第3話 高校卒業までの私 ② Recommendation system

文字数 2,429文字

 そもそも自分は突拍子もない子どもだったという。そんな自覚はあまりなかったのだが、小中高と何度も親は呼び出しを食らっていたらしい。父が今でも面白がって言うのは、私が小学校の時に、男子トイレにいた同級生のレイジと、男女を分ける摺りガラス越しにネットをはさむようにしてトイレットペーパーを投げて遊んでいるうちにガラスが割れ、ひと騒動になった事だ。副校長に呼び出された母親は父親にその任務を譲り、父は学校にお詫びして一件落着した。父は「いい加減にしろよ」と言っていたが、むしろ私とレイジの蛮行を喜んでいるようだった。母親としては呼び出されるのはもううんざりという風であったが。

 その他にも逸話は数限りないが、また機会があればお話しすることにして、高校生の時の話に移ろう。地元の市立の小中を卒業し、都立高校へ進学した。その高校は家からは自転車、電車、自転車と乗り継いで1時間くらいかかってしまうのだが、女子サッカー部があるから選んだ。自分の学力にもほぼ近いレベルだったので、まあ良かったのだと思う。すぐに女子サッカー部に入部した。運動の得意な子ばかりではあるが、サッカー経験者は少なかったため、5月のリーグ戦で途中交代でデビュー。いきなり同点ゴールを決めて引き分けに持ち込んだ時の高揚感は忘れない。3年生が引退した後は2年生主体のチームにレギュラーとして入り1年過ぎたところで自分たちの代になった。私はプレーの実力的には上位だったためキャプテンを任されそうになったが、リーダーシップをとる人間力はまだ備わっていなかった。結局、麻美子にキャプテンを任せ、自分は副キャプテンとなった。それとは別に、未経験者たちの中から部長をやりたいという子がいて、プレイ面は正副キャプテン、全体の事務的な事や生徒会とのやり取りは部長が担当するという形になった。
自分たちの代のチームで戦い始めた頃は、チーム内の実力差が顕著だったため、私はとても物足りなさを感じ、何故この学校のチームを選んでしまったのだろうか、というような事を思っていた。そのような不満を漏らすたびに、父は言っていた。
 「由理奈さあ、それって最初から分かってた事だろう。今更不満を言っても仕方ないじゃないか。ぶつぶつ言うよりどうやったらうまくいくか考えた方がいいんじゃないか?」
「だって、麻美子とあと何人か以外はまともにボールも蹴れないんだよ。キーパーは経験なくて失点が多くなっちゃうし」
「だったらみんなで練習しろよ。経験者が教えてあげればいいじゃないか」
「そう簡単にいかないんだよ。経験者とそうじゃないメンバーとの間に溝があるし」
「じゃ、先生に相談してみればいいんじゃないのか? あの顧問のM先生なら色々指導してくれるだろ。ま、文句言ってるんじゃなくて、どうしたいいかを考えろよ」
「・・・」

 私は行き詰った。サッカー部の活動も行き詰ったが、勉学への取り組みでもそうだった。私は2年生の前半を壮大な実験の時期にあてた。まあ、今振り返れば壮大というほどではないかも知れないが、その時はそんな気持ちだったのだ。それは自分の思うように授業を選択するという事だった。もちろん既に履修すべき授業は決まっていたのだったが、必要ではないと思う授業は受けず、保健室へ行った。具合が悪いと言って休んだ。実際、頭が痛くなったりした。まあ、今考えれば多分に精神的な影響もあったのだと思うが。
 この時期の遅刻、欠席、早退によって通知表はずいぶん灰色になった。しかし、真っ黒というほどには傷がつかなかった。というよりも、そこまで傷をつけないように自分でも計算はしていたのだと思う。後になってそれが響いてくるのだが、この実験期間を経て自分が何をすべきか少しづつ分かってきたのだろう。結果的に灰色の期間はあったものの、指定校の学校推薦を受けて大学に合格したのだ。よくあれだけ灰色の期間があったにも拘わらず推薦を得る事が出来たものだと両親も感心したが、担任の先生や保健室の先生たちが、そうは言っても私を見捨てず最後までサポートしてくれた事が大きくプラスになったのだろう。担任とは当初はあまりウマが合わないと感じていたものの、応募した生徒の中から誰を学校推薦にするか決める段においては応援してくれていたのであろうし、決まったあとでは指定の大学に対して説得力のある推薦文を書いてくれた。父は、
「素晴らしい推薦文だし、生徒の事を一生懸命サポートしてくれている。感謝すべきだぞ。ウマが合わないとか言ってたけど、いい先生じゃないか。お父さんは好きだけどな」
と何度も言った。今では先生に大変感謝しているが、その時々では見えていない事も多かったのだ。その頃はまだ考えの足りない高校生で利己的な面も強かったから全部を理解する事は難しかったのだろうと思う。
 推薦文には次のような事が書いてあった。

「由理奈さんは、3年にわたって真剣に勉学に打ち込んできました。その成果として成績は優秀であり、常に学年の上位にいます。一方、我が校が目指す文武両道を体現し、女子サッカー部では副キャプテンを務め、東京都高校女子サッカーリーグ戦では得点女王の栄冠を獲得しました。また、3年の文化祭においても非凡な能力を発揮し、クラス劇の立て看板作成担当として秀逸な作品を作り上げ、全校一位の投票を集めて表彰されました。このように勉学だけでなくスポーツ、文化の面でも顕著な活躍をしてきた逸材であり、貴大学で学ぶにふさわしい生徒と確信します」

 これは褒めすぎだ(笑)。でも悪い気はしない。この推薦文とともに、課題として指定された小論文を添付して応募書類を提出し、11月末には無事に合格発表を受領した。この時の小論文のお題は、次のようなものであった。

「あなたは本学でどのようなテーマを学びたいと考えていますか。またそのテーマを選んだ理由を具体的に示しなさい」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:由理奈(ゆりな)

誕生:2001年2月25日 東京生まれ 

2020年のステータス:大学生

趣味:キーパーを抜いてシュート

おとう(由理奈の父)

1957年 地方都市生まれ

海外在住歴10年(アメリカ6年、ドイツ4年)

現在は一人会社の社長

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み