第7話 SDGs① Sustainable Development Goals 

文字数 2,869文字

「おとう、インドはすごかったよ。本当に牛が歩いてるんだよ、道路を。それに、物乞いの子どもたちが多くてさあ。貧富の差も激しいんだよ。日本とは大違いだった」
「そうか、それはいい経験ができたなあ。危ない事はなかったか?」
「うん、それは大丈夫だった。気を付けてたし」
「お腹は壊さなかったか? お父さんはインド出張4日目でやられちゃったけどな」
「そっちも大丈夫だった。メンバーのうち一人くらいはちょっとだけやばかったみたいだけど、殆ど誰もお腹壊さなかったみたい」
「そっか、それは良かった。欧米じゃない世界も面白いだろう」
「うん、衝撃の連続だったよ」
「SDGsの目標の話をしただろう、この前」
「うん」
「インドとか世界を知るとSDGsの話ももっと現実味を帯びて見えてくると思うんだ」
「うん。普通に教育を受けられない子どもとかを見ていると、本当にそう思ったよ」
「SDGsっていつまでに何をするかだっけ?」
「えっと、2015年から2030年までの間に、世界が持続可能な発展をできるようにするんだよね」
「そう、もう一つ大事な事は?」
「5つの大きな目標と17に細分化した目標と169のターゲットがあるって事?」
「ああ、それも勿論あるけど、まず大事なのは、世界の誰一人取り残されずに、ってところだ」
「あ、そうか」
「例えば、インドだ。どう思う?」
「うん、日本や先進国に比べて17の目標に達していない項目が多いよね。例えば教育。就学児童が昼間から物乞いしているでしょ。びっくりしたよ。貧富の差も大きいし、課題がまだ多いだろうから、世界のどの国も誰一人も取り残されずにっていうのを実現するのは難しいのかもね」
「そうだな。インドでもそんな感じだから、もっと発展が追い付いていない国は更に厳しいだろうな」
「アフリカの国とか?」
「そう。インドはBRICsの一国として新興国という位置づけだから、まだ進んでいる方だな」
「ねえ、17の目標って何だっけ?」
「あ、それなら、この前お父さんの勉強会で使ったパワポがあるから見てみるか?」
「うん。ねえこのパワポって全部おとうが作ったの?」
「ああ、そうだよ」
「すごいね」
「いや、結構ネットから引用してるからな。まとめるのは大変だったけど」
「ねえ、5つの大目標って5Pっていうんでしょ?」
「ああ」
「People, Prosperity, Planet, Peace, Partnershipだよね」
「すごいなあ、勉強したのか?」
「うん」
「人間、繁栄、地球環境、平和、パートナーシップって事だ」
「でね、インドでも考えたんだけど、平和とパートナーシップってうまくいってるのかなって」
「例えば?」
「最近さあ、テロとかすごいし、宗教対立的な事も多いでしょ。それと世界の分断って事も言われてるし」
「ああ、そうだなあ。各国では自国優先主義の政権が増えているしね」
「私、それってまずいんじゃないかと思う」
「何故?」
「だって、自国優先だと、他の国と対立しちゃうでしょ? 実際、アメリカとロシアとか、アメリカと中国とかやばいんじゃないの?」
「ああ、やばいかも知れない。でもね、政治の世界はそんなに単純じゃないんだ。実際には対立していると見えて、経済的にはお互いにすごく依存しあっているから、真っ向から対立しているわけではなかったりする」
「だったら、もっと仲良くすればいいのに」
「だから、そんなに単純じゃないんだよ」
「平和とパートナーシップが大切だと言ってるなら、武器も戦争もなくせばいいのにね。核兵器なんてもっての他じゃないの? おとうはどう思ってるの?」
「もちろん、そうなればいいと思ってるよ。でも、なかなか難しいんだよなあ」
「そうかなあ」
「由理奈は、例えば、サグラダ・ファミリアって知ってるかい?」
「えっと、世界遺産? スペインだっけ?」
「そう、バルセロナでいまだ建設中の教会さ。聖家族教会ともいう」
「それがどうしたの?」
「あれはアントニオ・ガウディが設計、建設を始めたんだけど、志なかばでこの世を去り、残った人達に完成までの仕事を託したんだ」
「まだできないの?」
「ああ、完成は2026年と言われている。最後にイエスの塔を造ったら完成さ。YouTubeに完成までのCG動画があるから見てみるといいよ。お父さんが訪れたのは確か1996年だったから、もう20年以上も前になるけど、その時よりも建築が進んで、姿かたちからは随分変わったよ。仕事のついでに寄らせてもらったんだけどね」
「いつから造っているの?」
「1882年からだから、産業革命が進んでいる頃だ」
「100年以上だね」
「ああ、何のためにガウディがこれを建てようとしたか分かるかい?」
「キリスト教を信じてたから?」
「ああ、もちろんそうなんだけど、その頃のスペインは工業生産が伸びて経済は発展していて、でも、それによって格差も大きくなってしまったんだ。弱者には不満がたまって、暴動やテロも起こって社会不安になったらしい。そこでガウディは富める者もそうでない者も誰にとって癒しの場となるような素晴らしい教会を建築しようと思ったそうだ。そこで寄付を募り、自分は私財の殆どを投げうって夢を実現しようとしたのさ」
「夢って、皆の平和って事だよね。すごい」
「そうだな。自分のためというよりも他者のためだからね。マズローの欲求5段階説の自己実現よりも更に先へ行ってるんだと思う」
「何それ?」
「あ、それは話がそれるから、また今度話すけど、偉大な信念と夢があったんだろうね。きっと」
「おとう、いいなあ、行ったんだ、サグラダ・ファミリアへ」
「ああ、上まで歩いて登ったぞ。その当時登れる一番高いところまで」
「行きたいなあ、私も」
「まあ、そのうちチャンスもあるだろ。でね、SDGsの話に戻るんだけど、世の中平和じゃなくちゃいけないと思うんだよ。平和が失われたからガウディはサグラダ・ファミリアを建てようと、考えたんだと思う」
「それでも、戦争はなくならなかったって事でしょ? だって、第2次世界大戦ってガウディが亡くなった後でしょ?」
「そう、ガウディが生きたのは1852年から1926年だからな。世界大戦の前にスペイン内戦も起こって、ガウディが残した設計図や模型、ガウディの構想に基づき弟子たちが作成した資料のほとんどが散逸したらしいよ。だから、今でもその当時の設計を想像しながら造っているんだけどね」
「世代を超えて皆で考えて造ってるんだ」
「そう、その点は素晴らしいけど、ポイントはガウディやそれに次ぐ世代の建築家が夢見る平和が将来にわたって守られるかって事かな」
「だとしたらさあ、自国優先主義の政権が跋扈するってのは不安だなあ私は」
「うん、お父さんもとても不安だよ」

インドの話からSDGsの話、サグラダ・ファミリアの話と拡散してしまったようだが、根源はどれも同じ話かも知れない。
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登場人物紹介

名前:由理奈(ゆりな)

誕生:2001年2月25日 東京生まれ 

2020年のステータス:大学生

趣味:キーパーを抜いてシュート

おとう(由理奈の父)

1957年 地方都市生まれ

海外在住歴10年(アメリカ6年、ドイツ4年)

現在は一人会社の社長

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