サンライズ,2022/1/26

文字数 536文字

 出社日。
 残業して、会社の近くで夕飯食べて帰るつもりが、マンボウで一軒も開いてない。妥協して入った立ち食い蕎麦もテイクアウトのみ。空腹を抱えたまま一時間の帰路につく。
 東京駅で電車を待っていると、隣のホームにサンライズ出雲号がやってきた。アナウンスでニュウセンと言っていたのはたぶん入線と言っていた。他の電車にそんな言葉を使うのは聞いたことがない。
 2020年の1月、新型ウィルスを中華SFかなにかと思っていたころ、この寝台列車で島根・出雲へ赴いた。寝台列車に乗る、ということだけを決めて、あとは無計画な男二人の旅だった。断片的な記憶はある。朝食を食べた店の暖炉の炎、ゲストハウスのスタッフが来ていた巨大な迷彩柄のノースフェイス、出雲大社の近くで降った天気雨、連れ合いが温泉街で卵専用の調理用具を買っていた。
 肝心の寝台特急ではほとんど眠れなかった。線路から伝わる細かな振動は、在来線でうたた寝するぶんには気にならないのに、寝るために特化した静かな車内では逆に目立つ。流れるように窓からきざす常夜灯が、瞼を突き抜けて眠りを妨げる。それでもまた乗りたいと思ってしまうのはなぜだろう。寝相の悪い考えが、東京駅のホームで在来線を待つ俺に、あったかもしれない現在を思い出させる。
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