第16話  CO2による人災? Man-made disaster ?

文字数 2,459文字

 翌日、父と電話で話した。

「おとう、キャンピングカーも役に立ったんだってね。おかあと真理奈姉ちゃんが言ってたよ」
「ああ、ようやく君たちもキャンピングカーのありがたさを思い出してくれたようだな。君たちが子どもの頃はいつも喜んでキャンプに行っていたものだがなあ」
「ま、そうだったけどね。ところで、朝まで避難していたの?」
「夜半になって雨がやんでしまうと、もう大丈夫じゃないの?と真理奈が言うから、ダメだ、雨があがった後でも水位が上昇する事だってあるんだ、とたしなめてキャンピングカーの中で横になったまま、2時間くらいは様子を見ていたよ」
「ふうん。それはそうだよね。雨が止んだ後でも水位の上昇の可能性はあるもんね」
「由理奈もそう思うだろう?」
「うん」
「でもな、真理奈はどうも楽天的なのさ」
「それは分かる。慎重さが足りないよね、お姉ちゃんは」
「そうなんだ。だから、あえて避難所の駐車場にとどまっていたんだ。本当は、川の水位にもまだ余裕があったし、多分もう大丈夫だろうと思ってはいたんだけどな」
「そうだったの。でも何にもなくて良かったね、おとう」
「ああ、今回はな。でも、次は分からないぞ」
「え、そうなの?」
「今回、どこまで水位が上がったか調べて分かったんだけど、やはり、ここへ住み始めてから20年くらいだけど、初めての事だったよ」
「でも、まだ余裕はあったんでしょ?」
「ああ、家の近くの堤防は余裕あったけど、テレビで中継していた上流のほうの橋では、もういっぱいいっぱいだったな。実際、川の水が跳ね上がって道路の上にかなりかかっていたぞ」
「そうか」
「それに、多摩川に合流した後の下流の橋は破損して、通行止めになっただろ」
「え、そうだったの」
「あれは、危ないな。当分復旧できないんじゃないかな」
「困るね」
「まあ、もう一本の橋が近くにあるから、車の流れとしては何とかなるんじゃないかとは思うけどな」
「そうか」
「それにしても、東日本がここまで被害を受けるのは例がないよ。お父さんとしては、これは気候の変化が原因だと思うんだ。それが単なる周期的な変化なのか、地球温暖化がもたらしている異常気象なのかはまだ分からないけれど」
「という事は、やはり、週休4日が地球を救う!となるわけ?」
「まあ、そう結論を急ぐなよ。最終的にはそうなるんだけど」
「やっぱ、そうじゃん、おとう」
「いや、まあ、そうなんだけど、ちょっと待て」
「なに?」
「いいか、世間ではあまり断定的な話はされていないんだけれど、どう見てもこの数十年の中で東日本でこんなに激しい雨が続く事はなかったよ。実際、こんなに酷い被害もなかった。だから、もっと過去を調べて、いつ以来の事なのか、どのくらいの規模の事なのか、をつまびらかにした方がいいと思うんだ」
「それが、千曲川の話、江戸時代の?」
「そうだ」
「1742年だったよね、確か」
「おお、良く覚えているな、由理奈」
「天才だからね(笑)」
「ま、天才ではないと思うけど(笑)、いずれにしても300年近く前の話だよ。それ以来、今回までこんな規模の雨はなかったのかも知れない。よくよく調べないと分からないけど」
「調べるの、大変なの?」
「ま、ネットでみた限りでは、それ以上の情報がないから、それほど目立った水害はなかったんだろうけど、時間ごとの降雨量とか定量的なデータはないだろうなあ」
「そうだね」
「でも、まあ、もう少し、マスコミも、最近の異常気象による大雨被害を 
“CO2排出増加による地球温暖化が引き起こした人災?” 
みたいな言い方で、世論に火をつけた方がいいんじゃないかって思うんだ」
「人災か・・」
「おかしいと思わないか? ここ何年かは、雨の降り方が尋常じゃない。台風の威力も尋常じゃない。どれも、ここ数十年などと比べて温暖化が影響しているとしか思えないんだよ」
「そうかもね」
「今年の千曲川や阿武隈川の洪水、その前の岡山の洪水や広島の土砂崩れ等は、やはり、これまでにない降雨量がもたらしたんじゃないかと思うんだよ」
「でも、素人でしょ、おとうは」
「うん、思いっきりシロートだ。でも、この感覚は正しいように思うんだけどなあ」
「まあ、そうかもね。でも、本当にそうなら、もっとマスコミが騒ぐんじゃないの?」
「ああ、そう思うんだけど、どうしてなのかなあ。アメリカの大統領がそんなの関係ねえ、って言ってるからかなあ。なんか、都合の悪い事は隠したりごまかしたりしようとする体質がアメリカ以外にも蔓延しちゃってるのかなあ」
「そうかもね」
「原因がはっきりしていない事を言うと、すぐに因果関係は証明できるのか?だとか、フェイクニュースを流すな!だとか騒ぎ立てて、逆にこっちが悪いような事を言いだすからなあ」
「あれは、イヤな感じだよね」
「ベクトルが自分の利益だけに向いているとしか思えないよ。それに対して、尊敬できるのはドイツの首相だなあ。彼女だけは将来に目を向けて、自分の利益ではなく世界の幸せのために考えてくれている気がするよ」
「メルケルさんね」
「そう、自国優先主義の近視眼で自己チュウのおじさんに比べて、将来にわたる世界幸福を継続的に実現しようとする人たちの考え方こそ素晴らしいと共感するんだ、お父さんは」
「カッコいいぞ、おとう!」
「目先の経済を優先してしまい、本質的に大事な事を見分けられない人がどうして選ばれてしまうのか、不思議でならないよ。都合が悪いとウソをついたり、下手な芝居をしたりするしなあ・・・。ああいう卑怯者は徹底的に排除されたんだけどなあ、お父さんの子ども時代は・・・。あんなやり方支持されるわけないじゃないか・・・」
「みんな、生きていくので精一杯だからじゃないの?」
「それにしたって、おかしいよ。我々が分からないだけなんだろうか」
「なんかねえ・・・」
「なんかなあ・・・」
「・・・」
「・・・」

夜は更けていった。
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登場人物紹介

名前:由理奈(ゆりな)

誕生:2001年2月25日 東京生まれ 

2020年のステータス:大学生

趣味:キーパーを抜いてシュート

おとう(由理奈の父)

1957年 地方都市生まれ

海外在住歴10年(アメリカ6年、ドイツ4年)

現在は一人会社の社長

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