第31話    堕天使の羽    ④

文字数 4,217文字

茂みの向こうから、ワイヤーを携え田カケルが姿を現した。
リゲルはカケルをにらみつけ、両手両足を自在に変え、両腕を長く伸ばし長剣の様な形状に変形させた。そして両腕は如意棒の様に一瞬でカケル目掛けて伸びた。
 その時だった。リゲルの動きが急に停止し、ドライアイスの様にカチコチにカタマリ、強い冷気を放出した。リゲルはドライアイスの塊になった。リゲルの全身には、ワイヤーが巻きつけられていた。
「よくやったな。悪いな。面倒な役やらせて。お前は下がっていいぞ。」
カケルはワイヤーを強く引っ張ると、暗がりの向こうから姿を現した。
「…いや…でも。」
「お前には他に任せたい事があるんだ。」
カケルは青年に鍵とUSBメモリを手渡した。
「こ、コレは…?」
「例のコードが書き記されている。お前は早く日比谷の元に行ってくれ。モタモタすると、奴が再生する…!」
カケルは、青年に促した。青年は軽く頷くと、その場を後にした。

その衝撃で、男は奥へ弾き出された。
「やってられん。リゲル、先へ行くぞ!」
男はそう言い、アリスを抱きかかえるとその場を去った。


「やはり、貴様だったのかー?」
リゲルはカケルを睨みつけると、身体を再び液体化するとワイヤーをすり抜けようとした。
しかし、そのワイヤーは

「貴様ー、何を仕掛けたのだ!?」


「お前のその#幻術__イリュージョン__#は、もう見飽きたのだがな。」

カケルは

「お前は、元々はジェネシスだろ。しかも、その変身は見せかけ。身体を一旦透明化させ、幻術で泥の様に変身したように見せかけた。このワイヤーには、人には効かない。お前はVXではない。後天的にマシンになった、言わばお前は『ミレニアム』という存在だ。」



「ふん。その、証拠があるのか?」

「お前は、あの時、俺と戦った時一瞬、砂になった。しかし、それはお前の#力仕事__スキル__#からきたものだ。お前の一番の能力は変身ではない。#幻術__イリュージョン__#だ。#幻術__イリュージョン__#と変身を同時に見せていたんだ。お前は手足を器用に変形させ、そのどろどろに溶けた手足で自分の上半身を覆い、カメレオンの様に擬態し、周りを惑わせた。」


「ほほう、それは証拠になるのか?」

「元々のマシンには感情がほとんど備わってない。あるとしたら、プログラミングによっての反応だ。俺はお前のプログラミングを全て調べたが、そんなものはなかった。」


「ふん。だから何だと言うのだ。私の目的は、楽園の創設。お前と鬼ごっこをしている暇はない。これから閣下の元へいくのだ。」

リゲルはそう言うと、ワイヤーを溶かしカケルに背を向けた。

「俺は今までお前の殺してきた人を調べたんだ。そしたら人の心臓が綺麗に抉られていた。そこでおかしいと思ってお前の事を洗いざらい調べた。お前に殺された被害者は殆ど、マシンの造り主ばかりだ。しかも、俺と同じ宿敵の者ばかりー。#自動人形__オートマドール__#が人の心臓を欲する理由がない。彼らは元々は心臓に当たる核があるからな。」

カケルのその言葉にリゲルの瞳孔は僅かながらに小さくなったようだった。

「お前のいた時代は、#自動人形__オートマドール__#は、ソコまで精巧な造りにはなってなかった筈だ。精々乾電池といった所かー。」

「それはプログラミングで説明がつくー。」

「いいや。お前は知らないだろうが、アルカナを始めマシンを造るメーカーは誰もが人間を一番毛嫌いしていたからな。奴等の一番憎いものは人の臓器だ。生命らしさその物だ。だから、人の臓器を抉る様な事はマシンにはプログラミングしてない筈さ。彼等は、殺人マシンを造るのだから、辻褄が合わないんだ。」
「私が人であろうがなかろうが貴様に関係のない事だ。」
「お前は、人の心臓を食べるかなんかしたんだろー?お前、アルカナやVXに強く冷徹な憎しみを抱いているのだからなー。」
「お前の口を今ここで、断ち切る事ができるがな…。」
リゲルは、淡々と言い放つと、マグマの様に身体を紅くどろどろに変形させカケルに襲い掛かってくる‥

ー今だ!

カケルは予めリゲルに縛りつけてあったワイヤーを引っ張る。その、ワイヤーにはカケルの放つ電磁波がしこまれており、ワイヤーは花火の様にバチバチ音を立て、リゲルをぐるぐる巻に縛りつけた。
 リゲルは、両腕をマグマの様に紅く熱を帯び溶け出し、そのままワイヤーをどろどろに溶かした。



 地下の研究所では、ミライはマキナに縛られマネキンの様に未動きが取れない状態であった。

ミライは帯状の炎を放出すると、渾身の力でマキナの顔面目掛けて風を切るかのような強いパンチを浴びせた。マキナは竜巻の様な暴風と炎に包まれながら、動きを停止させた。
「思い出したくないのですか?今は、本来の力の6割程度しか発揮出来てないじゃないですか?」
マキナは朱色の炎に包まれるも、微動だにせずミライの首を締めている。
「貴方の目的は、分かってます。貴方の弱点は、この空間そのものが貴方の領域だから、それが仇となったのです。」
「はて…何を仰ってるのか皆目検討も、わかりませんね…」
「それは、今、分かりますよ。」
ミライはマキナの額に手を当てると目を朱色に光らせた。すると、マキナの身体にヒビが入った。
「貴方…まさか…?!」
マキナの身体のヒビの隙間から朱色の光が漏れ出した。その光は徐々に強くなり、マキナの身体はバリバリ音を立てて、そして粉々に粉砕された。

 ミライは荒い呼吸をすると、マキナの粉々になった身体にある部品を螺子ごと持ちだすと、その場を後にしたのだった。

リゲルは身体を一瞬で消した。
カケルは、リゲルの体内から漏れ出す僅かな電磁波の流れを慎重に読み取る。

ーちゃんと見るんだー!奴は元は人間だ。ジェネシスだ。胴体から頭部は変身できないー。それが突き止められれば、奴を取り押さえる事が出来るー!


リゲルは再び姿を現した。

ー今だ!

 カケルはワイヤーに熱を沢山取り入れ、全ての念を込めた。ワイヤーはバチバチと炸裂音を放ちながら青じろく眩い光を放った。リゲルは、青白い光に覆い尽くされた。


 男に抱きかかえられていた、アリスは突然、目を開いた。
「お、起きたか…?アリス…」
男はアリスを下ろした。
アリスは背中の羽を拡げ、再びドリルの様に激しく回転させた。当たりには竜巻の様な突風が巻き起こり、男は呆然と立ち尽くした。

『ジェネシスを#殲滅__せんめつ__#します。』

 アリスはそう言うと、目を紅く光らせた。そして、ジェット機のように元きた道をもどっていった。
 翼を全方向に拡げ、カケルとリゲル目掛けて無数の羽の矢を放出した。無数の矢はアリスの方に弾き返されるも、アリスは微動だにしなかった。
 リゲルは腕をマントの様に変形させると、その腕で無数の矢を弾き返した。
「もう、時間はないんだ。貴様はここで終わる。」
 リゲルはそう言い放つと、腕を剣の様に細長く硬化させカケルはの心臓目掛けて伸ばした。
 カケルは、リゲルを睨みつけると懐から剣を取り出すとそれを受け止めた。そして星の瞬くスピードで後方に身を置くと、剣を長く伸ばしリゲル目掛けて斬り込んで行った。するとリゲルは、突然消えた。ーいや、身体をカメレオンの様に透明に擬態したのだ。そして、リゲルを覆い尽くしていた炎が突然消えた。カケルはオーラの気配を探りながら、剣をひたすら振り回した。しかし、彼のオーラは時折途切れ、カケルは後方から殴られたり胸を貫かれそうになったー。そして、彼は宙に浮いた様な状態になり、ひたすら喉を抑えて、苦しそうにしていた。
 
 これがジェネシスからミレニアムへと変貌を遂げた化け物との戦闘能力の差である。

 アリスはその光景をじっと見つめながら、再び羽を拡げ矢を放つー。
 
その時、アリスの全身は朱色の炎で包まれた。 

アリスの背後には日比谷ミライがそこに立っていた。

「…リゲル・ロード…?」
ミライは遠くの方からカケルと、リゲルを見ていた。カケルは宙づりの様な状態で鉄の棒でしきりに振り回している様だが、ミライにははっきり分かった。
「リゲル・ロードが、そこにいる…?!」
ミライの全身に寒気がはしった。重苦しい邪悪なオーラに彼女は身動きが取れないでいた。

ー漆黒の冷徹な悪魔がそこにいる!


「3つ程、聞きたい事がある。」

「…」

「一つ目は、青木博士の居場所を知っているかと言う事ー。二つ目は、貴様と大鳥レイジとはどういう関係だったかと言う事ー。三つ目は、日比谷カノンに関する事ー。」

日比谷カノンと言う名前に、カケルは胸に重く鈍い棒に突き刺された感覚を覚えた。
「何で、お前が日比谷カノンの事を知ってるんだ…?」
彼の胸の動悸は昂ぶり始めた。
「貴様は、彼女と親しかった筈だろ。彼女は、閣下の弱みを握っていた筈なんだ。まあ、彼女は組織に洗脳されていたみたいだから、敵味方の判断が怪しいがな。」
「せ、洗脳…?どういう事だ…?やはり、お前は知っていたのか…?」
洗脳と言う言葉に、カケルはハッとした。彼はカノンに何処かしら違和感を感じていたのだ。しかし、その違和感は漠然としておりいまいち掴めないままであった。
「ほほう。貴様、分からなかったのか?あんなに親しく談笑していたじゃないか?」
リゲルは、明らかにわざと煽っているかのようだった。
 カケルは、リゲルのその淡々とした喋りにカチンと来て、オーラを纏い剣でリゲルに突き刺そうとした。彼は激昂したのだ。
 カケルはは自分のテリトリーに人を入れるのを好まない。それは、青木博士でも例外ではない。彼は、雑談を好まない。
彼にとって雑談とは、専ら情報交換の手段でしかない。彼はいつも周りと距離を置いていた。人との関わりを必要最小限に抑え、心理的な透明なフィールドの膜をはっていた。彼は人間を信じる事が出来ない。唯一信頼出来るのは、青木博士だけだ。
 カケルは表向きは爽やかで柔和な好青年なのだが、それはあくまで見せかけであり、心はドライアイスのようで冷たくカラカラに乾いていたのだ。一人でいる時に時折表す陰りは、彼の今までの過酷な人生の重みであるかのようであった。
 その自分のテリトリーにづかづか人が入る事が、どうしても許せないのだ。
「ふざけるなよ…!お前を今すぐここで抹殺してやる!」
カケルの眼光は鋭くなり青く光った、ーと、同時に彼の周囲にはは青い炎が強烈な熱波を放ちながら、覆い尽くしていたのだった。
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