第4話 勝ちを知る者、負けを知る者

文字数 872文字

 千風は二卵性双生児の姉だ。弟は空木(うつぎ)という。そして千風が『お姉ちゃん』と呼ぶ希は3つ歳上。希には千風らと同級生の双子の弟、(ひかり)(こだま)がいる。
 大手家と小田原家は近所の双子サークルで出会い、幼いころからずっと付き合いが続いている。


 希は双子の弟たちを連れて保護者代わりに付き添っていた。面倒見の良い、聡明でちゃんと(・・・・)お姉ちゃんをしている。
 光、谺はヤンチャで好奇心旺盛。負けず嫌いで男同士譲り合うことなくケンカもしょっちゅう。二人の要領が良過ぎて、同じ男の空木は気後れして、いつも圧倒されてしまう。
 その点千風は物おじせず光、谺にも負けず快活だった。物事のコツを掴むのが上手く、身体の使い方も優れていて男勝りだ。
 何よりバランスを取る嗅覚を持っている。それは人生におけるバランス。



 千風は希に憧れた。



()っちゃん〔空木〕はいつも穏やかね、光とかが散らかしたのも片付けてくれたり……優しいのね。いつもありがとう」

 そう言って空木の頭を優しく撫でる。その手の温もりは人肌の優しさ……希の周囲を絆和(はんな)させてしまうキュアな空気が包む。
 子供たちの誰もが『自分』のことばっかりの中、周囲に気を配れる大人びた行動が、思わず甘えてしまいたくなる感覚を起こさせる。



「コラッ! 光っ! 谺っ! 千風(ちー)ちゃんの番でしょ! 女の子には優しくしてあげなさいっていっつも言ってるでしょっ!!」
 なんでもそつなく(こな)す千風に負けまいと、兄弟が争って奪い合いになるとすぐに飛んできて、無我夢中になって手の付けられなくなった二人を(たしな)めてくれる。その強さに惹かれる。


 なんでも知っていたし、なんでも教えてくれた。走るのだって千風が唯一敵わないのが希だった。『あたし』って言い方だって、髪を短く切ったのだって、イクラが好きなことだって何をするのもお洒落で可愛くって、希を真似ることが正義だった。



「あたしね、箱根駅伝に出るんだっ!!」

 千風も友達にそう言っていたけれど、小学校の卒業文集には『将来の夢』にその文字は無かった。



 それでも希と千風の『女子箱根駅伝への挑戦』が終わったわけではなかった。
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