第16話

文字数 823文字

◆◇◆◇


 母親が千風の忘れ物を学校で渡すよう頼まれて、空木が千風の教室に行った。

「千風、忘れ物だって、はい」
「あ、良かった……」

 そう言って受け取ろうとしたとき、持ち方が悪かったのか、中身が巾着から零れ落ちた……それは生理用品だった。

「……はい」

 それを拾ったのは学年一とも言われるチャラ男。千風は空木を恨んだ。


◆◇◆◇


 千風はルックスがいい、それだけで男受けする。それでいて女子たちとも上手くやっている。うっかりとお茶目、可愛さを適度(ナチュラル)に配分できる。

 千風はバランス感覚がいい……出過ぎず、ほどほど。ノリと自重。大きく転びもしなければ、ひけらかす事もない。抜きと張り……それは一張一弛……程よい加減を見極めることは術だ。千風は光と影のように明確に分けられていないその重心を見つけ出す。
 しかし空木に対してはそれができない。


◆◇◆◇


 空木が一生懸命やっているSNS。アップした写真に幼い頃、空木のTシャツと千風のワンピースでお揃いの柄の服がある。空木が千風のワンピースをTシャツ代わりに着ていたのが『女モノじゃね?』とクラスで話題になった。
 更には空木が着ていた学校ジャージのタグに大きく『千風』と書かれているのが写ってしまった。

 空木は千風の下着も穿いているんじゃないか、と揶揄われたりして千風も嫌な思いをした。空木のおっとりとした性格が許せなくなった。
 だから空木に『ありがとう』も『ごめん』も言えてない。千風の心の内には、たくさんの言えなかった、言わなかった『ありがとう』とか『ごめんなさい』やらがため込まれている……。勝手に時効を作ってそのままにしてある言葉の支払い猶予(モラトリアム)はとっくに過ぎているというのに……。
 言葉にも賞味期限があると思われる。一番おいしい瞬間、ここぞというタイミング、魔法となる言葉の賞味期限。千風の中には滞った言葉が溜まっている。責任が猶予されたままのモラトリアム……。

 千風にはそれがモヤモヤといつまでも消えないでいる。
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