第24話

文字数 663文字

 5区、北野中前発してゴールの西京極の5.0キロ。北野中学前→西大路通→五条通→西京極陸上競技場。
 最終区はスタートしてから西大路四条までの最初の2キロは下り坂、後はゴールの西京極まで平坦でスピード勝負となる。

 松島育英は3区9分30秒、4区9分08秒と区間新に迫る見事な走り。その差は1分18秒で聖和は27位で襷が渡る、聖和アンカーは瀬々奈紫乃(せせなしの)。紫乃が得意の平坦でその差を詰める、悪い流れを断ち切る軽やかな走り。アンカーとしてのメンタルは2年生ながらにさすがの一言、流れを一変させた。

(軽い! ビュンビュン景色が流れていくわっ!)

 足音は軽く、着地する足の裏の感触が固くない。蹴り足に力を込めなくても空だって飛べそうだ。

(先輩たちの待つゴールへ! 今、襷を届けに行きます!)

 2区から伝わった『I will do it(私がなんとかする)』が知らずに重責となっていしまった3年生と違い、自身の走りに笑顔が零れる。


 追われる者は軽快すぎる靴音が脅威となって思わず振り返る……『振り返ってはならない』タブーを犯してしまうほどのプレッシャー。
 残り3キロからの10人抜き。

「凄い……」
 千風の呟きが漏れる、感嘆の走りだ。

 紫乃は4位で帰ってきた……。

 早希は紫乃のその姿を見て俯く。自分が順位を下げなければこの後輩が、この後輩なら今より最高の笑顔をゴールへと連れてきたに違いない。早希は涙した……そして希も涙していた。しかしその涙には大きな違いがある。

 ゴールを駆け抜けたそのトップとの差は35秒。――悔いはない……。
 希たちの高校陸上は幕を閉じた。
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