第2話 高校卒業までの私 ① Women’s soccer

文字数 1,627文字

 私の名前は由理奈。私たち一家は、都心を少し離れた街に暮らしている。適度に都会で適度に田舎だ。私も姉も通った小学校の近くには大きな川が流れ、鷺やカモや様々な鳥たちが飛び交っている。とりわけ美しいのは、カワセミである。あまり頻繁に見ることはできないが、青とオレンジの羽根が光り輝く姿を見つけた時には、その姿を一緒に見てもらいたくて “あっ、カワセミ!” と叫んでしまう。
 東京にもこんな自然があるんだなあ、と両親はいつも言うけれど、私にとってみれば、小さい頃から育った場所だから、ごく普通の事のように感じる。どちらかと言えば、こんな田舎にもすぐ近くに都会があるんだ、という感じだ。この街は静かで住みやすい気がする反面、都心から遠くて私には少し物足りない。

 父は都心の会社に勤務していたが、定年より少し前に早期退職をして自分の会社を作った。会社といっても一人だけだ。お掃除も会計も社長も全部自分でやる。しかも、本社は家の二階。でも仕事は大抵本社ではなく支援先の法人や、セミナーやワークショップをするサードプレイスだったりするので、帰りは遅く、平日はあまり話す時間もないけれど、休みの日は色々な事を話してくれる。
 父の話は、勉強のことだけではなくて、遊びや趣味のことなど多方面にわたっている。日本や世界の政治、経済、文化などの事もよく話してくれる。アメリカやドイツに住んでいた事もあるので、「日本の事だけを考えていてはダメだ。いつでも世界を基準に物事を考えなきゃいけないんだ」と言っている。姉が生まれたのもドイツらしい。姉、真理奈にはミドルネームがあってユリアというらしい。私の名前の由理奈にも似ている。私もミドルネームがあればカッコいいのになあ、などと帰国子女に憧れるけれど、私が生まれたのはこの家に住み始めてからだそうで、顔の作りも全く鼻の低い日本人仕様だ。ま、帰国子女だからといって鼻が高いわけではないだろうけど(笑)。

 私は6年生の時からサッカーを始めた。本当はもっと早く始めたら良かったかも知れないが、それまでは演劇や水泳、ピアノなど他の習い事をしていてサッカーに気づかなかった。というか自分ではどちらにしても気づかなかったのだが、母が近くに女子サッカーチームがある事に気づいたのが6年生の時だったのだ。なでしこジャパンが世界一になったのが2011年だったからその時にサッカーを習い事に加えようと気づいてくれていれば4年生から始めることができたのだが、ちょっと遅れた分だけ基礎が弱い。しかし、自分ではそれなりに頑張ってチームのレギュラーにはなれた。
 父は高校生までサッカー部に所属していたそうで、いちいちうるさい。私が引退する高校3年の夏までほとんどの試合に足を運んで、試合の後にはあのプレーは良かっただの、あのポジショニングは間違っているだの私を“指導”した。母親も二人して試合の応援が大好きで、ほぼ毎回観に来るものだから、チームメイトから、悪気は全くないのだが、今日も来てるね、というような事を言われて、なんだかカッコ悪い気がした。しかし、それも高校2年の秋くらいには、ま、しょうがないかな、くらいに思えてきて、次第に、応援してくれる両親にはいいプレーを見せて喜んで貰おうくらいの余裕が出てきていた。
 2年生後半の東京都高校女子サッカーリーグ戦では3部リーグながら結構いい成績で、2部昇格も狙えるところまでいったが、前半の惜敗のいくつかが響いて昇格はならなかった。しかし、私自身は大量得点をした試合もあったためにリーグ得点女王のタイトルを獲ることができた。3部リーグだからそれほどの事ではないのであるが、やはりタイトルは嬉しかった。学校の全校集会でも、チームMVPだった麻美子と二人で紹介され、とても誇らしい気持ちになった。それまで何かで一番になった事がなかった自分としては初めて自信らしい自信を感じた瞬間だったかも知れない。
 
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登場人物紹介

名前:由理奈(ゆりな)

誕生:2001年2月25日 東京生まれ 

2020年のステータス:大学生

趣味:キーパーを抜いてシュート

おとう(由理奈の父)

1957年 地方都市生まれ

海外在住歴10年(アメリカ6年、ドイツ4年)

現在は一人会社の社長

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