食事の重たさ、風に浮く身体

文字数 1,250文字

なんだか頭がぼんやりしていたため、週末は海の近くまで歩きに出た。

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昼食はよさげなカフェに入って、ビーガンのハンバーガーというのを食べた。いささか結束力に欠けるバンズと、何でできているのか逆に怪しいパティは、味は決して悪くないのだが、あんまりお腹になにも溜まらないので驚いた。食べた気がしない、否、ハンバーガー味の虚無を食べた気がする。
付け合わせのポテトフライ(これもビーガン仕様)はふつうに美味しかった。

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気持ちよく晴れていたが、風だけが猛烈に強い日で、こまかい砂粒が目や耳の奥にまで入りこんできた。マスクをしていたのに口の中がザリザリする。これではウイルスだって防ぎきれてないんじゃなかろうか。

海にはウィンドサーフィンをしている人がたくさんいた。威勢のいい高波が絶える気配はまるでなく、きっとこの砂嵐もあの人たちにとっては願ってもない幸運なんだろうと想像した。
防潮堤の下をくぐって砂浜から一般道に抜ける通路がところどころにある。その通路がまさしく風の通り道で、海から陸側に向かって歩くとものすごい風圧に背中を押されて、思わず駆け足になってしまう。
暴風で音はかき消え、眼球は砂粒まみれ、そんな状態で走るなんて平時ではあり得ないが、強すぎる追い風は後退も停滞も許してはくれない。
「スーパーマリオのステージで、こんな強風のとこ、あったよね?」と苦し紛れに言ってみることで状況を強引にエンタメ化し、砂だらけで危険な目に遭っているかわいそうな自分を無意識に慰めている。
なぜ海に行こうなどと考えたのか?なぜ天気予報の気温と降水確率以外の数字を無視したのか?あらゆる後悔を思い出さないために。

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西友と商店街の市場に寄って、一週間分の食糧を買いだめして帰る。
今週は水曜日に会社の懇親会があるから普段より一食ぶん少ないはずだが、それでも手がもげそうなくらいの買い物になる。たった五日でこれだけの重たさを体内に取り込んでいるわけだ。たかだか在宅勤務にこれほどの燃料が要るとも思われないのだが、僕の体内でどのようなエネルギー保存の法則が働いているのか気になるところだ。

あのビーガンのカフェでとなりの席に座ったザ・海沿いの女という感じの二人組がしていた会話が思いだされる。
いわく、白米やら小麦粉やら肉魚やらを抜いた食事と、ヨガ、気功、ときには断食(ファスティング、と言うそうだ)を組み合わせることで身体がみちがえるほど軽くなり、調子がよくなるのだという。
僕は、いままさに僕の左腕を引きちぎらん勢いで全体重をかけてくる非ビーガン的な食糧───サーモンの切り身や豚肉切り落としやレンチンの白ごはん200グラム×10パックや濃厚魚介つけ麺───をながめる。これらのせいで僕は、海からの風を掴んで飛んだり、両脚を組んで宙に浮いたり、そういうことができないのだろうか。

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そのレジ袋いっぱいの重量感や、従来型の食事に起因する身体の重たさというのが、つまるところ、生命のやっかいな重さそのものなんだろう。そろそろ寝ます。


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