文学フリマ東京

文字数 1,118文字

 先週末、文学フリマに行ってきた。

 存在はうすうす知っていたが具体的になにが行われているのかはちょっと想像しにくいまま当日を迎えた。前日とは打ってかわって東京は雨が降ったり止んだりの空模様だ。フリーマーケットという言葉の響きから青空のもと屋外での開催をイメージしていた私はこりゃ中止かな、本濡れちゃうな、とか考えていた。
 でも会場はもちろん屋内で、なんなら巨大な倉庫だった。長机とパイプ椅子が整然と並びその上でおよそ考えうるすべての俗物と高潔が売られていた。それが文フリ。私はそれらのいくつかのほかほかした活字と、おろしたての金銭を交換した。それが文フリ。

 そうだ、そもそもなんで私が文フリに?という話をしていなかった。簡単にいうと私も同人誌に寄稿さしてもらったからです。本はタイトルを『読書のおとも』といって、詩人でエッセイストで小説家で画家(!)の岸波龍さんが主宰・編集したエッセイアンソロジー。「読書に合う飲みものや食べものについて」というテーマだけ与えられ、各々自由に書くというもの。私は当日まで他の参加者四名の原稿は読んでいなかった。いざ読んでみるとみなさんけっこう好き放題というか、お題無視すれすれで書いており超おもしろかった。それでもアンソロとして奇跡的なバランスを保てているのは岸波さんの編集のおかげで、その辺の裏話は寄稿者の一人である柿内正午さんのポッドキャスト「ポイエティークRADIO」で聴けるらしい。宣伝はこのくらいにしますが、よい本なのでぜひ。読めばあなたもオカメサブレが食べたくなること請け合いです。
 
 文フリ当日に話を戻すと気づかされたことがひとつあって、それは「ものを書いたり読んだりする人」という人物像が自分のなかでだいぶ凝り固まっている、ということ。これは後日「読書のおとも」寄稿者どうしでも話したことだけれど、気むずかしく虚弱体質で丸眼鏡をかけて髭を生やして、そんな人間はむしろ会場で一人も見かけなかった。マジで本とか一冊も読まなそう!な人が中澤系について一冊丸々語っていいのだし、ひたすら猫を愛でるZINEを作っていいのだ。識字率99%の日本なのだから、もっとみんな軽率に読んだり書いたりすればいいと思う。
 
 戦利品のなかでは『犬待荘の人々』がダントツおもしろく、とくに蜂本みささん(第2回ブンゲイファイトクラブ優勝者)はこんなミニマルなエッセイでもしっかり笑わせてくるんだからずるい。本当におもしろい本を見極める一つの指標として「トイレに持ってってまで読むか」というのがあるのだが、本書はその基準を大幅にクリアしてさっきもトイレの中で不気味に顔をひきつらせていた私である。文フリ、また行きたい。
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