第21話    カケルとミライ   ①

文字数 3,958文字

アストロンに連れて行かれたミライは、広い研究室で、月宮と対峙していた。
「1つ、条件を提示しようかー。」 
月宮は金属の骨格を剥き《むき》出しにし、微笑みながらミライに近づいてくる。
「条件って、何の事ですか?あなたは、何なんですか?私は何?…自分の過去がほとんど思い出せない…」
ミライは震えながら早口で喋ると、後付さりをした。ミライは再び深呼吸をすると、(スキル)を発動した。
「だから、何度も言わせないでくれ。」
月宮は涼し気な表情で、微動だにしない。ミライはゆっくり後退りをする。全身に冷や汗が滝のように(ほとばし)る。
 すると、強い電磁波が彼を包み込んだ。見慣れた青白い光が、彼を包み込んだのだ。
「…まさか、君は考えたね…いつの間に…」
月宮の動きは緩慢になると、マネキンのように動きを停止させていた。すると、いつの間にか月宮の周囲を見慣れたワイヤーが縛り尽くしていたのが見えた。

ー誰ー?

何処かで見たことのあるワイヤー。何処から繋がっているのだろうー?ミライは周囲をくまなく見回した。そして、強い電磁波で、月宮は動きを停止させた。
『日比谷さんー聞こえてますか?』
何処かで聞き覚えのある、青年の声が頭の中で響いてくるー。
「ーだ、誰ですか…?」
『大鳥カケルです。』
「…大鳥カケルー?」
『日比谷さん、これから扉を繋がります。僕の指示通りにして下さい。まずは外に出てくれますか?』
「え…?どうやってー?」
『僕の指示に従って下さい。この建物内は大体熟知しています。まず、非常口から出て下さい。』
ミライは透明なワイヤーはそこから繋がっていると、思われた。
 ミライはワイヤーを伝い薄暗い廊下に出ると、真っ直ぐ歩いた。しばらく歩くとそこから先は梯子が掛けられており、ミライはワイヤーの先を目指し慎重に梯子を降りた。足元は暗くて見えない。
 10メートル程降りると下の方から冷たい金属がミライの足をがっしり掴んだ。恐る恐る下方を見下ろすと赤い2つの眼が点滅いていた。VXだ。VXはミライを引きずり降ろすと、もう片方の手で未来の首を締め付けた。漆黒の頑丈な身体がカチカチ小刻みに動いている。組織でよく見るタイプのVXである。アストロンでもあるのだろうか?
 すると、後方から電磁波が、VXを包み込んだ。VXは火花を散らし動きが徐々に緩慢になっていき、そして動きを停止させた。振り向くとそこにはファルコンに乗った大鳥カケルが待機していた。
「後ろに乗って下さい。」 
カケルはミライにヘルメットを投げると、上着を手渡した。そしてミライがメットを被り上着を着ると、カケルはファルコンを発進させた。
 ファルコンは裏口をハイスピードで走ると市街地へと出た。そしてハイウェイをに入ると、グングンスピードを加速した。
 自分達の周りには豪勢なビル群が取り囲んでいた。無機質で冷たいビル群が自分を見下ろしている。
 ミライは頭がクラクラし、全身が汗だくになっていたー。この光景を見ると、不安を覚え、激しい動機と目眩がした。
「…すみません、スピード緩めてくれませんか?」
ミライの動機が激しくなってきた。
「どうかしましたか?」
カケルはミラーを確認すると、速度を緩めた。
 二人を乗せたファルコンは、巨大都市を疾走した。ミライは呼吸が段々荒くなる。ミライは視界を逸らすと深呼吸をし、恐る恐るカケルに尋ねる。
「あの…あなた、ジェネシスですよね?何でここに…?」
「僕の母は、この星の住民でした。父はガイアのジェネシスです。僕は幼少期にこの星で過ごしていました。」
カケルは淡々と話す。
「…もう一人のあなたは居ないんですか…?」
「殺されたみたいです。その頃この星は荒れ果てていました。」
その言葉に、ミライはピンときた。自分が幼少期に行った時もこの星は荒廃しており、マシンが暴徒化していたのだ。
「あなたはアストロンで生まれたんじゃないんですよね?」
「はい。僕の母はごく普通の人間で父が母をガイアに連れてきたんです。」
「あなた…昔、何処かで会いましたか?」
ミライは、デジャブを覚え、恐る恐るカケルに尋ねた。
 大鳥カケルー。つり上がった切れ長の二重に、筋の通った高い鼻ー。色白で亜麻色の髪ー。記憶の片隅に彼の顔がこびりついて離れないー。
「ええ、組織時代にー」
カケルは再びミラーを確認した。
「え、組織ですかー?」
すると、キーンという強い音が頭の中をこだました。昔、負傷した少年を抱きかかえたVXと自分は、カケルに似た少年とすれ違ったー。

 ファルコンは細い道に差し掛かると、コースを出て裏口に出た。すると、その先に直径1メートル位の光が見えた。ファルコンは、そのままのスピードで光の穴の中に飛び込んだ。


「…ここは、ガイアですか?」

ミライが目を開けると、青々とした見慣れた緑豊かな景色が視界前方に広がっていた。さっきまでの不気味で無機質な景色とは違っていた。
「…日比谷さん。お聞きしたいことがあるので、ウチの研究所まで来てくれませんか?」
「え、…何の用でしょうか?」

 ファルコンは市街地を走ると、ドーム型の建物の裏地に停車した。カケルは降車するとミライを建物の中に案内した。
 建物の中に入ると、青木博士が無言で立ち尽くしているのが見えた。
「博士?」
カケルが話しかけるも、博士はコーヒーカップを手にしたままピクリとも動かない。
「何、ふざけてるんだ?」
カケルは博士の顔を(のぞ)き込んだ。しかし博士は終始無言であり、動きを微動だにしない。
 すると後方からゾクゾクとし気配を感じてきた。何処かで感じたことのある重苦しい空気ー。ドライアイスのようなカラカラとした寒気が、カケルの全身を巡った。
 振り向くと、そこには黒いローブの男が杖を携え立っていたのだ。男は深々とフードを被っており、目元が分からない。ローブの右肩には落葉松模様の印が縫われていたのだ。ーかつて自分がいた組織の、『アルカナ』の人間である。
 すると、ミライが男の方までゆっくり歩み寄る。どうも様子がおかしい。
「成功しました。」
ミライは急に冷めた口調になった。
「よくやったミライ。月宮柊ニの様子はどうだったかな?」
ローブの男はゆっくり歩み寄る。
「特に問題はありませんが…少しばかり力が増大していたようですね。彼の右半身はやはり、金属でできていたようです。あと…彼の弱点ですが…電磁波の他に『銀の車輪』ですね。」
「なるほど。『銀の車輪』かー。それを探さねばなるまいな。」
男は腕組みするとニンマリほくそ笑んだ。高い鷲鼻(わしばな)ー。かつて見た顔である。彼は当時の面影を残したままである。彼もマシンなのだろうかー?
「ま、待て!お前、何しに来たんだ?日比谷もグルだったのか?」
カケルは頭が混乱していた。何でこのタイミングで組織の人間が姿を現すのだろうか?
「グルか…。これは聞き捨てならないな。私は何にも企んではいないがな…私は新しいマシンの開発を任されたのだ。実験して、何が悪い?」
男は軽く振り返り低く乾いた声を出すと、カケルを睨みつけた。
「お前…14年前、何でレイジを殺したんだ?」
カケルは男に詰め寄る。しかし男は淡々とあしらう。
「殺したー?それは彼が自害したからではないのか?」
「お前らがマシンに何かしたからなんだろ!あの時、メーターが基準値を超えていたぞ!」
カケルはパニックを起こしていた。ミライはコイツの犬で自分は手のひらでうまく転がされていたのだ。かけるの脳内は言葉に出来ない無数の怒りで支配していた。
「…メーター?なんの事だね。」
「とぼけるな!マシンの制御装置の事だよ!モーターと連結してあるだろ!」
カケルの声は徐々に荒々しくなっていく。
「それは、あのマシンが自らいじったのではないなかね?忘れたのかね?マシンには皆、自我があるのだよ。アイツらはずる賢い。さあ、そろそろ向かわねば。あの御方も待ちくたびれている頃だし。」
男は落ち着いた口調でそう言うと、指で光の円を描いた。その円は徐々に大きくなる。光の輪が直径1メートルの光の輪にそそくさと入っていった。
「…あの御方とは誰なんだ!?」
カケルの声は益々荒くなる。フードの男は軽く振り返り、カケルを無視するとミライを引き連れ、光の輪の中に入り消えてしまった。カケルが中に入ろうとしたタイミングで、輪が消失してしまったのだった。

 薄暗く寒い通路の中を、フードの男とミライはひたすら歩いていた。
 ーと、暗闇の向こうからカツカツと蟹の歩くような不思議な音が木霊してきた。不思議な音は徐々に大きくなり、暗闇の中から下半身がタコのようにうねうねと、上半身は海賊の様な姿をした音マシンが姿を現した。
「おまたせ致しました。閣下。日比谷から良い収穫を得てきました。」
フードの男とミライは、は丁寧にお辞儀をした。
「月宮柊ニのアジトに入れたか?」
閣下は、金属でできた鋏のような右手をカチカチならした。
「はい。彼の弱点も入手してきました。」
「御苦労。全ては上手く行ったのだな。」
「はい。計画通りです。あのビックウェーブに月宮とリゲルが出ることは前々から気づいてはいました。日比谷を使い、わざと奴らの手中に入り込めました。日比谷も『銀の泉』を注入され、向こうの情報を得ました。」
ローブの男は早口で話した。閣下に僅かながらに恐怖心があるのだ。時に粗暴で荒荒しい気性で、指で簡単に自分の同僚たちも殺してきた。自分がどのタイミングで殺されるのか分からない為、ハラハラしている。
「よろしい。向こうのマシンを大量に呼び寄せ蟻共の殺戮を開始せよ。そしてこれより『楽園』を創設する。」
「…かしこまりました。」
フードの男は、深々と丁寧にお辞儀をした。
閣下と通り過ぎ、しばらく歩いていくと遺体が散乱していたのが見えた。フードの男はゾッとし、歩く足を速めた。
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