両者の理解

文字数 1,148文字

 百貨店に到着した三人は、まず衣料品コーナーに向かった。
 言わずもがな、黒羽の私服を購入するためである。

 宮間はベンチに座って待機していた。
 異性の服に関して意見できるほどの知識を持ち合わせていないのだ。
 大人しく待っているのが得策だろう、というのが宮間の考えであった。

 宮間は無意識に電子タバコを使おうとして、ここが百貨店内であることを思い出してやめる。
 彼は深々とため息を吐き出す。

「参ったなぁ、本当に」

 宮間の嘆きは、ここまでの道中に原因があった。
 百貨店に来るまでに電車を利用したのだが、周りからの視線が存外に痛かったのだ。
 最初からタクシーを使えばよかった、と今更ながらに後悔している。

 既に疲れている宮間の視線は、店内であれこれと服を吟味する黒羽と七篠を眺めていた。
 なかなかに微笑ましい光景だ。
 とても死神と呼ばれる刑事と殺人鬼には見えない。
 二人の素性を知るのは、この場では宮間だけである。

 宮間が何をするともなく待っていると、先に七篠が戻ってきた。
 心なしかしょんぼりとしている。
 宮間、隣に座るように促しながら尋ねる。

「どうしたのさ。何か落ち込んでるっぽいけども」

「黒羽サンに、僕の選ぶ服が派手すぎるから嫌だと言われました……」

「うーん、それはちょっと否定できないねー」

 悲しげな七篠を横目に、宮間は欠伸を漏らす。

 黒羽の性格からして、華美な服装は好まないだろう。
 確かに七篠の服装のセンスとは相容れない感じがする。

 見れば店員が黒羽の応対をしているので、あとは任せてしまえばいいだろう。
 適当に良い服を見繕ってくれるに違いない、と宮間は信じることにした。

 しばらく無言で黒羽を待っていた二人だったが、七篠がふと話題を切り出す。

「刑事サン」

「ん? 何かな」

「どうして刑事サンは、僕が同行することに何も言わないのですか?」

 宮間は投げられた質問に、少し考えるそぶりを見せる。
 そしてあっさりと返した。

「まこっちゃんが同行することで、俺が困ることなんてないからなぁ。言いたいことなんてないよ」

「本当ですか?」

「うん、本当。むしろ、俺より積極的に調査してくれるからありがとうって感じだよね。おかげで俺の負担が減るし」

 平然と言い放つ宮間。

 七篠はきょとんとした表情で宮間を見る。
 嘘を吐いている雰囲気はない。
 明らかに本音だった。

 七篠は口元に手をあてて、くすりと笑う。

「――刑事サンは変な人です」

「あははー、まこっちゃんにそれを言われちゃうかー」

 のほほんと笑い合う宮間と七篠。
 刑事と殺人鬼は、互いの身分を承知で呑気に会話をするのであった。
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