第10話 高校卒業と大学入学 Graduation and Entrance

文字数 2,038文字

 とうとう高校の卒業式を迎えた。3年前にこの都立高校の合格発表を見に来た時の事を思い出す。合格掲示板に受験番号を発見した時は、“はい、オッケー、すぐ入学手続きだ!”と事務室へ駈け込んでいったものだ。後で分かった事だが、自分の受験番号だと思いこんでいた番号は別の人の番号だった。4桁の番号の前にアルファベットがついていたのだが、私は勘違いしてアルファベットを確認しないままA蘭にあった番号を自分と信じ込んで事務手続きへと走った。結果的に自分の番号も合格掲示板のB蘭にあったのだが、おっちょこちょいもいいとこである。まあ、どちらにしても合格していたわけだから結果オーライではあったのだが、まさかの不合格だった場合は事務室で、“それ違う番号ですよ。不合格です”とか言われて恥かくところであった。あぶないあぶない・・・。
 さて、卒業式はみんな大泣きするのかな、などと思っていたところ、さっぱりしたもので、それぞれニコニコしたままで入場も退場も終えた。その後、昇降口の階段のところで写真を撮りあった。その階段は3年間上ったり下ったりしただけでなく、行事があるたびにみんなが記念撮影したり、たむろったりする、いい感じの階段で、シンデレラ階段と呼ばれていた。ここでみんなとワイワイやるのも今日が最後かなと思うと、少し感傷的な気持ちにもなったが、そこにいるほぼ全員が大学合格を決めていて、嬉しく希望にあふれた顔ばかりだった。温かい春の陽の中で4月からの生活を考えると、さあ次は寮生活だ、親から離れてようやく一人暮らしできる、と新しい日々が楽しく思えて仕方なかった。
長い間苦楽を共にした女子サッカー部の面々と記念撮影をし、仲の良かったクラスの子と自撮りをしたりして、卒業式を終えた。

 3月も末となり、いよいよ入学が近づいてきた。とうとう一人暮らしができると胸を躍らせて引っ越しの日を迎えた。

「由理奈、そろそろ行くよ」

 父の言葉が胸に響いて、いよいよこの家を出ていくのだと実感した。思えば、このキャンピングカーでは家族4人よく遊びに出かけたっけ。姉の真理奈が高校受験の年の夏休みは、父と二人だけで、海辺のキャンプサイトで何日か過ごしたっけ。あの時はまだ小学生だったなあ、などと少しばかりの感傷に耽る間もなく、車は寮に到着した。
 管理人さんに挨拶をして、荷物を部屋に運び込む。荷物といっても大したことはない。衣料品や日常品を詰め込んだ段ボール箱をいくつか運んだだけだ。あと、お布団と。
冷蔵庫もエアコンも備わった学生寮の部屋はまるでマンションの一室だった。快適そうである。この学生寮は私が入学する大学の学生だけが入れる寮で、海外からの留学生も数多く居住し、食堂に行けば留学生と交流する事ができるようだった。実際、私は留学生たちと仲良くなって面白く交流する事になったのだが、多くの日本人の寮生は特段留学生とつきあう訳ではなく、食事の時間にちょっと挨拶をしたり、決められた交流会の時にだけ海外留学生たちと少々話をする程度だった。
 私は、そもそも海外留学生と交流できるメリットがあるという事だったのでこの寮を選んだのであり、入寮後も積極的に様々な留学生たちと会話をするよう努めた。その甲斐あって5月か6月頃にはかなり仲のいい友達ができる事になった。
 入寮の時は、私の他に岩手県から来た女子学生も引っ越しのさ中で、初めて出会う同年生だった。寮の一時駐車場には父の車とともに岩手ナンバーの車がとまっていた。随分遠くから運転してきたんだなあ、と父は感慨深く言った。私たちといえば、1時間半程度のドライブだったから、申し訳ないほどだった。この学生寮は地方から来た学生がほとんどだったから、首都圏から首都圏へ移っただけの自分は、やはり申し訳ないような感じだった。
 その女子学生とは一緒に入学式に行くことになった。その後も時折食堂で一緒になったりして普通に仲良くしていたが、特別に仲良くなることはなかった。私はそれよりも海外から来た学生たちに興味があった。

 入学式はとてつもなく大きな会場で行われた。なんでも、キャンパス内にある大きな会場は今年に限って修理のため使用できないらしく、今年は学外の会場だった。両親も物見遊山で参加との事だったが、学生席と父兄の席は随分離れていて、何より参加者が数千人くらいいるようで、全く誰がどこにいるのか分からない状態だった。学長の祝辞のあと、色々な人がステージに立って挨拶をし、応援団のパフォーマンスや放送研究会のビデオ映像等をあっけにとられながら見ているうちに入学式は終了した。
まだ花冷えのする日で、港に近い記念撮影の場所は真新しいスーツの上にコートを身をまとった新入生とその家族たちで溢れかえっていた。寒いのを我慢して記念撮影をするための列に並んだ。同じ高校の出身者数人とともに記念撮影をしたあと、両親と別れ、寮へ戻った。

 いよいよ始まりだ。
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登場人物紹介

名前:由理奈(ゆりな)

誕生:2001年2月25日 東京生まれ 

2020年のステータス:大学生

趣味:キーパーを抜いてシュート

おとう(由理奈の父)

1957年 地方都市生まれ

海外在住歴10年(アメリカ6年、ドイツ4年)

現在は一人会社の社長

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