第1話   ギャラクシーレース

文字数 4,158文字

それは、どしゃ降りの雨の日の夜の事だったー。ザーザー滝のように降り続いている大雨の中、自動人形オートマドールが超高速で市街地を移動していた。雨がザーザー滝のように振り続けている。彼は濡れたアスファルトの上をスピードスケーターの様に滑走する。彼の足には直径30センチ程の巨大なローラーが取り付けられている。
「何でこんなに早いんだよ・・・」
 追っ手は、バイクの様な形状をしたマシン『 ファルコン』に乗って彼の背を追った。スピードメーターは既に120キロを超えている。
 彼はクルリと180度振り返ると両眼から赤いレーダー照射した。ハンターは車体軸をめいいっぱい左に傾け、ジグザグ走りかわした。レーダーは綺麗に弧を描き、模型の如く崩れ落ちていく。橋は崩れドミノ倒しとなり、河の藻屑となった。幸い深夜の誰もいないオフィス街だが、何処に人がいるか分からないー。ハンターは意を決してファルコンから彼にダイブした。ファルコンは駒の如くクルクル回転し、火花を散らして倒れた。自動人形オートマドールは急カーブをし橋の手すりに激突した。手すりは激しく婉曲した。ハンターと彼はそのまま手すりを乗り越え、川に落ちた。



ハンターと彼の身体は濁った深い川の底まで沈んでいき、そして浮上した。ハンターは渾身の力を込めて自動人形の頭を押さえつける。ハンターの額から冷や汗が滝のように流れ落ちている。自動人形オートマドールは打ち上げられた魚の様に口をパクパクしながら激しくもがいていた。ハンターは電気砲バズーカを構え、彼の額を狙うー。ハンターの体力は限界になっていた。すると、自動人形は両腕をぐるぐる曲げハンターの身体を締め付けた。雨は次第に強くなるー。
「ちっ、この九曜様によくもこんな真似を…」
電気砲バズーカのバッテリーも残り少ない。モタモタしてると切れてしまうー。
 九曜は意を決して力スキルを発動させたー。花火のような眩しい光線があたりを包み込んだ。自動人形オートマドールはガクガク小刻みに揺れている。自動人形オートマドールは、バチバチ音を立てながら動きを停止させた。
 青碧の川は不気味に静まり返り、ただそこにはひたすら雨に打たれる音だけが反響していた。
 今は23世紀ー。高度な技術の発展メカトロニクスにより、人工知能とロボット工学が普及していた。彼等は次第に高度な知能を持つようになり、そして自我が目覚めた。やがて彼等は独自の集落コロニーを造り、アンドロイドだけの巨大都市メガロポリスまで生まれた。彼等は独自の思想を持つようになり、その1部の高度な個体が化け物ビーストと化し、殺戮を繰返す事となった。人間の知性と探究心が破滅をもたらす様になるのである。

 そんな中、とある科学開発機関が奴ら《ビースト》に対抗すべく、極秘のやり方で優れた第六感と超人的な身体能力を持つ人間の開発に成功した。彼等は『 ジェネシス』と呼ばれる様になる。そして幼少期から過酷なトレーニングを積み、中には命を落とす者までいた。そして強者は生き残り大人になり、守護者ガーディアンとして人間達を守る立場になるのである。

 近年では、人間は急激な地球温暖化の影響により、年の大半は巨大なドームで生活するようになり、娯楽はバーチャル化するようになっていった。

 そんな中、『ギャラクシーレース』と呼ばれるゲームが流行していた。

 そのゲームは、俺達『 ジェネシス 』が超高速電動マシン『ファルコン』に乗って戦いながら競うゲームである。一般に人間達がやるバイク等のレースとは違い、相手にタックルしたり力スキルの発動をしたりと、何でも有りのゲームだ。平均で20~30キロの距離を走るのである。またこのマシンは人間が乗る大型バイクより一回り程大きく、平均時速150キロMAX350キロを誇る超高速電動マシンだ。このゲームは、一部の富裕層が娯楽として大金を注ぎ込み、賭け事に興じていのである。一回のゲームで一人当たり10万から30万ー、高くて百万単位のお金が流れ込むのである。
 九曜は子供の頃から異常だった。周囲から『 化け物』と恐れられていた。子供のうちは原付サイズのマシンに乗って練習するのだが、周りの皆は時速80キロのスピードに怖気付いてしまい、中には気絶してしまった者までいた。前途の通り重傷者までいたのだから仕方のないことである。その為、子供にそれをやらせるのは残酷な罰ゲーム《デス・ゲーム》に等しかったー。しかし、何故か彼には恐怖心など殆どなかった。100キロでも余裕に感じた程である。そんな彼は涼し気な顔で、残酷な罰ゲーム《デス・ゲーム》の課題を次々とクリアしていた。走ってる時は、湧き上がるマグマが湧き上がる様な熱く不思議な感覚を覚えるのである。しかし、その正体は何かは分からない。九曜は日々訓練を重ねる毎に世間では知らぬ者はいなく、ほぼ無敵な存在になった。そしてその噂を聞きつけたスコーピオンという名のスポンサーが目をかけ、世界中で彼の名は轟とどろいたのだった。

 そんな彼の本拠地(ホーム)が、森の都グリーンキャピタルである。その森の都グリーンキャピタルは、今や世界中の選手の憧れの街になりつつある。壮大なコースが縦横無尽に設置されてあり、そこの中央にコロッセオを連想させるかの様なデザインのメイン会場がある。ここは、メインレースが行われてるオリンポス競技場である。この様な感じの競技場は他に何百ヶ所かあるが、注目のレーサーが出る時や賭け事では主にここが使われているのだ。

 そんな中、とうとうそのレースの日が来てしまったー。『ギャラクシーレース 』だ。

 3日前の大仕事で、九曜は全身が鉛の様にだるかった。九曜はファルコンに乗ってトレーニング用コースでウォーミングアップを始めた。今日は快晴だ。無限に続く巨大都市メガロポリスが、眼下にそびえ立っている。街の至る所で全長350メートル程の風車が回転していた。郊外の田園地帯では原子炉があり、アンドロイドがひたすら作業をしていた。そのまた遠くには深い樹海に囲まれた山々が切り立ち、一望できるのだ。
 九曜はイヤホンをつけ音量を上げた。軽くハミングをし、ギアを全開にした。俺は頭の中でビートを刻んだ。疲れが一瞬で、風に吸い取られたかのように吹き飛んだ。俺はエクスタシーになり、時速100キロでコースを一回りした。
 練習を終え会場裏に着くと、会場内部から狼煙の音と、観客の歓喜の声が聞こえてきた。まるで夏祭りが始まるかの様な雰囲気に包まれてあある。
 会場は東京ドーム6個分の広さがあり、各エリアにそれぞれ巨大モニターが取り付けられている。コースの各地点や選手のメットに各カメラが備えられており、それがモニターと繋がっているのだ。その映像はランダムに流されており、観客はそれで大金を掛けるのである。



 会場内から、司会者が声を張り上げた。

「さぁ~、始まりました!2224年、第13回グリーンキャピタル賞金争奪戦、決勝戦の幕開けです!まずは選手の紹介ー累計獲得賞金、5億5千万円!!!フェニックス所属、期待のルーキー、大鳥#翔__カケル__#!!!」

 奥の暗い通路から、ファルコンに乗った大鳥カケルが悠然とやって来た。ここ数年で、成績がうなぎ登りの謎に満ちた若者だ。彼が会場に出ると、ファンの熱い声援が九曜の鼓膜を振動させた。
 九曜は彼を見る度にざわざわした物を感じていた。背こそは高いが、中性的で女みたいな顔立ちである。

「続きましてー、累計獲得賞金8億5千万円、スコーピオン所属、『雷帝』ー、九曜亘ー。」
会場中で何百もの声援が高々と響き渡るった。九曜はイヤホンを外し、再びビートを刻んだ。
「第三レーン、三澄亮!第四レーン、来栖#仁__ジン__#!第五レーン、日比谷#未来__ミライ__#!」
各有名な選手達が次々と会場に現れてきた。いつもの華やかな顔ぶれである。

「ではー皆さん、位置についてーレディーゴー」
合図とともに、各選手が飛び出した。
九曜は真っ先に飛び出し、傾斜角の鋭いコースへと差し掛かった。
ーと、黒い影が九曜の頭上を飛び越えたー。

ーコイツ、俺の上をー?ー

 咄嗟の事だった。九曜はえも言わぬ痺れた感覚を覚えた。その影の正体は大鳥だった。そして彼はは九曜の5メートル先に着地した。そしてその先の湾曲した道を華麗にカーブした。

ーふざけるなよ。ナメてるのかー?俺を誰だと思ってるんだ。ビートの九曜様だぞー

 すると大鳥は、猛スピードで滑走した。彼はジグザクした急公ばいのコースを突き進んだ。九曜は無我夢中で彼を追い猛タックルした。大鳥の車体は60度に傾いた。そして二人のファルコンの道筋から、バチバチ火の粉が線を描いている。すると大鳥は右腕がジグザグに変形した。彼の右腕はカチカチ音を立てると、九曜の車体が急に前に傾きスピードを緩めた。

ー何なんだ!?どうなってるんだ?一体?ー

 目を凝らして見ると、彼の右腕からワイヤーのような物が露出していたー。そのワイヤーの素材は磁石から出来ているのだろうかー?大鳥に近付こうにもバリアのような物が張り巡らされており、その強い力に弾き返されるのである。
 ジェネシスは、それぞれ固有の力スキルを有している。しかしその力スキルはレース中には滅多に披露することは無いのだ。その力スキルを使うと体力の消耗が激しくなり、成れの果ては命を落とし化け物ビーストになると言われているからである。
 
 その時、司会者のキンキン声が会場全体に響き渡る。
「さぁ~、残りあと200メートルを切りました!賞金は一体誰の手に!?」
「ふざけるなよ!」
 九曜はギアを前回にし、全力で大鳥を睨みつけた。ファルコンは、猛スピードで会場に近づいていくー。九曜は依然として彼との距離を縮める事が出来ずに歯がゆい思いをしていた。

 そしてー、会場全体に張り上げた声のアナウンスが流れた。
「終了!!!」
ファンは再び熱い声を響かせていた。
「大鳥選手やりました!!賞金200万円です!!」
 彼はファルコンから降りると、観客席に向かって微笑みかけた。
「チッ・・・」
 九曜は全身が鉛のように重くどっと疲れた。彼は舌打ちしながら、ファルコンに乗りその場を後にしたのだった。
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