
その名を耳にした宮間は、なんとも微妙な顔をする。
「あー……ん? どっかで聞いたことがあるような、ないような……」
「刑事なんですから、人の顔と名前くらいは覚えてください。立派な怠慢です」
悩む宮間を見て、黒羽は辛辣な言葉を吐く。
さすがにここまで見当もつかないのはどうかと思ったようだ。
相手は常軌を逸した大量殺人者。
過去に面識があるはずだが忘れた、では済まされない。
「もうアラサーだからね……記憶力が衰えてるんだよ」
「悲しそうに言っても騙されません。早く思い出してください」
煮え切らない態度の宮間と若干苛立つ黒羽。
そこに助け舟を出したのは、意外にも七篠であった。
「刑事サンは相変わらずですねェ。何度もお会いしていますよ。ショッピングモールでの火災事件とか、高層ビルでの停電事件とか、豪華客船での水没事件とか……」
それを聞いた宮間は、合点のいった顔で手を打つ。
「ああ、やっと思い出した。まこっちゃんかー。久しぶりだね、三年ぶりくらい?」
「だいたい二カ月ぶりですよー。刑事サンはお元気でしたか?」
「うんうん、元気。仕事が忙しすぎて面倒なのが最近の悩みだな」
宮間と七篠は実に親しげな様子で会話をする。
まるで旧来の友人といった雰囲気だ。
唯一、状況を把握できていない黒羽は、冷たい眼差しを宮間に向ける。
目の前の殺人鬼について説明しろ、という視線だった。
さすがに空気を呼んだ宮間は、ニコニコと笑う七篠の肩を叩く。
「まこっちゃんはフリーの便利屋さんのオーナーでね。なぜか頻繁に殺人事件の現場で出くわすんだ」
「…………なるほど」
回答を受けて黒羽は思わず硬直する。
この殺人鬼は、間違いなくクロだ。
七篠が事件を起こしているのだから、現場で何度も遭遇するのは当然のことである。
だが、それを直接的に指摘するのはあえて避けた。
今はこうして穏やかな七篠だが、何をきっかけに豹変するか分からない。
迂闊な言動は控えるべきだろう。
おそらく宮間もその辺りを理解しているのだ、と黒羽は思うことにした。
明らかに何も考えていなさそうだが、そこを深く追求しても益はない。
黒羽は当たり障りのなさそうな話題を振ってみる。
「まこっちゃんというのは……」
「俺が付けたあだ名だよ。そもそも七篠まことってのは偽名でね? その時のまこっちゃんは
「結構気に入ってます」
唐突に展開される偽名トークに、七篠は笑顔で頷く。
表沙汰にできない内容かと思われるが、本人は至ってのほほんとしていた。
宮間も世間話でもしているかのような調子だ。
平然と危険な話題を提供してくる。
彼の脳内からは、七篠が殺人鬼であるという情報は既に欠落しているのかもしれない。
黒羽は俯きがちに頭に手を当てる、
「――良い名前、ですね」
鈍い頭痛を感じ始めた彼女には、月並みな相槌しか打てなかった。