第92話

文字数 928文字

 熾烈な3位争いが繰り広げられている。優勝を狙う馬引沢がまさかの3位争いに巻き込まれる。8 位から一気に追い上げた帝国大が真瀬田大を引き連れて集団となる。

 当日変更で9区に起用された選集大、木津が走れない選手たちの想いを背負ってスタートから飛ばす。関東学園大と共にシード権争いに名乗りを上げる。

 真瀬田大は前回13位で、3年ぶりに予選会からの出場となった。最低でも総合3位入りが名門復活の合言葉だ。

 終盤の箱根駅伝、各校の想いと意地が交錯する見どころ満載の展開。

 往路優勝のプライドで追い付いた夜風が、集団に並んぶ。さすがに裏エースが集まる9区である、ここまでに消耗したエネルギーは計り知れない。夜風は蒼白であった。

 隣に並ばれた望洋大はその表情を見てギョッとする。自身も苦しいにもかかわらず夜風への心配の声が出る。

「お、おい……」
「見つかったら殺される……見つかったら殺される……」

 夜風はブツブツ独り言を言っている……。周囲がそれに気付いたのなら、誰もがその執念にたじろぐ。


「この集団はすぐに見つかる……すぐに抜け出さないと……」


 どうやら彼の想像力は常人のそれを遥かに凌駕するモノだったらしい。フラフラと集団から抜け出したが、集団がそれを許さない。夜風は何度もアタックを繰り返したものの、彼らを振り払うほどの余力は残っていなかった。

 最後の襷を繋ぐ鶴見中継所。その順位は青坂、教立、馬引沢、真瀬田、帝国、明和、聖和、任典道大、望洋大、関東学園大、選集大、太平洋大、東邦国際……タイム差を考えるとここまでが10位圏内。

 関東学園大は期待の裏エースで一つしか順位を上げられなかったのは無念でもあるが、日本の文化は……そして駅伝は、『森を見る』スポーツだ。チームの誰もが葉や木(目先の順位)を見ない。
 これこそがここまでみんなで紡いできた(たすき)である。


◆◇◆◇


 鶴見中継所では東京文化大学のライトグリーンの襷が潰えた。あと60メートルが届かず、涙を抱いた。誰もいなくなってしまった中継所に辿り着くと顔を覆って膝を着くのだった……。彼もまた抱えた涙が焼きもどしとなって強さを積むことだろう。
 関東学生連合は8→9区の戸塚中継所に続いて9→10の鶴見でも無念の繰り上げとなった。
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